劇場公開日 2024年1月19日

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緑の夜 : 映画評論・批評

2024年1月16日更新

2024年1月19日より新宿武蔵野館、 ヒューマントラストシネマ有楽町、シネクイントほかにてロードショー

女性2人の逃亡劇を装ったプロテスト・ムービー

主人公のジン・シャは、韓国に移住した中国人女性。配偶者ビザ目当てで結婚した夫とは心が通わず、暴力によって服従させられている。もしも夫と別れるなら、永住権を得るために3500万ウォンの金が必要になる。このジン・シャの状況には、移民と家庭内暴力という2つの社会問題が反映されている。

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しかし、この映画が香港の製作であること、さらに、ジン・シャを演じるファン・ビンビンが中国共産党による脱税の追及によってキャリアと私生活をズタボロにされた人物であることを念頭に置くと、「社会問題」の意味合いが変わって見えてくる。

ジン・シャの夫を筆頭に、劇中に登場する男たちのキャラは1パターンだ。弱い立場の女性に強権をふるい、逆らう者に対しては「なかったことにしてやるから言うことを聞け」と頭から威圧する。そんな男たちを中国の象徴とみなし、男性に対して反旗を翻す女性たちを香港(とくに民主活動家)の象徴とみなすと、中国の支配と弾圧に対するプロテスト・ムービーに見えてくるのだ。それを裏付けるのが、プレス資料に掲載されたハン・シュアイ監督のコメント。「自由を得るためには、見えない何者かの許可を得る必要がある。この物語で、彼女たちの揺るぎない決意にもう一度触れ、あの顔の見えない何者かに立ち向かう勇気を手にしたい」と、作品にこめた願いを語っている。

ドラマの骨格は、恋人に逆らってドラッグを持ち逃げした緑の髪の女(イ・ジュヨン)と、3500万ウォンを得るべく彼女と行動を共にするジン・シャの逃亡劇。監督が「最初の草案が似ていた」と認めるとおり、女性2人の逃避行は、リドリー・スコット監督の「テルマ&ルイーズ」を彷彿させる。しかし、テルマ&ルイーズが人情肌の刑事に追われながら自由と解放に向かって突き進んでいくのに対し、緑の髪の女とジン・シャは、誰の追跡も受けない代わりに、いつのまにか元の場所へ戻ってしまうような堂々巡りの軌跡を描く。閉塞感漂う作品のニュアンスは、主人公の変化を主軸にしたロードムービーの「テルマ&ルイーズ」とは明らかに異なっている。

果たしてジン・シャたちは突破口をみつけ、人生の主導権を自分の手に取り戻すことができるのか? 賛否両論ありそうなエンディングは、その答えのひとつを提示している。

矢崎由紀子

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