アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家

劇場公開日:2024年6月21日

アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家

解説・あらすじ

ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが、戦後ドイツを代表する芸術家アンゼルム・キーファーの生涯と現在を追ったドキュメンタリー。

ヴェンダース監督と同じ1945年にドイツに生まれたアンゼルム・キーファーは、ナチスや戦争、神話を題材に、絵画、彫刻、建築など多彩な表現で作品を創造してきた。初期の創作活動では、ナチスの暗い歴史から目を背けようとする世論に反してナチス式の敬礼を揶揄する作品をつくるなどタブーに挑み、美術界から反発を受けながらも注目を集めた。71年からはフランスに拠点を移し、藁や生地を素材に歴史や哲学、詩、聖書の世界を創作。作品を通して戦後ドイツと「死」に向き合い、傷ついたものへの鎮魂を捧げ続けている。

ヴェンダース監督が2年の歳月をかけて完成させた本作は、3D&6Kで撮影を行い、絵画や建築が目の前に存在するかのような奥行きのある映像を表現している。アンゼルム・キーファー本人が出演するほか、再現ドラマとして息子ダニエル・キーファーが父の青年期を演じ、幼少期をヴェンダース監督の孫甥(兄弟姉妹の孫にあたる男性)アントン・ベンダースが演じる。

2023年製作/93分/ドイツ
原題または英題:Anselm
配給:アンプラグド
劇場公開日:2024年6月21日

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(C)2023, Road Movies, All rights reserved.

映画レビュー

4.0 【”存在の耐えられない軽さ。”今作は、戦後ドイツの屈折したアイデンティティを追求する芸術家、アンゼルム・キーファーの素顔にヴィム・ベンダース監督が迫った、知的好奇心を刺激するドキュメンタリーである。】

2025年6月28日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

驚く

斬新

<感想>

・結論から言えばとても面白いドキュメンタリーであった。
 アンゼルムの、特異な芸術を生み出す独特の方法。
 大きな鉄板に高所作業車を使いペンキを塗り付け、溶かした金属を垂らし絵画を造形して行く様。バーナーで炎を焼きつけて行く様。
 彼の工房は、巨大な廃工場である。
 そして、彼の生み出す芸術品。特に絵画は荒涼としている。荒れ果てた大地に僅かに草木が生えているような多数の絵。錆びた戦艦の模型。

・冒頭、映し出される彼の連作である”古代の女たち”が延々と映され、それは再びラストでも映される。その連関性。

・劇中、二度朗読されるパウル・ツェランの詩は、ドイツ語圏で”辺境”の立ち位置に在った彼と、アンゼルムの現代ドイツでの微妙な立ち位置を意味していると思われる。

・1960年代に物議を醸した、ドイツで禁止されているナチス式敬礼のポーズで自身を撮影した写真シリーズ「占領」に対するインタビューでも、アンゼルムはキッパリと語っている。
 ”ドイツでは1960年代、ナチスについての考察が薄れていたので、皆の顔の前に鏡を突き付けた。”と。
 実際に、1966年には元ナチス党員だったキージンガーが首相に就任しているし、この頃までドイツでは、旧ナチス党員に対し厳しい追及は国内では行われていなかったからである。

・故に、アンゼルムの芸術作品に対し、最初に高い評価を与えたのはアメリカである。母国では、アンゼルムはその表現方法が挑発とみなされ、彼はフランスへ活動拠点を移している。

■随分前から、ドイツではネオナチ、「ドイツ国民民主党」(NPD)など極右勢力が勢いを増し、且つパレスチナ問題で沈黙を強いられる状況に対し、アンゼルムはそれを”存在の耐えられない軽さ!”と激しく痛罵して来たのである。

<今作は、アンゼルムと同じ1945年生まれのヴィム・ベンダース監督が彼の芸術活動と創作の根源に迫った、知的好奇心を激しく刺激されるドキュメンタリーである。
 そして、現代の日本に対しても、アンゼルムとヴィム・ベンダース監督は、日本の民衆の前に今作を持って、鏡を突き付けているのではないかと、私は思ったのである。>

