西湖畔(せいこはん)に生きるのレビュー・感想・評価
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静けさと狂騒を併せ持った美しき怪作
鑑賞中に生じた感情を率直に表すなら、それは驚きと混乱だった。まずは静かな幕開けと同時に突きつけられるドローン撮影。これには度肝を抜かれたし、前作「春江水暖」と同様、水辺の絵画的美しさに留まらない、映画ならではの動的魅力を盛り込んだシャオガン監督の芸術性に圧倒される。かくもマクロ的な視点で観客を驚かせたかと思うと、その後、物語は一転して狂騒的なまでの世俗感へ。物静かな母親が劇的に変わりゆく心情と相貌をミクロ的に捉えたカメラワークは、今こうして思い出すだけでも胸のザワめきが止まらなくなるほどだ。本作は釈迦の弟子が地獄に落ちた母を救おうとする故事に着想を得ているらしいが、だとすればこの翻案的な展開は現代中国の生々しい投影なのだろうかと感じたりも。好き嫌いはあろうし、母の辿る運命はやや先が読めるという難はあるものの、前作とやや異なる境地へ野心的に踏み出した本作を、私は「怪作」にカテゴライズしたい。
面白映画
と最初に書いてあったんだけど、全く逆の、見ていていやになるような映画だった。面白映画って中国語でどんな意味なんだろう?
「西湖畔に生きる」という題名にも騙された感が強い。
オープニングだけ見て眠りに落ちて、最後15分くらい前で目覚めれば、とてもよい映画だと思ったかもしれない。
3の21乗で100億人を超えるので、どんなに上手い具合に親になっても20世代までしか行かないよな。
母親を演じたジアン・チンチンの狂気は必見
2021年外国映画ベストテンの第2位とした驚嘆の傑作「春江水暖 しゅんこうすいだん」のグー・シャオガン監督作。
釈迦の十大弟子のひとり・目連が地獄に堕ちた母を救う仏教故事「目連救母」に着想を得たとのこと。
高く連なる山々。
山腹に広がる茶畑。
そして川の対岸に立ち並ぶ高層ビル。
何千年という時を経ても変わることがない自然と泡の如く生まれては消える人間、あるいは建造物を対比する情景に激しく感動する第一章。
西湖のほとりに暮らす母と息子。父は10年前に失踪し、母が茶摘みをして息子を育て上げた。
母がマルチ商法に堕ちる第二章。母親を演じたジアン・チンチンの狂気は必見だが、それにしても長過ぎた。つら過ぎた。
マルチが作品の普遍性を低下させた。
そして短か過ぎる再生の第三章。
もっと癒して欲しかった。
歳とったせいか「映画は悲劇である」と言えなくなってきた😢
山水画の世界を味わう穏やかな映画と思いきや・・・・・・・
まずは中国映画もだいぶ様変わりしたなぁというのが第一印象!
山水画の哲学を追求した作品との事で、チャン・イーモウ作品のような中国の美しい原風景を描く作品と思いきや、これが大外れ↓
なんとテーマとなるのは違法ビジネス=マルチ商法の話とは・・・・・・・
目覚ましい経済発展を遂げる中国でも根源的な問題というものは日本と変わらないのだなぁと実感。
バブル経済が終焉を迎えようとする中国も数十年前の日本をそのまま繰り返していることを実感させられる1本!!
個人的には中国の田舎の長閑な原風景を描く作品の方がより中国を感じられ好きなのだが・・・・・・・!?
