劇場公開日 2023年3月17日 PROMOTION

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The Son 息子 : 特集

2023年3月13日更新

【忘れられぬ“傑作”】この黒い衝撃は、強く深く心に
届き、そして引きずる…ポスターや写真からは想像でき
ない“壮絶な展開と結末”に、感情がグチャグチャ――

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予想を裏切ってほしい、でも完成度も高くて見ごたえが十分あり、記憶に残る新しさがあれば最高――。私たちが映画に求める“質”は、年々上がる一方だ。

そんな目利きたちにぜひ提案したい映画がある。「ファーザー」で映画ファンを震撼させたフロリアン・ゼレール監督の新作「The Son 息子」(3月17日公開)。

別れて暮らしていた息子との再会がもたらすものとは――。ポスター等から匂い立つ上質なヒューマンドラマ感をかき消す、衝撃展開が待ち受ける力作の“中身”を、3つのポイントで徹底解説したい。


【予告編】完璧な親はいない。そして、完璧な子供も。

【予想外の衝撃】待って、えげつなく食らってしまった
愛してるのに届かない 父と子の物語が胸を強く叩く…

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映画を見るときというのは、事前に「こういう気持ちになれそう」或いは「何が起こるかわからないが面白そう」という心の準備をしていくもの。

しかしこの「The Son 息子」は、そうした“入口”と“出口”が全く違っていて、かつその衝撃性があまりにも心を削ってくるため、映画.com編集部は観賞後に放心状態に陥ってしまった……。ただの父子の物語と思っていると、我々のようになぎ倒されて動けなくなってしまうだろう。どうか覚悟を決めて、以降の項目を読み進めてほしい。


●[なぜ予想外?]ポスターの印象「爽やか感動作」
しかし…実際に観ると「しばらく引きずるほどの衝撃作」
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断っておくが、我々とてノーガードで臨んだわけではない。事前にポスターや場面写真をチェックしていたのだが、それらから受け取ったイメージは王道の感動作だった。日本版ポスターではソファでくつろぐ親子が笑顔で笑い合う光景を切り取っており、父親を好感度抜群のヒュー・ジャックマンが演じている。

「これはさぞかし純粋に泣けるはず」と思っていた我々はすでに、術中にはまっていたのかもしれない。

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(ネタバレを避けるため慎重に記述するが)確かに、エモーショナルな部分は多分にある。泣けるヒューマンドラマであることは間違いない。しかし、観賞後に胸を支配するこの感情は、おいそれとは言葉にできない……。

思えば「完璧な親はいない。そして、完璧な子供も」「衝撃と慟哭の物語」というコピーで予兆は示されていたのだが、完全に食らってしまった。まさに黒い衝撃が深く心に届き、忘れられなくなる“傑作”だったのだ。


●ヒュー・ジャックマンが魂の熱演、息子役も稀有な存在感
でも気軽におすすめはできない…が、観てよかったと思える“傑作”
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「イメージを覆してくる」のは主演・製作総指揮を務めたヒュー・ジャックマン然り。脚本にほれ込んだ彼は、主演俳優が決まりかけたタイミングだったが自ら名乗りを上げこの役をつかんだという熱の入りよう。

その息子を演じたゼン・マクグラスの存在感も飛びぬけており、両者の得も言われぬ愛憎と衝突が、作品を強く牽引している。さらに「マリッジ・ストーリー」でオスカーを受賞したローラ・ダーン、「私というパズル」でベネチア国際映画祭の最優秀女優賞に輝いたバネッサ・カービー、そしてアンソニー・ホプキンスも登場と実力者が勢ぞろい。

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下手をすると「寝込む」レベルの作品のため気軽にオススメはできない。心根のあまりに深い部分に触れる物語でもあり、観るものに良くも悪くも大きな影響を与えてしまうはずだ。しかし……そのぶん、心を捉えて離さない傑作であることは全力で保証したい。


【この監督に注目】フロリアン・ゼレール “人の心”
を深く理解し、唯一無二の映画を創出する新たな名匠

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そしてやはり、この人無くしては本作を語れない。初監督作「ファーザー」で第93回アカデミー脚色賞を受賞し、アンソニー・ホプキンスに主演男優賞をもたらした異色のキャリアを持つ映像作家・劇作家のフロリアン・ゼレール監督。2作目となる「The Son 息子」には、彼の作家性が全編にわたってみっちりと詰まっている。


●前作はアカデミー賞受賞「ファーザー」
人の心と脳を知り尽くし、観客に難問を体感させる演出術
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ゼレール監督は、フランスを中心に小説家・劇作家として活躍してきた人物。数々の文学賞・演劇賞に輝いてきた彼が、自作の映画化に挑んだのが「ファーザー」だった。同作では「認知症の父と介護を務める娘」を軸に、認知症の状態を観客に追体験させるような映像表現や叙述トリックを織り交ぜ、かと思えば「最愛の人物が変わってしまう」親子の複雑な心情をも細やかに描き、ロジカルとエモが掛け合わさった無二の作品を創出した。

