「設定は、最高だったが」ゴンドラ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
設定は、最高だったが
2008年、デジタルリマスター版で見たフランス映画「赤い風船」(1956年)を思い出した。あの映画でも、せりふは「Balloon」だけだったと思う。わずか35分の映画だけれど。
一方、この映画の素材は優れている。
シングル・スパンで支柱がない 1.7 km のロープウェイ。ジョージア(昔はグルジア)に実在する、地上では連絡の難しい村落を結んでいるようだ。谷を越えてゆくとき、村の景色は晴ればれと美しい。普段は、村人の足がわりとして使われている。
交走式だから、ゴンドラは途中で一回だけすれ違う。亡くなった父親の仕事を引き継いでゴンドラの乗務員を務めるイヴァは、ちょっとだけ先輩で同じく乗務員のニキと、このすれ違いを活かして仲良くなる。最初は敬礼しあう位だったが、やがてランチを交換したり、停留所でチェスを一手ずつ指したりするようになる。
二人は、その後ゴンドラをデコレーションし、お手製の楽器を弾く村人と、地上とゴンドラの間で演奏会が出来上がる。一番、面白かったのは、やはりテルミンか。どうやって操作しているのかは、よくわからなかったが、
ニキは、イヴァにこっそり肌を見せたりするが、ある一定以上、仲が深まることはなく、やがて別れがくることを知っている二人の、(私の大好きな)フランスのラテン系や移民系の映画によくある girlhood か。
一番、美しかったのは、夜のゴンドラで二人が開いたワイン・パーティ、さすがジョージアはワイン発祥の地だ。赤ワインがおいしそうだった。
だけど、ゴンドラをデコレーションするための資金は、一体どこから出たのだろう?それがはっきりしないと言うことは、この映画が一種のおとぎ話であることを意味するのではないか。お金をくすねるところもでてきた、そこまでは、ぎりぎり許せるとしても、やはり暴力は止めて欲しかった。映画人だったら誰でも、あの「赤い風船」は知っているはずなのに。そこが残念!