劇場公開日 2022年1月28日 PROMOTION

  • 予告編を見る

クレッシェンド 音楽の架け橋 : 特集

2022年1月24日更新

もし超仲が悪い2つの民族がオーケストラを組んだら…
よくある「音楽の力で争い解決」ではございません!
予想を裏切り、意外な結末へ向かう衝撃・感動の良作!

画像1

クラシック音楽に詳しいわけではないけれど、オーケストラや室内楽を扱った作品を好んで観る映画ファンは多いはず。楽曲の素晴らしさに加え、個性的な登場人物たちの織りなすドラマが笑いや感動を呼んで……といった具合に、音楽映画は私たちに豊かな映画体験を与えてくれる。

その一方で、物語の設定を聞いただけで「音楽の力で課題を乗り越える感動作」とだいたいの見当がついてしまう作品が多いのも“音楽映画あるある”と言えるかも。人気ジャンルゆえのハードルでもある。

そんななか、1月28日公開の「クレッシェンド 音楽の架け橋」は、一言でいえば“他とは違う音楽映画”である。世界最高峰の巨匠指揮者ダニエル・バレンボイムが率いる楽団の実話をベースに紡がれ、一筋縄ではいかない展開で衝撃と感動のラストへ向かっていく……。世界各国の映画祭で観客賞に輝いた本作の魅力を、じっくりと読み解いていく。


【予告編】世界が喝采! 実話から生まれた感動作

【ストーリー】深刻な分断が横たわるふたつの民族…
イスラエル人とパレスチナ人がオーケストラを結成する

画像2

本作は音楽映画としての魅力を存分に含みつつも、予想を裏切る衝撃の展開と、胸を打つ感動が丹念に込められた良作である。


[あらすじ]

世界的指揮者のエドゥアルト・スポルクは、深刻な対立が続くパレスチナとイスラエルの若者たちでオーケストラを編成し、平和を祈念するコンサートを開くというプロジェクトを引き受ける。

オーディションを経て、20人以上の若者たちが選ばれるが、彼らはパレスチナ陣営とイスラエル陣営に分かれて憎悪をぶつけ合い、衝突を繰り返す。

画像3

スポルクはそんな彼らを、南チロルでの21日間の合宿に連れ出す。若者たちは“セッション”を重ね、少しずつ歩み寄り、互いを理解し、心の壁を溶かしてゆく。

特にヨルダン川西岸からやってきたパレスチナ人のオマルとイスラエル人のシーラは民族を超えて、互いに惹かれ合っていく。そして迎えたコンサート前日。心をひとつに最後のリハーサルに臨む若者たちだったが、そこで予想だにしなかった事件が発生する……。


[各国で観客賞受賞]世界中の人々に突き刺さったメッセージ より素晴らしい映画を求める“あなた”にぴったりの良作

この作品が日本の映画ファンにも強くおすすめできる、そんな証拠をお伝えしよう。世界各国の映画祭で「観客賞」を受賞しているという点だ。

例えば2019 年の「ルートヴィヒスハーフェン ドイツ映画祭」では、“ラインの黄金”観客賞を受賞。同年の「ワルシャワ ユダヤ映画祭」、20年「ティーネック国際映画祭」、同じく20年「サンディエゴ ユダヤ映画祭」でも観客賞に輝いている。

画像4

映画人や評論家による批評ももちろん、映画の面白さを測る上で重要な要素だ。しかし“私たちとよく似た観客”の評価こそが、最も楽しめる確率が高いということは論をまたないだろう。

その点、本作は観客(しかも映画祭に足を運ぶ筋金入りの映画好き)が「一番面白かった」と票を投じたのである。この事実は強烈だ。良質な映画体験を求める人におすすめする上で、これ以上、説得力のある評価はないだろう。

さらに、後のレビューでも言及するが、繰り返し述べている「予想だにしない展開」は、ただ観客を楽しませるためにあるのではない。今、依然として横たわる国際問題に異議を唱える、そんな現実に即した必然性に導かれ撮影されたのだ。そして、パレスチナ紛争の問題において当事者性が強いドイツや各国のユダヤ映画祭の観客に絶賛されたことは、本作のメッセージが真の意味で“人々の心を揺さぶった”証明と言えるだろう。


【レビュー】「よくあるやつ」と油断すると、危ない
「これは新鮮な展開」予想外が連続…充足した映画体験

画像5

ここからは、実際にこの映画を観てのレビューを紹介する。筆者は40代前半の編集部員。仕事・プライベートにかかわらず、評判となっている映画は“なるべく”映画館に足を運ぶようにしているごく普通の映画好きである。

正直に白状する。本作を鑑賞する前に設定を読んで抱いた印象は、特集冒頭に示した通りのもの――「面白そうだけど、まあ、よくあるやつ?」というものだった。ところが物語は、そんな先入観を次々と裏切っていく。


●「普通の映画ならこうなる」が見事に通じない、驚くべき展開の連続

まず予想以上だったのが、登場人物たちの仲の悪さ! “犬猿の仲”の人物たちが出てくるというのは、こうした映画でよくあるパターンだが、劇中のイスラエル人とパレスチナ人の仲の悪さはハンパじゃあない。

