劇場公開日 2024年6月7日

「のめり込んでしまってキツかった。」あんのこと NandSさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5のめり込んでしまってキツかった。

2024年8月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

前提として
・原案と思しき新聞記事は未読。
・入江悠の他監督作品は未視聴。

いやぁ、キツかった。

紛れもなくフィクションなのだが、インタビューとかドキュメンタリーのようなノンフィクションを観ていた感覚になる。どうやらカメラワークがこれに大きく影響しているようだ。
だからこそ観終わった後の疲れがひどい。

そしてもちろん、キャスト陣の演技力も影響している。エキストラの方も含めて皆さん素晴らしい。
特筆すべきは主演の河合優実さん。どこまでも"あん"として立っていた。気になって出演作品をチラリと観たけどスゴイなこの人。

佐藤二朗さん演じる多々羅には、人情味あふれる光の部分と、実際に描写されることのない陰の部分が、うまく心に突き刺さる。結論のない問題を提起させてくれる存在なのだ。しかも"あん"という存在を少しでも応援したくなる自分がいるからこそ、この問題は非常に深く突き刺さった。

そして稲垣吾郎さん演じる桐野。正直、物語としての立ち位置がイマイチ分からなかった存在。……だったのだが終盤でガラリと変わる。このキャラクターはこのために物語の中には居たんだな、と納得した。もちろん、モデルとなった人物が居るのだろうから存在意義に疑問を持っても仕方がないのだが、モヤモヤしていたためスッキリとした描き方は非常に良かった。

あと絶対に忘れられない母親役の河合青菜さん。この人が居なくてはここまで素晴らしい作品にはならなかったのだろう。色々と考察しがいのあるキャラクターだ。

桐野の描き方に通ずるが、脚本は(どこまでが実話なのか分からないが)、現実と想像の間をうまいこと擦り合わせて物語に創り上げている素晴らしいものだったと思う。
現実にこんな人が居たこと。パンデミック前にも後にも、幸運とも言える環境で過ごしている自分が知らなかった世界がすぐそばにあること。
そして問題提起と、祈りにも近い希望をあえて描いていたように感じる。

音楽も余計なことは一切せず、最小限に努めている。そこに日常を感じるのもまた素晴らしい。逆に挿入曲が流れた瞬間に、こちらの感情が大いに動く。

極端な言い方かもしれないが、映画館にわざわざ来て映画を観れる生活を送っている人にこそ観てほしい。そして少し議論したい。正解も結論も無いだろうが、それでも何か変わるものがあるはずだと思う。

あ、終始キツイ作品なのではなくて、少しづつあんが更生していく様子もあり、そこらへんは穏やかにかつ応援して観れるので安心してほしい。
だからこそ終盤がエグいのだが。

素晴らしい作品には違いないが、観るのには覚悟と体力が要る。そんな作品。でも今だからこそ観てほしい。

NandS