「支配欲の先にある手段を偏愛と呼ぶのかはわからない」熱のあとに Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
支配欲の先にある手段を偏愛と呼ぶのかはわからない
2024.2.7 アップリンク京都
2024年の日本映画(127分、PG12)
2019年の新宿ホスト殺人未遂事件に着想を得た偏愛に生きる女を描いたヒューマンドラマ
監督は山本英
脚本はイ・ナウォン
物語は、新宿のとある雑居ビルにて、ホストの隼人(水上恒司)を刺殺しようとする沙苗(橋本愛)が描かれてはじまる
うずくまる隼人を見下ろすようにタバコを蒸した沙苗だったが、その煙によってスプリンクラーが作動してしまう
だが、沙苗はそれに動じることもなく、不適な笑みを浮かべていた
それから6年後、沙苗は母・多美子(坂井真紀)に連れられて、佐々木(政修二郎)という銀行員とお見合いをすることになった
あるホテルのレストランエリアで会食をした後、佐々木は沙苗を連れ出して、「木を見に行こう」と言い出した
車中、佐々木は「自分は小泉健太(仲野太賀)で、佐々木の身代わりに来た」と告げる
健太は林業を営んでいて、銀行員とはほど遠い生活をしていた
結婚をするつもりはなかったが、半ば偽装のような形で、二人はコテージを改装して住み始めることになった
物語は、健太のあるクライアントが原因で沙苗に隼人への想いが再燃するという流れを汲み、その女・よしこ(木竜麻生)は隼人の妻だった
動揺した沙苗は気が気でなくなり、入水自殺をしようと試みるものの、健太に止められてしまう
健太は自分との結婚生活が「所詮、檻だった」と断罪し、「俺を殺したくなることがあったか?」と問いただす
だが、始めから沙苗にはそのような激情はなく、再び隼人の元へと消えてしまうのであった
実際の事件に着想を得ていて、相手を殺したいと思うほど愛するとはどう言うことか、を命題にしている
これ自体は面白い試みであると思うものの、肝心のドラマ部分で主人公二人の心の動きが理解不能な動きをしまくっている
沙苗は母親の建前で偽装結婚のつもりだったようだが、健太の方はどうやらそうでもないらしく、かと言って同居すればワンチャンあると言うタイプの軽さもない
結局のところ、二人の生活がどういう理由で始まり、どう言う経緯を経て、どのようにすれ違っていったのか、と言うのがほとんど脳内補完レベルになっていて、さすがに無理がある流れだろうと思った
健太が「自分を愛さない女と結婚した理由」もわからなければ、「沙苗は一度は隼人を忘れることができたのか」とかもわからない
そもそもが、再燃のきっかけとなったよしこの存在が謎で、彼女は偶然あの場所にいたのか、噂を聞きつけて近くにいたのかもよくわからない
おそらくは、偶然だと思われるが、それならばどうして「健太と結婚した」と見ず知らずの相手にいきなり言うのかは謎である
このあたりの展開が真っ直ぐではなく、疑問が多かったのが難点だと思った
いずれにせよ、室内のシーンの照明が結構暗めで、ミニシアターの映写機の関係かはわからないが、誰が映っているのかわからないシーンも多かった
人間関係も一緒に飲んでいたのが同僚なのか友人なのかもよくわからず、名前を呼ぶシーンが少ないので、誰が誰なのかも分かりづらい
沙苗の偏愛と健太の純愛を対比させたかったのかもしれないが、健太が沙苗を愛する流れがほとんど描かれないのは難点だと思う
この流れだと、「とりあえず檻に入ろう結婚」にしか見えないので、ガチな結婚を健太が考えていると言うのならば、その過程はきちんと描き、「俺は檻じゃない」という対比をじっくりと描いた方が良いと思う
ホスト事件が起点ではあるものの、偏愛と言っても独占欲が裏返っているだけなので、それだけで偏愛というのは弱すぎるのではないだろうか