【インタビュー】「逃走中 THE MOVIE」西浦正記監督が明かす、バラエティを映画にする無限の可能性
2024年7月14日 11:00
今年で20周年を迎える人気バラエティ番組が、映画「逃走中 THE MOVIE」となって登場。“史上最大規模の「逃走中」”としてバラエティ番組の高揚感をしっかりと受け継ぎながらも、ある事情でバラバラになってしまった若者たちの友情までを映し出した、熱い映画として完成した。メインキャストとして笑いあり、涙ありの物語に命を吹き込んだのは、「JO1」の川西拓実、木全翔也、金城碧海と、「FANTASTICS」の佐藤大樹、中島颯太、瀬口黎弥。両グループが垣根を超えて共演を果たした本作について、メガホンをとった西浦正記監督は「勢いのあるグループのメンバーである彼らが懸命に走る姿を捉え、エネルギッシュな映画になった」とにっこり。キャラクターにぴたりとハマったキャスト陣の印象や、撮影の裏側について語った。(取材・文・写真/成田おり枝)
「逃走中」は、ハンターから逃げた時間に応じて逃走者は賞金がもらえるが、つかまれば賞金はゼロになるという一攫千金ゲーム。劇場版では、高校の陸上部で友情を育みながらも、今はバラバラとなってしまった6人が「逃走中」に参加。しかし「逃走中」が何者かに乗っ取られ、命懸けのゲームと発展していく中で、6人が生き残りをかけて超危険なミッションに挑む姿を描く。
幅広い世代から人気を博すバラエティ番組「逃走中」の、まさかのドラマ映画化が実現した。バラエティ番組内のドラマ部分の演出を担当していた経験があり、同番組の魅力を熟知している西浦正記が監督を務めた。
西浦監督は、「プロデューサーとは、『映画やドラマにしても面白いんじゃないか』と話していた」と明かす。「『逃走中』の面白さは、ハンターから逃げる恐怖と、どれだけお金をゲットできるかというドキドキ感。そこから参加者の性格やキャラクターが見えてくるのも、楽しいポイントですよね。でも、そこで終わってしまうのはもったいないなという思いもあって。バラエティの向こう側である、『なぜこの人は走るのだろうか』『なぜお金が欲しいのだろうか』というバックグラウンドに着目してみたら、さらに面白いものが生まれるような気がしていました」と以前からあらゆる可能性を感じていたという。
映画化する上で大切にしたのは、「バラエティの香りをきちんと引き継いで、走る姿をきちんと捉えること」だ。「人間が“走る”という行為に出るのは、何かから逃げる時か、何かを速く手に入れたい時のどちらかだと思うんです。それって人間が本来持っている欲求や行動なのか、走る人を見ているだけでも、なぜだか興奮するものがあったりしますよね。まず、そういった『逃走中』が持っている見どころを抑えること。さらに6人の若者たちのドラマを見せつつ、観終わった後に親子で会話が生まれるような映画にしたいなと思っていました」と本作に込めた思いを語る。
「バラエティ番組の向こう側を描く」という西浦監督の言葉通り、劇中では元陸上部の面々がさまざまな事情を抱え、ゲームに参加する。次第に「なぜ仲良しメンバーの絆が失われてしまったのか」という過去が浮き彫りになると共に、命がけのゲームに挑む中でお互いの本音や信頼感があふれ出すなど、熱い人間ドラマが展開。それぞれ個性豊かなキャラクターを、キャスト陣が躍動感たっぷりに演じている。
「JO1」の川西、木全、金城、「FANTASTICS」の佐藤、中島、瀬口がメインキャストに抜擢されたが、キャスティングの経緯について西浦監督は「『これからガッーと来るぞ!』という、勢いのある方々にお願いしたいと思っていました。そんな時、プロデューサーから『JO1とFANTASTICSという違うグループから、出演してもらうのはどうか』という提案があって。ミュージシャンという感性のある人たちが走って芝居をするということに、ものすごくワクワクしました」と期待に胸が膨らんだと述懐。「6人のキャラクターの個性をどのように際立たせていくか、試行錯誤があった」というが、誰もがキャラクターにぴったりとハマった演技を披露している。「キャストの方々と話し合いながら、セリフの語尾や言い回しを変えたところもあります」とキャスト本人の個性と融合させながら、鮮やかなキャラクターを誕生させた。