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NOBU

3.0 ドイツの敗戦が生んだ芸術家

2024年12月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

ドイツの戦後世代の芸術家を追ったドキュメンタリー+空想の映画。映像で紹介されるその作品も抽象度が高く、解釈しようと考えているとすぐに眠くなる。目が覚めたところで記憶に残ったのは戦後世代を代表する形でナチ式敬礼の写真を作品として発表したくだり。周りの人間たちがそれをなかったことのようにふるまうことへの問題提起ということだったと思うが、ふと思い出したのは太宰治が日本の敗戦直後に日本人が皇居遥拝をしなくなったことを批判していたこと。どちらも自分たちで熱狂し、しかし祭りから覚めた後はそれがなかったかの如く振る舞う人間の愚かしさを指摘しているように思えた。敗戦という傷ついた世界の芸術家ということか。その他、「存在と無」、「存在の耐えられない軽さ」という西洋哲学の単語が頭に残った。ただのドキュメンタリーではなく映画的な映像の美しさがあるところはさすが。

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FormosaMyu

未評価 知らぬ所に巨人は佇む

2024年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 戦後ドイツを代表する芸術家とされるアンゼルム・キーファーの作品と人物をヴィム・ヴェンダースが記録したドキュメンタリーです。
 美術に全く不案内な僕はこんな芸術家が居た事を全く知らなかったし、この映画で描かれるドキュメンタリーとドラマパートの境が分からなくなる事もあったし、これはアンゼルムの作品なのかヴェンダースの演出なのかが混乱もしたし、読み上げられる詩の意味も把握できなかったのですが、彼のどこか荒々しくも強い意志が感じられる巨大作品群の実物を無性に観たくなりました。不思議な魅力です。

 調べてみると、来春、京都二条城で展覧会があるのだとか。行ってみようかな。

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La Strada

3.5 キーファーという名は耳にしたことがあった

2024年8月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

アンゼルムという名前は知らなかったが、キーファーならば、何度か耳にしたことがあった。戦後のドイツを代表する芸術家で、その作品は、長大・重厚。テーマは深遠、ナチと戦争、神話、生と死。比較的よく知られた作品は、占領ー英雄的シンボル(1969)、マルガレーテ(1981)、内景(1981)、無名の画家へ(1983)、オシリスとイシス(1986-87)他、多数。

キーファーは、1982年、フランスのバルジャックに拠点をおいたが、2008年パリの郊外、クロワシー・ボーブールに移り住んだ。そこは、セーヌ河畔にあったラ・サマリテーヌ百貨店のかつての倉庫で、とてつもなく広く(3,300平米とか)、天井も高い。彼は、少なくとも3 メートルx4メートル以上ある巨大な作品の間を自転車で移動するが、そこは創作の現場であると同時に、彼の作品や素材の保管場所にもなっているようだった。

彼の青年時代は、息子のダニエル・キーファーが演じ、さらに幼少期は、何とヴェンダース監督のてっそん(甥孫)アントン・ヴェンダースだった。特に、アントン坊やは、キーファーと交錯する。ヴェンダース監督が作ったキーファー自身が出てくるドキュメンタリーだが、映画的な要素もあるわけ。

彼の人となりは、20世紀最大の芸術家である(と私が信じる)ピカソと比較すると良いかもしれない。二人とも身体が強く、ピカソは小柄だが、キーファーは(少なくとも79歳の今は)長身痩躯で、健康に恵まれている。キーファーが狭い何もない部屋のベッドに横たわり、幼い時を回想する場面では、毛布が似つかわしくないほどだ。ただ、ピカソの背後には、いつも女性の姿があったが、キーファーの日常に女性の影はない。ピカソは女性と出会う度に、そのスタイルを変えた(change)が、キーファーは変容する(transformation)。つまり、彼の作品には、変わらず、引き継がれてゆくものがある。倉庫の中はその象徴か。テーマは、それだけ重い。

二人とも、ありとあらゆる素材を試しているが、特にキーファーは、鉛と藁を好み、後者の時は、リフトに乗って、バーナーで焼き、助手が放水する。近年は、金箔も用いるようだ(来年、二条城で展覧会を行う背景か)。

ただ、彼は恐ろしいほどの勉強家で、倉庫には、よく整理された図書館がある。今、思い出しても、冒頭出てきた頭部の欠けた白いドレスは、モネの「緑衣の女性」を、ホワイト・キュービックの建築物は黒川紀章のカプセルタワーを、何度も出てくる向日葵はゴッホのそればかりでなく、映画の「ひまわり」で出てきた広大なウクライナのひまわり畑や墓地を思い出させる。何と言っても、映画の最後で出てくる構図は、キーファーとヴェンダースの心の中に、ドイツ人の故郷とも言えるC.D.フリードリヒが住み着いていることを思わせる。

私が一番見たいのは、10歳代のキーファーが奨学金をもらって、ゴッホの歩みの跡を辿った時に描いたと言われる300枚の絵。そこには彼の全てがあると思うから。来年の展覧会では、観ることは叶わぬだろうけれど。

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詠み人知らず

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