“世界で最も解決が難しい”と言われるイスラエルとパレスチナの紛争は、長きにわたるさまざまな歴史を背負いつつ、いまなお続いている現在進行形の対立。その根深さ、憎悪の大きさは、日本人の想像を絶するほどだ。なにせ“和平のため”という名目で集められた20代そこそこの若者たちが、初対面にもかかわらず、ゴリゴリのヘイトスピーチで相手の民族を面罵するのだから。

画像6

象徴的とも言えるのが、合宿中に指揮者のスポルクが提示したあるレッスン。イスラエル陣営とパレスチナ陣営が1本のロープを隔てて対面し、相手に触れることなく、言葉で思いの丈を相手にぶつけ合うのだ。

最初は遠慮がちにポツポツと不満を漏らすだけだったが、短い時間のあいだにみるみるヒートアップ。彫刻のように端正な顔立ちを醜く歪め、「テロリスト!」「この人殺し!」などと攻撃的に絶叫する。吐き尽くしていく。合宿所が、言葉という銃弾が飛び交う戦場と化す。

しかし、面白いのはその直後。こんなにも相手への憎悪を露わにして、一体どうなるのかとハラハラしながら観ていると……なんと両陣営とも全員が泣きながら、息を切らしながら床に倒れ伏したのだ。

自分たちが口にした言葉の強さに、一人残らず凄まじいダメージを受けた。やがて彼らは、紛争で自分自身や家族の身に起きた経験、争いに対し感じていることを静かに語り始める……。憎悪や攻撃は何も生まない。そんなことが伝わる優れたシークエンスだった。

画像7

もうひとつ、意外性を感じさせてくれるのが指揮者スポルクの存在。ユダヤ(イスラエル)でもアラブ(パレスチナ)でもなく、この2つの民族の“対立構造”を融解させていくキーとなる人物だが、実は彼自身もまた、このパレスチナの紛争にも関係する“過去”を抱えていることが明らかになっていく。幾重にも折り重なった歴史、運命のいたずらが、物語に意外性と深みを与えていく。


●「卑怯だよ」と言いたくなるほど見事なクライマックス!

序盤から中盤にかけても、「普通の音楽映画とはちょっと違う」と感じさせる本作だが、さらなる意外、いや“衝撃”と言っても過言ではない展開がもたらされるのがクライマックスである。

ネタバレを避けつつ語っていこう。イスラエルとパレスチナの若者たちが少しずつ距離を縮め、心をひとつにコンサートを成功に導き大団円……とはならない。「まさか。やめてくれよ」と胸がえぐられるような、全く別の展開が待っている。

画像8

無防備に「めでたし、めでたし」の結末を堪能しようと油断しているとひたすらに危険。そして、このショッキングな展開を受け、若者たちが最後の最後に奏でる“奇跡のハーモニー”は鳥肌ものの感動を呼ぶ。

正直「この流れはずるい」と文句が言いたくなるほどの感動と余韻。そして紛争に対する心の痛みが、鑑賞後の今なお筆者のなかで渦巻いている。文字通り、心が揺さぶられる作品となった。


【驚くべき事実】これが実話に基づく物語…!?
だから説得力が違う 世界の観客が絶賛した理由に迫る

画像9

世界中の観客賞に輝いた本作は、なぜここまで観る者の心を打つのか? 最後に、そのメカニズムに迫っていこう。


●世界的指揮者ダニエル・バレンボイムらの実話から生まれた映画

心を揺さぶる理由、それは歴史と実話をベースにした“重み”をともなっているからに他ならない。本作の物語は、現代クラシック音楽界を代表する指揮者ダニエル・バレンボイムと、彼の盟友である米文学者エドワード・サイードが1999年に設立した和平オーケストラ「ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」にインスパイアされて生み出されたものだ。

同楽団以外にも、ユダヤ人とアラブ人で結成された別の楽団もあり、監督と脚本を務めたドロール・ザハビは「その全てにインスパイアされた」と語っている。物語展開においてはフィクションも多いが、脚本の開発時には実在する楽団について徹底的なリサーチを行ない、実話の要素も取り入れられているという。

画像10

●だから“キレイゴト”で物語は進まない 胸に刺さる深さが違う

もしもこの物語が1から10まで完全なフィクションであったら、いまなお存在する過酷な現実を前に、「キレイゴト」「理想を描いたただの絵空事」と捉えられていたかもしれない。だが、物語の一端は空想ではなく、間違いなく現実の世界で“平和を願う人々の手により実際に起こった出来事”である。それだけに「こうあってほしい」という理想通りには進まないし、だからこそ、強い説得力をともない私たちの胸に迫るのだ。

劇中でイスラエル側のリーダー的存在だった青年ロンは、スポルクに対しこう言い放つ。「政治と切り離そうとしても無理ですよ。僕らにとっては(パレスチナとイスラエルの対立は)日常の問題なんです。そんなのSFだ」――。両者が和解することは、当事者にとって「SF」なのだ。

果たして、あり得ない和解と融和は成し遂げられるのか? タイトルの「クレッシェンド(crescendo)」は、「だんだん強く」を意味する音楽用語だが、もともとの原義は「成長」。まさに若者たちは時間を追うごとに成長し、演奏は力強さを増してゆく。奇跡のセッションに映画館で身を委ね、未来を切り拓こうとする彼らの強烈なメッセージを受け止めてほしい。

画像11

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「クレッシェンド 音楽の架け橋」の作品トップへ