聖なるイチジクの種

劇場公開日:

解説・あらすじ

家の中で消えた銃をめぐって家庭内に疑心暗鬼が広がっていく様子をスリリングに描いたサスペンススリラー。2024年・第77回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞し、第97回アカデミー賞では国際長編映画賞にノミネートされるなど高い評価を獲得した。

「悪は存在せず」などで国際的に高く評価されながらも母国イランでは自作映画で政府を批判したとして複数の有罪判決を受けたモハマド・ラスロフ監督が、2022年に1人の女性の不審死をきっかけに起きた抗議運動を背景に、実際の映像も盛り込みながら描きだす。

テヘランで妻や2人の娘と暮らすイマンは20年にわたる勤勉さと愛国心を評価され、念願だった予審判事に昇進する。しかし仕事の内容は、反政府デモ逮捕者に不当な刑罰を下すための国家の下働きだった。報復の危険があるため家族を守る護身用の銃が国から支給されるが、ある日、家庭内でその銃が消えてしまう。当初はイマンの不始末による紛失と思われたが、次第に妻ナジメ、長女レズワン、次女サナの3人に疑惑の目が向けられるように。捜索が進むにつれて家族でさえ知らなかったそれぞれの顔が浮かびあがり、事態は思わぬ方向へと狂いはじめる。

2024年製作/167分/G/ドイツ・フランス・イラン合作
原題または英題:The Seed of the Sacred Fig
配給:ギャガ
劇場公開日:2025年2月14日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第97回 アカデミー賞(2025年)

ノミネート

国際長編映画賞  

第82回 ゴールデングローブ賞(2025年)

ノミネート

最優秀非英語映画賞  

第77回 カンヌ国際映画祭(2024年)

受賞

コンペティション部門
特別賞 モハマド・ラスロフ

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コンペティション部門
出品作品 モハマド・ラスロフ
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映画レビュー

4.0前後半の想像を絶する転調ぶりに震撼させられる

2025年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

かつて巨匠たちが創造性豊かな映画を作り出していた時代が幻想のように思えるほど、近年のイランは銀幕上で非常にキナ臭く映し出される。おそらく本作はその最高峰。167分と長丁場ではあるが、亡命したラスロフ監督にとってはその一分一秒が命と引き換えに獲得した貴重な時間の集積と言えよう。本当にこの国は誰が何のために戦っているのか理解しがたいところがある。それこそ「知らない」「わからない」は序盤において父の職業に対して向けられる言葉だが、中盤で不協和音が一気に高鳴ると、その全てが自己弁護のための切実な叫びに変わる。チェーホフさながらに不気味さの象徴たる銃の存在が際立つ一方、後半の家庭内ではまさにこの国の縮図のごとき超絶スリラーが展開。それに対し、未来を担うべき者はいかにして立ち向かうのか。その決死の転調と、撒かれた種が地を這って一斉に発芽するかのようなラストといい、息つく暇のないほどの緊張の連続だった。

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牛津厚信

4.0“妻と子を守るべき家長”が“異分子を抑圧する独裁者”に変わるとき。国家とのアナロジーを思う

2025年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

司法機関で勤勉に働く中年男性イマンが、昇進して調査官になる(さらに昇格すると判事になれる)。だが調査とは名ばかりで、反政府デモ逮捕者に不当な刑罰を下すための決裁を膨大に処理するのみ。市民から恨みを買う仕事のため、護身用の銃を支給されるが、これが自宅で行方不明になる。

イマンには妻と2人の娘がいる。家族を養い良い生活をさせることも、彼が働く動機になっていたはずだ。だが銃の紛失を契機に、家族の関係が大きく変わる。父は家族を疑い、猜疑心を募らせていく。娘たちがデモの現場で大けがをした友人を助けたことも、自身の愛国心と相容れない。紛失が発覚すれば出世がなくなるイマンは追い詰められ、犯人が誰かを白状させるため強硬手段に出る。

家族であれ国家であれ、“家”=共同体を構成する各個人は互いを尊重し、助け合い支え合うのが理想であり、リーダーはそうした理想の実現のため皆を導く存在のはず。だがいつしか、個々人を守ることよりも共同体の体制を維持することや体面を守ることが優先され、導くべき存在が独裁者に変貌する。イマンと家族たちの物語は、国民の自由を抑圧し異論を封殺する国家のアナロジーのように思えた。

各所で紹介、解説されているように、イランで反体制的な作品を作るのは文字通り命懸けの取り組みだ。167分という大長編ではあるが、イランの映画人たちの気概と願いを心して受け止めたい。

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高森 郁哉

5.0権力に対峙する人間の心の変貌

2025年3月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

前半は、価値観を強要する政府の権力に対する母娘の恐怖心が、
デモの暴動事件のSNS投稿動画、負傷者への対応などを通じて
家の中を主舞台にしながら増長していく様子が描かれる。

一転、後半はアクションあり、ホラーあり、サスペンスありの
エンタメ的な要素が満載の展開になるので楽しく、長めの上映時間は気にならない。

本映画は、置かれた状況から母娘の立場、視点を強く意識させられるが、
密かに変貌していく父イマンの姿がストーリー全体の幹となり、
それが枝葉のように母娘に絡まっていく様が面白い。

映像表現の趣向も全体に面白く、
長めのシャワー(水やり)、ヘアカット(伐採)のシーンなどは
父イマンがまさしくイチジクの木に乗っ取られつつあることを
比喩的に表現しているように思った。

実際のデモの映像が多く使われているので
政府批判的な要素を強く印象付けられるものの、
その最前線から一歩離れて対峙する一般市民、家族の
心の有り様や変化を描いている点で
より普遍に昇華しうる物語になっていると感じた。

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HK

3.0現代のイラン

2025年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ミステリーで、結末もこんなものかという感じで、やや冗長。ただ、「今のイランってこんな感じなの?」と国内事情を知るには良い映画でした。

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hanataro2

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