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2024.1.11 アップリンク京都
2023年の日本映画(74分、G)
父の急逝に伴う実家の処分問題に関わる娘と、父の過去に接近した女性との邂逅を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は井上博貴
物語の舞台は、都内某所
大手出版社で働く茉莉(織田美織、幼少期:藤山千恵梨)は、多忙の中で父・弘泰(平田満)と時間を作って会うものの、その後の「休養期間」では、わざと時間を作らなかった
そんな折、父が死んだと聞かされた茉莉は、単身実家へと舞い戻る
母(朝加真由美)は男を作って出て行っていたが、どこからか遺産相続の話を聞きつけて茉莉にコンタクトを取ってきた
茉莉は実家を処分しようと不動産屋(木下卓也)と話を進めていたが、近所の住民・田川(宍戸美和公)から妙な話を聞いて、様子を見ることにした
その話は「父が若い女を連れ込んでいた」というもので、父の死後も頻繁に家の周りをうろついているという
そこで茉莉は、その女の正体を探るべく、遺品整理をしながら、女が現れるのを待っていた
その頃の茉莉は東京のレストランで働き、時間があるときは実家に帰るという暮らしをしていて、体力的にもキツい時期だった
店長の藤本(温水洋一)は「シフトの穴を埋めてくれないこと」を嘆き、厨房の青木(諏訪珠理)は態度が悪く非協力的
時間を作っては元同僚の親友・芽衣(北浦愛)と会うものの、彼女が紹介する同系列の会社にはなかなか食指が動かない状況だったのである
物語は、謎の女こと林陽子(金澤美穂)の正体が「元教え子」ということがわかりホッとするものの、彼女の夫・勇作(塩顕治)からは「既婚なのに足を運んでいる」と告げられて困惑する様子が描かれていく
陽子は夫のDVから逃げているのだが、世間的に見ても健全とは言い難い状況だった
だが、父が彼女に親身になるのは、茉莉との距離感によって生まれていて、それを突きつけられた茉莉は複雑な心境のもと、幼少期の父との思い出を振り返ることになるのである
映画では、父の幽霊が見えたために売却を戸惑う様子が描かれるが、幽霊というよりは幻影に近い印象がある
在りし日の父をそこに重ねているだけで、茉莉に対してアプローチをしたり、実家以外の場所に出てくることもない
物語はそこまで複雑なものではないが、少しずつ姿を現してくるシナリオの構成が面白くて、親友の存在とか、前職で起こったことがラストのサプライズになっているのも心地よい
74分という短めの物語であるものの、退屈せずに体感が長いという不思議な映画だったので、世の中には面白い見せ方があるのだなと思った
いずれにせよ、最終日に駆け込むという感じで、74分という短さに戸惑っていたが、なかなか内容の濃い作品だったと思う
空き家放置問題はさらっとしたもので、それが理由で実家の取り捨てを考えることはなかったりする
個人的には、茉莉と陽子がルームシェアする形になって、時間ができた時に実家に帰るというのでも悪くないと思った
維持費としての家賃を入れてもらって自由に過ごしてもらい、陽子の人生が変わった時にも対応はできる
そういった関係で「灯りを灯し続ける」というのも悪くはないのかなと感じた