劇場公開日 2024年3月1日

「魂のつがいを求めて」52ヘルツのクジラたち bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0魂のつがいを求めて

2024年3月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

『2021年本屋大賞』を受賞した町田そのこの原作は、発売当時に既読。これを、人間味漂う作品を得意とする成島出監督が、感情移入できる演出で見事に映画化。トランス・ジェンダー問題や育児放棄からの児童虐待などの社会問題をテーマに、生への渇望を描いたヒューマン・ドラマとして、心を揺り動かされる作品。

毒親から虐待を受けた子供達が、頻繁にメディアで取り上げられるが、仕事柄、そうした子供達を児童相談所と連携して、保護してもらったこともある。虐待に耐え忍んで生きてきた子供達は、マインドコントロールによって、自己肯定感が劣化し、人を信頼することができなくなっている。そんな境遇の中にあった主人公・貴湖と、今まさに親から見捨てられた少年・通称52との心の支え合いが、胸に痛く染み渡る。

また一方で、生まれながらのトランスジェンダーによるマイノリティーとしての苦悩や葛藤の中で、愛する人を大切にするというのは、どんなことなのかも訴えかけてくる。

本作はそうした弱者にスポットライトを当て、声なき叫びを『52ヘルツのクジラ』に擬えて、生々しく描いている。その一方で、その声を聞き届け、地獄から這い上がるために、手を差し伸べてくれる人もいるが、日常を当たり前に生きている私達には、容易に聞き届けることはできない声なのかもしれない。

母親の再婚によって、親の愛情を受けることなく虐待され続け、大人になっても義父の介護で人生を棒に振ってきた貴湖。そんな中で、貴湖に手を差し伸べ、ようやくその呪縛から逃れさせてくれた安吾。貴湖は、次第に安吾に魅かれていくが、安吾は貴湖の気持ちを受け入れようとはしない。そんな時に貴湖が務める会社の御曹司が、貴湖の前現れ、恋に落ちるのだが…。

全編、暗いムードが漂い、社会の底辺を這いずりながらの展開に、心も沈んでいくのだが、最後に僅かな光明が差し込み、次への第一歩を後押ししてくれる、町田そのこらしさが溢れた作品となっている。

bunmei21
bunmei21さんのコメント
2024年3月2日

トミーさん(^^)アンの死は、確かに救われないものでしたね。隠し通さなくて済む社会の在り方を考えていかなければならないでのでしょう。

bunmei21
トミーさんのコメント
2024年3月2日

共感ありがとうございます。
不幸のつるべ打ちでしたが、一番救われないのはアンさんの所ですね。ここは具体的な救済策が現在ほとんど無いと思います、圧し潰されたとしか・・。

トミー
bunmei21さんのコメント
2024年3月2日

humさん(^^)町田作品の素晴らしさをしっかりと映像化していましたね。苦しみや葛藤の先には、きっと何かしらの希望が見えてくる、そんなメッセージが伝わってきました。

bunmei21
humさんのコメント
2024年3月2日

こんにちは。
ふたりのこれからの第一歩になるだろう〝僅かな光明〟を見届けられた終わりに気持ちが安まりました。人生のやり直しができることを諦めている人、必要な人にそのチャンスと勇気を知って欲しい。そして支える側の厚みと質の大切さに目を向けたい。そんなことを感じる作品でした。

hum