「ファイトクラブつくろうぜ」ボトムス 最底で最強?な私たち 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ファイトクラブつくろうぜ

2023年12月2日
PCから投稿

PJとジェシーはふたりともレズビアンだが親友。おたがいにチアリーダーの子に欲情し、やりたいと思っているが、彼女らは映画タイトルどおりスクールカーストの底辺でうごめいているので、護身クラブをつくって気を惹こうとする。

フットボールチームのバイキングスが試合をひかえているハンティントン高校は、遠征試合先で選手をころしたり生徒をおかしたりするのでそのための護身クラブをつくった態(てい)にして頭の柔らかい顧問もつけた。

護身クラブは誤解されたまま盛況し、ジェシーはめでたくイザベル(かのじょはバイだったので)とやれたが、PJが欲情していた相手はストレートだった。

ガールフレンドのイザベルをとられたことに怒ったクオーターバックのジェフは護身クラブの秘密──たんにPJとジェシーがチアリーダーとやるためにつくったクラブであることを暴露し、クラブは分解、PJとジェシーも喧嘩別れする。

が、遠征試合直前に仲直りし、フットボールフィールドで護身クラブらがハンティントンの選手を殴る蹴るの肉弾戦になる。そんな中、ジェフが重篤なアレルギーを負っているパイナップルのジュースがスプリンクラーに仕込まれていることを発見し、ジェフを中毒殺害から救い、みんなから見直されてめでたしめでたしになる。

imdb6.9、RottenTomatoes91%と89%。

キャラクターも雰囲気もブックスマート(2020)ぽいが、もっと派手な乱痴気が繰り広げられる。とはいえソウルメイトとの喧嘩別れやブレックファストクラブみたいなところもあり、しっかりした学園ドラマの体裁を踏襲している。

カナダ人の監督Emma Seligmanはユダヤ教のコミュニティで育ち、それにもとづいたコメディShiva Baby(2020)で評価されたそうだ。

Shiva Babyで主役を演じたレイチェル・セノットがPJ役として再起用されている。レイチェル・セノットを見るとわかるとおり“とろん”とした所謂sleepy eyesで、この手のオフビートコメディに適任だった。

sleepy eyesはくっきりした二重とセットというかくっきりした二重でないとsleepy eyesにならない。昔ロバート・ミッチャムがsleepy eyesと言われた。ロバート・ミッチャムはコメディはやらなかったが殺人鬼はやった。sleepy eyesはコメディも殺人鬼もどちらも映える目だと言える。

相方のAyo Edebiriも活き活きとしていて、ブックスマートのケイトリン・デバーとビーニー・フェルドスタインしかり、キャラクターの愛嬌が命だと改めて思った映画だった。
つっこみどころを蹴飛ばす底抜けの明るさと楽しさ、ばかっぽさ。

しばしばばかっぽいと形容することがあるが、クリエイターサイドがばかではばかっぽさは醸せないと思う。
たとえば同じスラップスティックなムードをあつかったコメディといえど浦安鉄筋家族のクソつまんなさと物慣れたあっちの学園コメディはちがう。(牽強付会であって、いちいち関係ないものを引き合いにするなという話だがわかりやすい比較が必要だと感じた。)

Emma Seligmanのwikiには彼女がデビュー作であるShiva Babyで既にコメディへの理解とプロフェッショナルな映画製作を成就させていることにたいする批評家からの称賛があがっている。

コメディの理解にくわえてクイアに立脚することでEmma Seligmanの株が上がっている。これは先日レビューしたAftersunのCharlotte Wellsや、アニメ「ニモーナ」のND Stevensonにも言える。
きょうび、クリエイター資質とlgbtq界隈需要が重なると強いが、クリエイターがゲイやクイアなのは偶然だ。それでも映画Bottomsにはなんとなく、監督が女性だという感じがある。すなわち資質と性がしっかりと結束して主張している。有能な監督だと思った。

かつて21世紀の女の子(2019)という日本の女性映画監督をあつめたオムニバス映画をレビューしたことがある。「自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーが揺らいだ瞬間が映っていること」がテーマだったが、中身は実力はないけれど若い女性なので許してねという売り方をする日本らしい企画だった。

ここ数年のあいだに、若い女性だからゆるしてねという美術館女子とか何何女子という企画が(個人的な感じとしては)ことごとく消えたという気がする。おそらく有能で実力のある女性が世界に溢れ出てきて、恥ずかしくて企画化できなくなったのではあるまいか。

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津次郎