52ヘルツのクジラたちのレビュー・感想・評価
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気になる点もあるが、それ以上に前半とラストが素晴らしい
原作未読です。気になる点から書きます。
・宮沢の演技が一辺倒。大声で叫ぶか、暴力でしか感情の表現がない
・志尊淳の過去写真がアイコラ感がすごい
・志尊淳から宮沢への行為は、そこまでするか?と感じてしまった。確かに自意識が高い嫌味な感じはあるが、社会的地位も、金銭的にも充分すぎる、外面もいい。その彼の全てを蹴落とすようなことは必要だったのだろうか、もう少し手順はあったのではないかと思う。過去を知らない宮沢からすれば、志尊に対する嫉妬は当たり前だし、多少牽制してしまう気持ちも分かる。結局、杉咲を精神的にも肉体的にも傷付ける男にはなるが、どう見ても志尊の行為が引き金である。杉咲も幸せだと志尊に伝えていて、今後も仲良く友人として付き合っていきたいと伝えている以上、余計なことをしている、むしろ志尊が宮沢に嫉妬している部分もあるように見えてしまう。
そのことがあり、どうしても志尊の結末には、純粋に涙することができなかった。宮沢から志尊への仕打ちも、やられたことを考えると仕方なく見えてしまった。
気になったのはそれぐらいで、あとは皆さんのコメントにもあるように、杉咲花の演技がちょっと引くぐらいすごかったです。杉咲さんの涙につられて泣いてしまいそうになる程でした。
脇役も皆さんいい味を出されている方ばかりで、魅力的なキャラが沢山いました。
何より素晴らしいのは、子役の演技でした。前半の虐待シーンでは胸が詰まりそうになりますし、ラストの愛君の笑顔や、楽しそうに皆と接する姿には、涙を流さずにはいれませんでした。
気になる点もありましたが、色々と考えさせられる点もあり、感情も動かされる、素晴らしい映画でした。あまり観ている方が初日から多くなかったので、是非沢山の方に観ていただきたい映画です。
誰かに聴かれたくなくて、52ヘルツを選んでいる人の方が多いように思える
2024.3.1 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(135分、G)
原作は町田そのこの同盟小説(中央公論新社)
虐待経験のある女性が虐待児を保護する中で過去を想起し、前向きに生きることを決意する様子を描いたヒューマンドラマ
監督は成島出
脚本は龍居由佳里
物語は、東京から海辺の町(ロケ地は大分県大分市他)に移住する三島貴瑚(杉咲花、幼少期:酒井杏寿)が描かれて始まる
旧友の土建屋・村中(金子大地)に住居の手入れをしてもらっていたが、町で噂されている内容を聞かされて困惑してしまう
貴瑚の祖母がこの家に男を連れ込んだなどの噂話が高齢者の間で広がっているというもので、貴瑚はそれを否定することもなく、あまり気にはしなかった
ある日、防波堤から海を眺めていた貴瑚は、かつて自分を助けてくれたアンさんこと岡田安吾(志尊淳)のことに想いを馳せる
彼から教えてもらった「52ヘルツのクジラの歌声」を聴いていたが、徐々に雲行きが怪しくなり、突然の大雨に見舞われてしまう
帰途に着こうと急ぐ貴瑚だったが、突然、腹部に激痛を感じて、その場に倒れ込んでしまう
そんな彼女を助けたのが、地元の少年(桑名桃李)だったが、彼はある理由で言葉を発することができなかったのである
村中から少年のことを聞いた貴瑚は、彼の母・琴美(西野七瀬)が働いている定食屋へと向かう
仕事終わりの琴美を捕まえた貴瑚だったが、琴美は「産みたくて産んだんじゃない」と言い放ち、「あの男がつけた名前なんか忘れた」という
そして、彼女が少年のことを「ムシ」と呼んでいたこともわかった
貴瑚は少年を保護することに決めたが、それは半ば誘拐に近いもので、その道が正しいかどうかは何とも言えなかったのである
物語は、そんな彼女の元に東京で再会した高校時代の友人・美晴(小野花梨)がやってくるところから動き出す
彼女は東京に恋人・鈴木匠(井上想良)を残して、仕事を辞めてこの地に来たという
そして彼女は、「アンさんと何があったの?」と貴瑚がこの場所に来た理由についてふれていくのである
映画は、美晴の言葉を起点した回想録になっているが、最終的に美晴はアンさんがどうなったかを知らずに終わる
アンさんとの出会い、美晴との再会、そして、その後に出会う新名主税(宮沢氷魚)との生活というものがメインになっていて、それらの想起の果てに、貴瑚の新しい生活が始まるという感じになっている
アンさんの手助けで父(奥瀬繁)の介護生活から抜け出すことができた貴瑚は、母・由紀(真飛聖)と離れて暮らすことになるものの、アンさんに感じた愛情を彼は受け入れることができずにいた
それによって、新しい職場の上司・新名との出会いと生活というものが始まるのだが、貴瑚の話に出てくるアンさんに興味を持った新名は会いたいと言って場を設けることになる
新名はアンさんが女性だと思っていたが、男性だったことから感情に火がつき、それによって険悪な雰囲気になってしまう
アンさんは新名が貴瑚を幸せにできると思えず、そして「ある行動」へと至ってしまうのである
映画は、52ヘルツのクジラに例えられるように、声をあげても届かないジレンマというものを描いていく
その声をどのように受け取るかという感度の問題になっているが、クジラが聞かれたくない歌なので52ヘルツで歌っているかもしれないという可能性には言及しない
これは、少年を助けたことによって、さらに状況が悪化している現実とリンクしていて、そこに関わるには相当な覚悟と配慮が必要であることを伝えてくれる
とは言うものの、声なき声に耳を傾けるにはどうしたら良いかと言う話ではなく、発信者がどうしたいかを決めなければ前には進めないと言う感じに描かれていた
少年の保護は母親の遺棄があるからできるのだが、少年を持つことで得られるような社会保障に目をつけて搾取すると言う親もいるので、今回の場合は知恵が回らない母親だったから問題にならなかった、と言う感じに結ばれていたように思えた
いずれにせよ、かなり重たい話で、アンさんのトランスジェンダー設定は映画からは意外とわかりにくい
生物学的女性がホルモン治療をして男性っぽくなっているのか、その逆なのかがわかりづらく、これが物語の展開におけるミステリー要素になっている部分もバランスが悪い
公式HPではトランスジェンダーであることを隠さずに公表しているが、映画内ではミステリー要素となっているので、この辺りが一貫していないように思えた
また、アンさんの苦悩は理解できても行動までは擁護しようがないので、アンさんが貴瑚を救いたいのならば、自分の全てを曝け出すだけの覚悟が必要だったのかな、と感じた
結局のところ、アンさんは貴瑚に自分のことは言えず、それは「言えば関係が壊れると思っているから」で、それは裏を返せば心から貴瑚を信用していないように見えてしまう
それゆえに、アンさんの52ヘルツが独りよがりに見えてしまうのが難点だったのだが、あの生活を受け入れている貴瑚がそれに気づけるとも思えないので、新名と会う前のあの瞬間が最後のチャンスだったのだろう
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