日本にもつながる点があるので見てわかりやすい作品。
今年380本目(合計1,472本目/今月(2024年10月度)31本目)。
※ (前期)今年237本目(合計1,329本目/今月(2024年6月度)37本目)。
※ お手洗いトラブル(扉が閉まらない)で最初の5分くらい抜けている部分があります。
最初こそ、中国のお茶の産地かいわゆる「山奥の田舎」が映し出されて、タイトルと関係はあるかは不明としてもいわゆるヒーリング映画かなとおもわせつつ、ここからいわゆるマルチ商法にはまっていく話に飛ぶのが、やや「突飛なところ」もあって、「わかりにくい」点はないのですが(いわゆるマルチ商法は日本でも問題視されているし、この映画でマルチ商法にはまったであろう理由については映画のストーリーから推知可能)、趣旨的におそらく後者の問題提起型の映画であろう点を考えれば、そちらにフォーカスを当てるべきだったのでは…とは思えます。
中国映画というと、放映前に突如「放映許可番号」と出てきたり、「中央のご意向」が強い映画が多い(実際には日本でも見られる作品はそういった事情からある程度は絞られてはいるんでしょうね)ところ、この映画は製作者の意図は微妙としても「国(行政)の言い分」は当然、結局のところ「マルチ商法はやめましょう」につきる部分があり、特に中国国内の政治や制度について批判している部分はほぼなく(まったくないわけではないが、許容範囲レベルだったのか)、中国映画としてはまぁ「大歓迎」的に「許可」された(上述の通り、正規の中国映画には放映許可番号というものがでてきてそれが表示される)のだろうといった、政治的思惑も見えないわけではないといったところではあります。
映画内ではいわゆる「マルチ商法」の制度の破綻の問題(マルチ商法がそのシステム上必ず破綻をきたすことは知られている通り)等に関する説明は少ないのですが(主にそれに熱中する行為それ自体が問題視されて描かれている)、普通に見ても理解できる範囲でしょうし、日本国内においてもいわゆる「マルチ商法」について「免疫」がない方(最近の10~20代の方だとあまりこの点表立って学習はしていない??。それより年上の方は実際に社会問題になったことを経験したことがあるので知っている方が多い)もいるので、不特定多数がこられる映画館ではよかったなといったところです。
一部、字幕抜けかなと思えた点などはあったものの、中国映画であり推測が容易につくことなども考慮して特段スコア上考慮しませんでした。迷ったらおすすめといったところです。
なかなかの力作で引き込まれて観ましたが、そもそも母親の自己肯定感の...
なかなかの力作で引き込まれて観ましたが、そもそも母親の自己肯定感の低さが何からきてるのか分からないのがどうも食い足りないかな。
ビギナーズラック?
春江水暖が良かったので、本作も期待したが、殆ど刺さらなかった。70歳男性ですが、大学1年生の時、ネズミ講(当時は、マルチレベルマーケティングと称した)に誘われ、少し手を出した経験があります。商品はBP (British Petrolium)のモーターオイルとオイル交換器でした。虎ノ門のダイヤモンドビルの説明会では、自称明治大学4年生の男性が皆の前で、アタッシュケース一杯の万札を披露し、MLMに参加して子供を二人作れば、後はその子供達が孫、ひ孫…を増やしていくので、直ぐに現金が増えて行くと言う謳い文句でした。しかし、私は始めて直ぐに、コレでは親族、友人達からの信頼を失う事に気付き、手を引きました。なので、本作では、その箇所は肌感覚で伝わって来ました。
母親の中で終わった出来事に固執する息子は、母親を地獄へと誘ってしまうのかもしれません
2024.10.16 字幕 京都シネマ
2023年の中国映画(115分、G)
マルチ商法にハマった母親を改心させようと奮闘する息子を描いたヒューマンドラマ
監督はグー・シャオガン
脚本はグオ・シュアン&グー・シャオガン
中国の古い言い伝え「目莲救母」が元ネタで、『秦岭四库全书』に所収されている「草木人间(2015年)」が原案となっている
原題は『草木人间』で「草と木の世界」、英題は『Dwelling by the West Lake』で「西湖の畔に住む」という意味
物語の舞台は、現代の中国・杭州市にある西湖のほとりにある町
茶摘みの出稼ぎをしているタイホア(ジャン・チンチン)は、夫・ホーシャン(劇中で登場なし)が音信不通になって10年になっていた
