「空虚で、どちらにも転んでしまう存在感」あんのこと かみさんの映画レビュー(感想・評価)
空虚で、どちらにも転んでしまう存在感
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「あんのこと」というタイトルのように、杏自身でなく、杏に関わる周りの人がとらえた「あん」がテーマの映画とも受け取れる。
後半、少し説明しすぎなほどに杏の転落の背景を語る刑事、大袈裟に杏に感謝する隣人。これらの人がどこかチグハグで体温高めに描かれる一方、通り一遍な対応しかしないのが公務員、薬局の店員。人の関わり次第で主人公の運命はどちらにも転んでしまうことを冷静に描いているように思った。
肝心な主人公の感情はどこにあるのかあまり読み取れず、不安に感じた。勧められるまま几帳面に日記を付けたり、表情豊かにラーメンを食べたり。どこか危うさを感じる成長ぶりが、後半に暗転する。(それにしても支援施設の管理人を認識しているのになぜ大事なとき連絡しないのか、とは思った。)
よくある薬物中毒の再発、実家の呪縛。どちらも原因だろうが、主人公の内面は解釈の余地が大きい。もしかすると、ちゃんと育ててもらえなかった杏にとって、不意に訪れた「子育て」が自分の存在意義を確認するチャンスだったのたろうか。その子との別離が悲劇につながったのかと思うと、胸が詰まる。空っぽの人にとって、充実した日々は喪失の前触れにもなりうる。
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