「水の精」ナイアド その決意は海を越える 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
水の精
“海のエベレスト”と呼ばれるキューバ~フロリダ間の海峡。
海は酷く荒れ、天候も急変。サメや毒クラゲも多いという。
この海峡の遠泳達成はスイマーたちの夢であり悲願。
2013年、遂に達成者が現れた。
女性スイマーのダイアナ・ナイアド。
サメ除けケージを使わずに。しかも、この時60歳を過ぎてだ。
年齢は関係ない。幾つになっても挑戦し続ける。
人は何故山に登るのかの如く、人は何故前人未到に挑むのか。
それらを地で行く、実話に基づく偉業の映画化。
泳ぎが不得意な私にとってはまるで別次元の事。
時々そんな遠泳挑戦を耳にするが(その昔“ドーバー海峡横断部”とか今年の24時間テレビの琵琶湖横断リレーとか、どちらも挑んだウッチャンもスゲェ…)、私ゃとてもとても挑戦しようなんて思えない。よくやるねぇ…と他人事。ゴメンナサイ、泳げない事はないけどホントに泳ぎが苦手なので。
でも実際に挑む泳ぎのプロだって相当過酷。
強い波に揺られる。波酔い。
方向感覚も失う。
大量の海水を嫌でも飲む。塩水によって脱水症状。
長時間身体を水に浸すので、低温になり、身体中の皮膚もふやける。
海に浸っているとは言え、日焼けも。爛れた肌…。
サメも危険だが、もっと危険なのはより小型で半透明故目視出来ない毒クラゲ。刺されれば心身共にパニック状態。
何より体力とメンタル。
長時間泳ぎ切る体力は必須。
チームのサポートはある。が、実際海に入り泳ぐのは自分一人。その孤独に堪えられるか…?
そして常につきまとう命の危険。下手すりゃ死ぬかもしれない。
本当に、何故挑むのか…?
ダイアナにとっては唯一のやり残した事だった。
30年前にも一度挑戦。が、その時は失敗している。
有名スイマーとしてTV出演したり、数々の記録や挑戦を果たし名を馳せるが、唯一これだけ…。
そのままでいいのか…? やり残したままでいいのか…?
誰も未だ果たせない。しかしそれは、いつか果たされる。
もし誰かが果たしたら…? その時自分はどう思うか…?
悔しさしか残らないだろう。何故あの時挑まなかった…?
年齢? 周囲の声? 誰も出来ない事だから…? そんなのは言い訳に過ぎない。
自分の本心は…、挑みたいのだ。
確かに年齢は問題だ。が、元来スポーツウーマン。体力は取り戻せる。
昔と比べサポート面の技術も進んでいる。
変わらない事…いや、昔以上の事。精神面は衰えていない。
満を持しての“今”なのだ。
凄いの一言に尽きるダイアナ。
彼女とその偉業を体現したアネット・ベニングも称賛もの。
勿論アネット自身が実際に遠泳した訳ではないが、それでも泳ぎのシーンはアネット自身が。プロのスイマーでもないアネットの泳ぎっぷり、肉体改造でプロスイマーの身体に仕上げた渾身の役作りと熱演は必見!
そんなアネットの悲願。オスカーに手が届くか…?
これまで4度ノミネートされ、実力は申し分ないのだが、未だ届かず。(その内2度はヒラリー・スワンクに敗れている)
これで受賞したら実際のダイアナの姿と被って劇的で、熱演やキャリアからノミネートされても不思議ではないが、もうすでにノミネート有力者の名はちらほら挙がってきているので(エマ・ストーン、リリー・グラッドストーン、キャリー・マリガン、サンドラ・ヒュラー、マーゴット・ロビー、ケイリー・スピーニーetc)、果たして…?
挑戦は一人では達成出来ない。チームのサポートあってこそ。
コーチであり、理解者であり、支えであり、時に叱咤したり、ぶつかったり。親友のボニー。
彼女との関係は親友以上のものを超え、ナイアド自身は同性愛者らしく、そんな関係性も匂わせるが(昔一度デートしたとも)、終始パートナーに徹している。いや、“バディ”と言った方がしっくり来るかも。
ジョディ・フォスターも好演。アネットの熱演がインパクトあるが、ジョディの名助演の巧さも引き立つ。ジョディのノミネートもあっていいかも。
サポートチームの面々。サメ学者、ヘンテコマスクとスーツを作ったがクラゲの専門家、船長や口は悪いが海に関して詳しい航海士(リス・エヴァンスが好演)…ダイアナやボニーらと共に、彼らも織り成す。
監督コンビはドキュメンタリー出身で、劇映画はこれが初。
実話題材や実録映像も織り交ぜ、手腕を発揮。
30年ぶりに挑戦して、見事達成!
…そうすんなり行かなかった。
再挑戦は4度挑み、失敗。諸々の事情や悪条件やトラブルで。
今回もやはり無理なのか…?
再挑戦のきっかけは、母の死。その時見つけた詩集。
時折フラッシュバックされる少女時代に父から受けた虐待…。
屈しない。それらの積み重ねや“今”や仲間がいて。
そして5度目の挑戦。
足掛け34年。泳いだ距離177㎞。掛かった時間58時間…。
実話とは言え、遂に…。
いつか達成する事は分かっていたのかもしれない。
だって私は、
ナイアド=“水の精”だから。
エンディングの実録映像でご本人二人が脚色が過ぎると。では若いスイマーが挑戦したけどクラゲに懲りたからもうやらないと言ったというのは全部がまったくのフィクションでござるか?
Netflixで鑑賞ですね。
若いスイマーが挑戦して、クラゲに刺されてもう絶対やらないってテレビ言ったのをみて、喜びあう2人の場面でこちらもホッとして万歳しました。