息子のムーリェン(ウー・レイ)は大学まで出たものの、まともな就職につけておらず、時折、母の手伝いをしていた
畑のオーナーのチェン(チェン・ジェンビン)は「うちで働かないか?」と言うものの、ムーリェンはこの仕事に魅力を感じてはいなかった
その後、ムーリェンはある健康センターにて老人相手の販売業を始めるものの、詐欺に近い内容だったためにさっさと辞めてしまう
その頃、タイホアはチェンの母から交際を認めないと追い出されていて、友人のジンラン(チェン・クン)とともに、彼女の弟ワンリー(ヤン・ナン)が関わっている販売業の説明会にいくことになった
説明会では、ワン・チン(ワン・ジアジャ)が参加者を鼓舞し、ワンリーが場を盛り上げた
だが、「これは詐欺だ!」と言って水を指す男(リャン・ロン)などもいて、その場は二人のフォローによって、さらなる深みを演出していくことになるのである
映画は、ポスタービジュアルのイメージと180度違う内容で、これでもかと言うぐらいに洗脳セミナーを再現していく
DTM&フラッシュの多用、人格崩壊を促す自己否定とその後の賞賛、役者による人情演技&演出なども相まって、かなり出来上がったグループに足を踏み入れたことがわかる
船上説明会のサポートをするチャン・ヨン(ジュ・ボザン)も、「叫ぶ男」も参加者のフリをしてバスに同乗していて、思い切った場面で再登場を果たしていた
最終的には騙されたことで自殺をする人も出たり、引き返せないところまで行ってしまったマネージャーもいたりする
だが、ワン・チンとマ・ワンシン・マネージャー(シュエ・ペン)は同じ人物に見えてしまうし、参加者も特徴的な5人ほどは覚えられるが、その後に「ちゃっかりと茶摘み仲間のおばちゃんたちがセミナーに入っていたり」と、かなり細かなところまで見ないと分かりづらいものがあった
物語にはさほど影響はないと思うが、人の顔を一瞬で覚えられない人からすると地獄の2時間になってしまうかもしれません
いずれにせよ、思いっきり故事の現代版なので、既視感がある内容かもしれない
母親を助けるために地獄に足を踏み入れるのだが、母親がそこに堕ちることになった理由がムーリェンの眼前に展開するシーンはかなり強烈だった
これは、最後に残った両親のどちらの名前を消すのかを選ばせるシーンだが、自分自身の考えで行動を起こさせているように錯覚させて行く
その選択が父親が生まれた時に選んだ木を切り倒すことになったり、最終的にその木を潜って山奥に行くなどのシーンはとても興味深い引用だったように思えた
現代中国の神話
2023年。グー・シャオガン監督。西湖のほとりで細々と暮らす母と息子。ふとしたことから母が地元の茶摘みからのけ者にされ、誘われて参加したセミナーにはまってしまう。自己啓発とマルチを組み合わせた組織にのめり込む母を息子は説得しようとするが、、、という話。
現代中国を舞台にしながらも描かれているのは俗世にまみれて堕落していく母親とそれを救おうとする信心深い息子の神話。「堕落」もやりすぎだし「救出」もやりすぎだが、神話なのだから仕方がないのかも。
悪くはないんだけど、
予告で観たもの以上に得るものがなくて残念。
強いて言うなら中国の山間が見られる特別感。
中国ドラマ『清越坊の女たち〜当家主母〜』で主役を張ってた蒋勤勤(ジアン・チンチン)がドラマでの役どころと一変したはっちゃけ哀れなるオバちゃんを演じてたのが観られて良かった💜
そして息子役の呉磊(ウー・レイ)がcuteで。
それくらい……かな😅
65点ぐらい。西湖畔の自然
地獄に堕ちた母を救おうとする仏教の話にインスパイアされたオリジナルストーリーだそうです。
中国にある西湖の畔で茶摘みをして暮らす母親と息子、母親は違法ビジネスに、のめり込んでいき…
西湖畔に住む動物や虫、美しい自然など、カメラで捉える目線が、純粋さ繊細さ優しさを感じさせます。
たぶん監督は、純粋で繊細で優しく知的な人なんだろうな…
映画スコアは、65点ぐらい。
西湖畔が美しかった。
まさに目蓮救母
冒頭のまだ薄暗い夜明けの茶畑のシーンが実に美しい。
母親が違法なマルチ商法にはまっていく様子は、まさに怪しい宗教に洗脳されていくのとそっくりだと思った。
仏教の「目蓮救母」をモチーフにしていると思われるが、息子が母を救うべくあえてマルチ商法の会社に乗り込んで、あたかもメンバーの一員のように振る舞い、母親を詐欺罪で警察に訴えたことを謝り(多分 不本意ながら)、母親が息子を抱擁し涙したが、思わず私ももらい泣きした。