「それぞれ、キャラクターのイメージカラーを決めています」と明かした西浦監督。キャストの印象を聞いてみると、各自についてこう語った。「川西くんが演じた大和のイメージカラーは、みんなのセンターにいるレッド。川西くんは『僕はそんなに明るいタイプじゃないです』と言うんですが、本人の顔つきや話し方、出ている周囲を照らすような力は、まさにレッドだなと。また川西くんを見ていると『現場で芝居が成長する』というのは、このことだなと思いました。どんどん芝居が良くなっていったし、大和がみんなのことを思って走るシーンは、テストからずっと同じテンションで芝居をしてくれて。グッときました」と惚れ惚れ。「そしてブルーが、佐藤くん。佐藤くんが演じた譲司には顔に傷がありますが、彼ならば傷を負っている人間の内面も表現してくれると思いました。佐藤くんは芝居経験があることもあって、信頼してお任せしました。彼には、いろいろな可能性を感じました」。
さらに「木全くんが演じた賢は曖昧な雰囲気があるので、イメージカラーはグレーです。とても難しい役だったと思いますが、彼の微妙な表情が見えるような瞬間で、抜群にいいお芝居をしてくれました。木全くんは台本にたくさん書き込みをして、僕にもいっぱい突っ込んだ質問をしてきてくれるんです。金城くんの演じた勇吾のイメージカラーは、グリーン。金城くんは運動能力がものすごく高くて。実は、あとからアクションを追加したりもしています。『やってみて』とお願いすると見事にやり遂げてくれて、オーダーしておきながら『よくやれるねぇ』と感心してしまいました(笑)。町工場の三代目としての葛藤も、いい顔つきで表現してくれました」と称え、「瀬口くんが演じた陸は、ピンク。陸は唯一、泣くシーンのないキャラクターですが、観客を泣かせてくれるような役なんです。瀬口くんは現場でも陽のオーラをたくさん出してくれて、役のことをじっくりと考えて『陸だったらこうするかもしれない』という提案をしてくれました。優しい男を軽やかに演じてくれて、とても面白かったですね。そして中島くんが演じた瑛次郎は、みんなの色を少しずつ持っているというキャラクター。中島くんがもともと持っている魅力と、瑛次郎のナイーブさが混ざり合ってとてもいいキャラクターになったなと。瑛次郎が回想シーンで見せた表情は、ヤバいほどよかったです」と賛辞の言葉が止まらない。
撮影現場の雰囲気も、熱気に満ちたものだったという。「脚本を読み込んできたりと、みんながものすごく前向きな姿勢で臨んでくれて、いいディスカッションができた」と振り返った西浦監督が、「撮影の合間にも、グループの垣根を超えてみんなで仲良くしていて。高校時代のシーンをたくさん撮ることはできなかったんですが、オフの時間に彼らが絆や愛情を積み重ねているのを見て、とても安心しました」と喜ぶなど、キャスト陣が実際にすばらしい絆を築いたことが、より劇中のドラマを強固なものにしている。「『JO1』と『FANTASTICS』。どちらもエネルギーの高いグループです。彼らが共演を果たすと、ワンカット、ワンカット、熱量が倍になるのではなく、何倍にもなってどんどん高まっていった。彼らが必死に芝居を向き合っているのを見ると、スタッフにも『良いものにしよう』という気持ちが伝播していきました」。
西浦監督は、98年に金城武と深田恭子が共演した大ヒットドラマ「神様、もう少しだけ」で監督デビューし、医療ドラマシリーズ「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」や、福島第一原発事故を題材としたNetflixシリーズ「THE DAYS」など、多彩なジャンルの作品を精力的に生み出し続けてきた。
テレビドラマの演出からキャリアを築き上げてきたが、「お茶の間からの要求というのは、実にいろいろな方向性があるものですよね。それに応えようとするテレビの監督というのは、いろいろなジャンルにおいて及第点以上のものを取れないといけない」と腕を磨いてきた。「『神様、もう少しだけ』で初めて監督を務め、いい作品を完成させるためには、役者さんとのコミュニケーションが欠かせないと実感しました。いろいろなタイプの役者さんがいますが、『この人ならばこうやって話をしよう、この人ならばこう演出しよう』と考える力や、ある種の自信のようなものをそこで培えたと思っています。今でも、コミュニケーションを積み重ねることを大切にしています」とポリシーを吐露する。
監督という仕事の醍醐味について、「世の中にはないものを作れる仕事」と目尻を下げた西浦監督。「たくさんの人に、その場を体感してもらえるようなものを作れる仕事ですよね。『コード・ブルーを観て看護師、医師を目指しました』と声をかけていただいたこともあって、そういった反響をいただけるのも醍醐味を感じる瞬間です。本作では、バラエティ番組を映画にして、観客の皆さんにハラハラしてもらうことをテーマに挑んできました。これからも“ワクワクする”という気持ちを大切に、いろいろな作品に取り組んでいきたいです」と真摯な姿勢を口にしていた。
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