「母親の中で終わった出来事に固執する息子は、母親を地獄へと誘ってしまうのかもしれません」西湖畔(せいこはん)に生きる Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
母親の中で終わった出来事に固執する息子は、母親を地獄へと誘ってしまうのかもしれません
2024.10.16 字幕 京都シネマ
2023年の中国映画(115分、G)
マルチ商法にハマった母親を改心させようと奮闘する息子を描いたヒューマンドラマ
監督はグー・シャオガン
脚本はグオ・シュアン&グー・シャオガン
中国の古い言い伝え「目莲救母」が元ネタで、『秦岭四库全书』に所収されている「草木人间(2015年)」が原案となっている
原題は『草木人间』で「草と木の世界」、英題は『Dwelling by the West Lake』で「西湖の畔に住む」という意味
物語の舞台は、現代の中国・杭州市にある西湖のほとりにある町
茶摘みの出稼ぎをしているタイホア(ジャン・チンチン)は、夫・ホーシャン(劇中で登場なし)が音信不通になって10年になっていた
息子のムーリェン(ウー・レイ)は大学まで出たものの、まともな就職につけておらず、時折、母の手伝いをしていた
畑のオーナーのチェン(チェン・ジェンビン)は「うちで働かないか?」と言うものの、ムーリェンはこの仕事に魅力を感じてはいなかった
その後、ムーリェンはある健康センターにて老人相手の販売業を始めるものの、詐欺に近い内容だったためにさっさと辞めてしまう
その頃、タイホアはチェンの母から交際を認めないと追い出されていて、友人のジンラン(チェン・クン)とともに、彼女の弟ワンリー(ヤン・ナン)が関わっている販売業の説明会にいくことになった
説明会では、ワン・チン(ワン・ジアジャ)が参加者を鼓舞し、ワンリーが場を盛り上げた
だが、「これは詐欺だ!」と言って水を指す男(リャン・ロン)などもいて、その場は二人のフォローによって、さらなる深みを演出していくことになるのである
映画は、ポスタービジュアルのイメージと180度違う内容で、これでもかと言うぐらいに洗脳セミナーを再現していく
DTM&フラッシュの多用、人格崩壊を促す自己否定とその後の賞賛、役者による人情演技&演出なども相まって、かなり出来上がったグループに足を踏み入れたことがわかる
船上説明会のサポートをするチャン・ヨン(ジュ・ボザン)も、「叫ぶ男」も参加者のフリをしてバスに同乗していて、思い切った場面で再登場を果たしていた
最終的には騙されたことで自殺をする人も出たり、引き返せないところまで行ってしまったマネージャーもいたりする
だが、ワン・チンとマ・ワンシン・マネージャー(シュエ・ペン)は同じ人物に見えてしまうし、参加者も特徴的な5人ほどは覚えられるが、その後に「ちゃっかりと茶摘み仲間のおばちゃんたちがセミナーに入っていたり」と、かなり細かなところまで見ないと分かりづらいものがあった
物語にはさほど影響はないと思うが、人の顔を一瞬で覚えられない人からすると地獄の2時間になってしまうかもしれません
いずれにせよ、思いっきり故事の現代版なので、既視感がある内容かもしれない
母親を助けるために地獄に足を踏み入れるのだが、母親がそこに堕ちることになった理由がムーリェンの眼前に展開するシーンはかなり強烈だった
これは、最後に残った両親のどちらの名前を消すのかを選ばせるシーンだが、自分自身の考えで行動を起こさせているように錯覚させて行く
その選択が父親が生まれた時に選んだ木を切り倒すことになったり、最終的にその木を潜って山奥に行くなどのシーンはとても興味深い引用だったように思えた