マルチ商法が発覚した後、母親が気がおかしくなって、息子が治療のため山に母を背負って登った後に川で流されてしまったが、あの時母が見た虎はどういう意味だったのだろう。母の形相に虎がおじ気づいたのか、あるいは虎自体は彼女が見た幻だったのか。
最後に母親が恋人のチャンと一緒に湖を見てるシーンに救われた。
母親の狂いっぷりがすごかった
お盆の由来となった目連尊者の話を元にした映画だそうです。
お釈迦様の十大弟子の一人、目連尊者が神通力で亡くなった母親の姿を見たところ、母親は餓鬼道に落ちていた。なぜかというと、飢えた修行僧に「息子の目連に飲ませるから」という理由で水を分け与えなかったからだという。
なんとか母親を救いたい目連はお釈迦様に尋ねた。すると、お釈迦様は「自分の力は母親のためだけに使うのではなく、同じ苦しみを持つすべての人を救う気持ちで使うように」と諭された。
目連尊者は修行僧たちに、食べ物や飲み物、寝床などを与えたところ、修行僧たちは大変喜び、餓鬼の世界まで話が伝わり、母親が救われた。
これくらいで餓鬼道に落ちるのかと思うとびっくりですが、一時が万事。常にこういう母親だったのかもしれませんね。目連尊者も母親を救いたい欲のために修行僧を助けたようにも見えますが、まあいいでしょう(偉そうに)。
この映画は牧歌的な茶畑から始まりますが、住み込みで働く貧しい母親タイホアが追い出されてからは、阿鼻叫喚のマルチ商法へと絵に描いたような転落をしていきます。
その対比が極端で驚きます。
息子ムーリエンはその会社の罪を暴くことで、母を救おうとするのですが、完全に洗脳されている母タイホアが怖すぎました。
叫びまくるタイホア。当初はお金儲けが目的だったにも関わらず、最後には「儲からなくても楽しい!!」と発狂します。
ムーリエンは優しいけれど頼りなく、なかなか自立できない青年でしたが、母親のために手を尽くします。
お国柄なのかどうか、日本でここまでしてくれるお子さんたちが果たしているかどうか、考えてしまいました。
私が足裏シート販売に狂ったら、息子は助けてくれるだろうか…なんだか見捨てられそうな気がしました。
終盤、幻想的なシーンに突入し、現実か夢か分からない世界に入っていきます。
深い山に分け入り、背負った母はムーリエンが転んでも目を覚まさないことから、もう息絶えているように見えました。
母親は傾倒していた団体がなくなり、ショックのあまり死亡したのではないかと想像しました。
そしてムーリエンは指を怪我して叫び、眠りから目覚め…彼もここで亡くなったのではないかと私は解釈。
死んだように動かなかった母が、その世界では起きていましたし、最後に、寺の門前で「父親を知っている人がいる」と僧侶から言われたのも、あの世だからでしょう(父は10年前に行方不明)。
そして、その時のムーリエンは坊主になっていました。
彼がそこで何か悟ったような、淋しげな表情を浮かべていたのが印象的でした。
多分、悲劇的なラストだったのではないかと思います。
夫は行方不明、新たな恋人との仲も裂かれ、住み込みの仕事も失い、絶望の中にいる中年女性。しかし、心優しい息子がいるのであれば、安易に金儲けを望まずに、彼のためにももう一度立ち直ってほしかったです。
精神状態がギリギリだったのかもしれませんね。
死ななければ元の母親に戻れなかった悲しさと、一蓮托生となってしまった息子の悲しい話だと思いました。
人によっては全く見方が違うかもしれませんね。
演出のせいで笑ってしまう
何の前情報もなく突発的に鑑賞。
物語序盤は山や茶畑、そこに住む虫や動物たちなどの美しい自然が舞台。主人公の母子も家族思いで、ああきっと心が洗われるような映画なんだと思いました。
しかし、お母さんがマルチ商法セミナーに参加して雰囲気が一変。金銭欲や承認欲求に振り回される人間の様子を嫌というほど見せつけられます。
文化の違いだと思いますが、全体的にセリフや演出がくどく感じられ、そのせいでシリアスなシーンなのについ笑ってしまいます(実際吹き出している人もちらほら)。
また、カメラアングルが高速でグルグルするので眩暈がします。劇場や大画面で見る人は要注意です。
くどい演出の影響で、人情物語ではなくコメディのように見てしまいました。
お母さん役と王晴(ワンチン)役の人が綺麗でした
奥行きがあり、思ったよりも難しい映画。
