「Why'd you have to go and make things so complicated? あっ、そういうリアリティラインの作品なんですね。」ボトムス 最底で最強?な私たち たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Why'd you have to go and make things so complicated? あっ、そういうリアリティラインの作品なんですね。
憧れのチアリーダーと付き合うため、女性限定の”ファイト・クラブ”を設立したレズビアンの女子高生2人が巻き起こす騒動を描いた学園コメディ。
王様のように振る舞う学園のクォーターバック、ジェフを演じるのは『シンデレラ』『パープル・ハート』のニコラス・ガリツィン。
…なんじゃこの映画っ!?
woke要素が色濃く出たガールズ・エンパワーメントな学園ドタバタコメディだと思っていたのだが、物語が進むにつれて暴走が加速。クライマックスではほとんど本宮ひろ志とか宮下あきらの世界に突入してしまう💦
正直、最初はこの映画のリアリティラインを上手く読み取る事が出来ておらず、ヘイゼルが教師を含む大勢の生徒の前でボコられるというあり得ない展開には「なんじゃこの映画っ!💢」なんて腹を立ててしまったものだが、最後まで観てしまえばあれも「まあこの世界ならそういうもんか…」で受け入れられるから不思議。
本作のプロデューサーである女優/映画監督のエリザベス・バンクスは『ピッチ・パーフェクト』シリーズ(2012-)も手掛けている。爽やかな青春コメディに見せかけておいて、その中身はかなり過激で下品だった『ピッチ・パーフェクト』。本作は確実にその遺伝子を受け継いでいる。
かなりの馬鹿馬鹿しさを有したコメディ映画だが、その中身は風刺と皮肉に満ちている。
クィア女子のシスターフッドもの。いかにもフェミニストやリベラリストが好みそうな題材だが、主人公2人の行動原理は可愛いあの子とヤりたいという不順極まりないものであり、また、彼女たちが結成するのは今ではインセル(ネット上の男性優位主義者)のバイブルと化した『ファイト・クラブ』(1999)を丸パクリした護身術クラブである。
これらの点は、女性やクィアの社会的地位向上をお題目としていながら、実際は自分たちの利益やミサンドリー(男性差別)のために行動するエセ活動家や偽善家に対するカウンターに他ならない。もちろん、最終的には多様性やフェミニズムへの賛歌としてこの物語は着地するのだが、そこに至るまでの道程はなかなかにパンキッシュであり、ただのバカ映画と一笑に伏することは出来ない知性と毒を持った映画であることは書き記しておきたい。
脚本/製作総指揮も務めた主演のレイチェル・セノットをはじめとした若手キャストの瑞々しい演技も見どころ。ジェフを演じたニコラス・ガリツィンは『アイデア・オブ・ユー 〜大人の愛が叶うまで〜』(2024)でアン・ハサウェイの相手役を務めるなど着実にスターの座を駆け上がっているが、その他のキャストも今後どんどん人気が出てきそう。特にヘイゼルを演じたルビー・クルーズはめちゃくちゃキュート🩷日本ではほぼ無名に近い彼女だが、数年のうちにその名を世間に轟かせる事になるでしょう。私が言うんだから間違いないっ!!
基本的には大変楽しんだのだが、肝心のファイト・クラブ活動の描写が薄っぺらいのは明らかな欠点。どんな活動内容だったのかいまいちよくわからないし、メンバー間の関係性も曖昧。メインキャラ以外はほぼモブなので、チームものの良さが引き出されていない。その点に関しては『ピッチ・パーフェクト』の方が上手くいっていると思う。
かなり尖った作品であり、それゆえに歪さも感じるし明らかに上手くいっていない点も見受けられるのだが、ブラック・コメディの滋味に溢れた異色作である。
アマプラ限定配信作品という事で知名度は低いのだが、間違いなく観る価値のある作品。クソみたいな放題がつけられているが、それに惑わされる事なく鑑賞してみてほしい。