西湖のほとりの茶摘み農園で、季節労働者として働いて、自慢の一人息子を育てた母親が、あろうことかマルチ商法にはまってしまい、その母親を息子が身を挺して救おうとする物語。
最後に、山水映画の第二巻との文字が出た。山水映画となると、伝統と現実を対比していることは容易に想像がつく。両者を繋いでいるものの一つがマルチ商法であることも判ったが、元になっている中国の物語があるはずだ(仏教故事「目連救母」と知れた)。しかし、それだけでは、まだ何か足りない感じがしたのだ。
脚本・監督のグー・シャオガンは、取材でマルチ商法の現場を見たようだ。その時、商法の手法は先端的な中国企業の運営方針とも同じと気づいたのだろう。そうだ!この映画は、暗に現在の経済優先社会を批判しているのだと思われた。
判りやすいマルチ商法を前面に出すことで、真のメッセージがすぐに判らないようにしているのではないか。巧妙な筋立ての映画。中国では、土地の私有を禁ずることで、逆に土地を中心とした不動産に無尽蔵に価値を見出し、利用している。結果的には、どこかの国の都市部の不動産バブルと同じ。
母親は、マルチ商法に接して、何とも言えない高揚感をえる。自己実現を果たしたのだが、本人も経済的な代償を払わざるを得ない可能性は感じていた。マルチ商法の場合でも、末端では(失礼!)経済的な損失を被るのみで済むが、中枢に行って利益に近づけば、損害はそれだけでは終わらない。
それでは、息子は母親を必死になって救って、どこへ行こうとしたのか。息子が見出した帰るべきところは、自分の木があるところ。そこは豊富な水と自然、密林の王者によって、守られていた。
ただ、現実も生き抜く必要がある。息子が自分にとっての最適な仕事を探しながら、日々できることは、失踪した父親を捜すことだったのだろう。
では、この映画を観た我々は、成長が止まったこの国で、一体どうすればよいのか。目標も現実の過ごし方も必ず、見つかるはずだ!そのことに気づかせてくれた映画だった。
「植物人間」…ではないと思う。
中国の杭州・西湖を舞台に、経済格差に翻弄される母子の生き様を通して家族愛のあり方を見つめ直す現代ドラマ。
龍井茶の産地、西湖。神秘的なまでに深緑の原生林は人の営みである茶畑すらも、幼子を愛しむ慈母のようにやさしく包容する。
地元の人たちも、春には「山起こし」を皆で叫び、茶摘み歌を口ずさみながら仕事にいそしむ光景は、一見、昔と変わらぬ牧歌的な印象。
ここで働く主人公ムーリェン(目蓮)の母タイホァ(苔花)が仕事で被る笠も伝統的な竹編み笠だが、弁当箱と水筒はプラスチック製。
対岸には、超高層ビルが屹立する都市が広がり、経済発展の成果を誇る一方、社会主義国ではあってはならない筈の格差も顕在化している。
作品解説にもあるとおり、本作には日本でお盆の元にもなった仏教説話が主人公母子の関係を紡ぐ寓意として使われている。
主人公の名前ムーリェンとは、釈迦十大弟子の一人で「神通第一」と称された目蓮(モッガッラーナの音訳である目犍蓮の略称)のこと。
「神通(力)第一」とは、分かりやすく言えば、超能力の達人。
強欲ゆえに地獄に沈んだ亡き母を自らの超能力では救えなかった目蓮は、個有の能力(神通力)に頼らず仏法によって救うよう釈迦に諭され、母を救済する。
「目蓮救母」だけでなく、主人公の命名の理由にも、仏教(特に法華思想)の「如蓮華在水」が引用されているし、詐欺集団でマネージャーに昇格した際の報酬1080万元も、仏教で説く煩悩の数108に基づいている。
中国作品で宗教的モチーフというと仏教よりも儒教や道教が一般的だが、この作品では詐欺集団の会員教育を通じて道教へのアンチテーゼすら感じさせる。
ムーリェンは、詐欺商法の罠に嵌まった母タイホァを救うべく、SNSでバタフライ社の実態を暴き、スマホの機能を駆使して詐欺組織の摘発に一役買う。
SNSやスマホはまさに現代の神通力といえるが、全財産を失い精神を病んでしまった母を救うことは出来ない。
本来の「目蓮救母」と異なるのは、説話の救済が子から母への一方通行であるのに対し、作品では獣の咆哮に気付いたタイホァは逃げずに身を挺して我が子を庇おうとする(熊か狼が登場するかと思いきや、まさかアレとは…。さすが中国)。
ムーリェンが深淵に沈んだ母を救おうとする場面も含め、これらのシーンが現実かどうかは映画でははっきり示されない。
主人公の父親の消息も不明のまま、母子の存在を山水画の点景のように包み込んだ杭州の眺望で作品は完結する。
疑問の残るラストだが、母子の破綻を暗示するものではないだろうし、家族愛が他人の犠牲の上に成り立つべきものではないというメッセージも同時に感じさせる。
作品の原題は「草木人間」。
翻訳アプリを使って調べたら「植物人間」と日本語訳されたが、たぶん違うと思う。
人間はニンゲンではなく、ジンカン=世間、社会のことかと思うが、中国語が堪能な方は、どうかご教示を。
監督は長編映画二作目の俊英、グー・シャオガン(顧暁剛)。自身も近親者がマルチ商法の被害に遭ったことが、作品作りの動機なんだそう。
残念ながら、デビュー作の『春江水暖』は見逃してしまったが、みずみずしい翠緑を基調にした画面と、自然と文明の共生をテーマにした点は、ジャンルが異なるが『羅小黒戦記』に通ずるところも。
主人公の母タイホァを演じたのは、TVでの活躍が多いベテラン女優ジアン・チンチン(蒋勤勤)。
近作の『清越坊の女たち』は観ていないが、『海上牧雲記』での、息子や一族への執着から夫である皇帝を裏切る皇后役が印象的。
本作では自然体の主人公との対比なのか、くどい演技が目に付くが、素手で茶虫に触った役者魂には拍手。
主人公のムーリェン役は、時代劇から現代ドラマまで本国のTVで引っぱりダコの若手人気俳優ウー・レイ(呉磊)。
時代劇では、メヂカラ強いフィジカルな役が多く、『長歌行』で腹筋バキバキに鍛えて北方騎馬民族の王子役に臨んだ彼が、本作では一転、力の抜けた透明感溢れる新境地に挑んでいる。
スクリーンでの今後の活躍が大いに期待できる有望株。
本作で彼の魅力に気付いた方には、TVシリーズ『榔琊榜』をお薦めしたい。
国内外で大ヒットした作品自体も素晴らしいが、子役時代の彼が演じたハイパワー少年・飛龍の活躍も見所のひとつ。
【10/23 京都シネマにて二度目の観賞に伴い追記】
原題の『草木人間』は、作品冒頭、蘇軾(蘇東坡)の詩を引用する際に登場していたので、公式サイトで確認すると「人の世は自然の中にある」という意味なんだそう(最初からこっち調べりゃよかった)。
さらに、「草(=草かんむり)と木の間に人がいるのが茶という字」というグー・シャオガン監督の意図がタイトルに込められており、作品の舞台が龍井茶の産地であることを示唆しているとも。
監督の意図を尊重して原題どおりにしたかったが、翻訳アプリのような誤解を避けるために英語タイトルからの転訳にしたらしい。
一回目の鑑賞後にTVの無料放送でウー・レイ主演のドラマ『星漢燦爛』(BSイレブン)が放送開始。
ドラマと見較べると、本作でのピュアな演技や優しい眼差しに、彼の魅力とあらたな可能性への期待が膨らむ。
滝藤賢一さんがオススメされていたので
見どころはジアン・チンチンの演技と山水画のような田舎の美しい茶摘み風景かな。
マルチの高揚感はよく表現できてる。見下される惨めな存在でなく自立した女になれた(と錯覚できる)なら騙されてもかまわないという趣旨の言葉がとても印象的だった。
周りが止めても「推し」にあり得ないくらい金を注ぎ込む人も似たような心理なのかもしれない。夢が弾ける経緯は物足りなく惜しい。どこかで見た俳優と思ったらThree Kingdomsの曹操だ。
絵に描いたような勧誘手法
どこかで聞いたような見たような勧誘手法。
宗教にハマって貢ぎ破滅していくのと同じ構造ですね。
お金、幸せ、承認欲求などなど、欲がらみ。
強ければ強いほど洗脳されやすく、解けにくいのかな。
人のこと言えたがらではないが、身の丈と日々に感謝。
タイガーバーム?
原題は草木人間。
杭州の里山で茶摘みの仕事をしている苔花には離れて暮らす息子がいた。母の暮らす故郷に戻ってきた息子は高齢者向けの健康食品会社に勧誘される。そこの社長のチェンさんは美しい苔花と再婚したがっていた。チェンさんには老母と子供がいたが、二人が不埒な関係にあると母親に密告するおせっかいなババアのせいで、親しい同僚と茶摘をやめてしまってから、苔花はその同僚の弟が広告塔となっているマルチ商法にのめり込んでゆく。詐欺の手口のセミナー講師のオーバーな演技と描写がこれでもかと長々とつづく。思いっきり閉口。しつこい💢
西湖畔に生きるっていう邦題も詐欺じゃないの?
有楽町ヒューマントラストの平日は高齢者のお客さんで満員ということもあって、とてもいやーな気持ちに。
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