ゼレール監督の特徴は、そうした人の「心」と「脳」に対する卓越した理解力にあり、「The Son 息子」でもいかんなく発揮されている。こちらでは「高校生の息子が鬱になる」というシリアスなテーマに挑み、わかりたいがゆえに説明を求める父と説明したいが自分がわからない息子の平行線の対話の哀しみを丁寧に紡いでいく。人の脳や心に影響を及ぼす事象を徹底したリアリティで描く手腕には、ただただ震わせられる。


●映画で実現するのは“心のケア”
今作「The Son 息子」も世界が絶賛…巨匠になり得る“才能”を味わい尽くそう
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小説家として、劇作家として確固たる地位を築いたゼレール監督が映画というフィールドに挑んだ理由とは? それは恐らく“心のケア”にある。ここで監督とジャックマンの発言を紹介しよう。

ゼレール監督「この物語を伝えたいという思いがあまりにも強く、他の映画のことは全く頭になかった。『The Son 息子』の登場人物の人生を描きたいと思った主な理由には、心の問題を抱えている人が多くいることがある。そして、この問題には必ずといっていいほど、恥、罪悪感、無知が伴う。しかし、そのような感情やレッテルは、重要な会話の妨げとなってしまう。この映画が、心の病に関する様々な対話のきっかけとなることを期待する」

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ジャックマン「多くの人々が、自殺、うつ病、不安症の問題に悩んでいる。その原因は、少し話し合っただけで分かるほど単純ではないが、話すことが重要なんだ。話題に出すべきなんだ。『The Son 息子』のような映画は、会話を始める重要なきっかけになると思う。僕は、このテーマをここまで知的に、美しく、そしてはっきりと描き出しているこの作品に参加できて、誇らしい気持ちだ」

これらの発言から感じ取られるとおり、ゼレール監督は「救済」やそのきっかけとなる「相互理解と対話」に重きを置いて映画づくりに邁進している。だからこそ、彼の作品には観た者の人生を変えてしまうほどの強さが宿るのだろう。

「ファーザー」に続き「The Son 息子」も世界中で絶賛されており、二作続けて“傑作”を放ったゼレール監督。今後、さらなる巨匠となる才能をぜひこの機会に味わってほしい。


【解説・考察】画面に隠れたモチーフを読みとれ
読めば「The Son 息子」がもっと面白くなる4つのシーン

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観賞後の衝撃、そして制作者の手腕と想いを紹介してきたが、最後に「The Son 息子」に仕掛けられた“ヒント”をいくつか紹介しよう。

「ファーザー」で見る者を迷宮に引きずり込んだ技巧派のゼレール監督は、本作でも深掘り要素の数々を我々に用意してくれた。見る者の想像力を掻き立て、作品の深みを形作る4つのシーンを、劇場公開に先立って特別に開示する。


①:ニコラス、登校初日の帰路…映し出された“路地”の意味は?
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「学校に通っている」と嘘をついていた過去があるニコラス。彼は父ピーターのもとで再出発をはかるのだが、転校先の登校初日の下校シーンが非常に不穏なムードで映し出される。

このシーンに隠された意図とは? よくよく目を凝らしてみると、ニコラスが帰路につく路地の標識は「左から右の一方通行」と示されている。だが、彼が歩いていくのは「右から左」、つまり逆走だ。

決められたルールに従わずに、その逆を行く行為が示唆するのは、ニコラスへの観客の不信感、さらには親の敷いたレール、愛情に対する反発……。「The Son 息子」では、さりげないシーンすらも伏線になっているのだ。


②:“コーヒーを淹れる”という行為が意味することは?
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本作のように仕掛けが満載の作品では、同じ行為が複数回描かれたら、それは監督からのメッセージと捉えるのが定石。そうした意味で注目したいのは、「コーヒーを淹れる」動作だ。

なんてことない日常の風景に思えるかもしれないが、ゼレール監督が不要なシーンを入れているとは思えない。ゆえに分析してみると、前半では親から子(べスからニコラス)へ、そして後半では子から親(ニコラスからピーター&ケイト)へと対比構造になっていることがわかる。

物語と連動し、愛情の方向が「親→子」から「子→親」へと展開しているのだ。ニコラスと親たちの関係性の変化を示すアイテムとしてしっかりと機能している。


③:“フランス人インターン”はなにを意味する?
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劇中で意味ありげに挿入される、フランス人インターンの存在。なぜ「フランス人」が強調されるのか? フロリアン・ゼレール監督に対する予備知識がある人はピンとくるかもしれないが、彼もフランス出身であり無関係とは言えなさそう。

調べてみると、監督の義理の息子も鬱を患った経験があるようだ。本作には「ガブリエルに捧ぐ」というメッセージが挿入されるが、これはゼレール監督の義理の息子のことだそう。さらに、映画のクレジットには“Gabriel Ecoffey/Intern”(ガブリエル・エコフェ/インターン役)と入っている。

つまり、あのフランス人インターンはゼレール監督の義理の息子が演じており、過去に鬱を患った当事者として本作に出演している、ということになる。このように、ゼレール監督自身が経験したリアルな痛みが、数多く劇中にちりばめられているのだ。


④:繰り返される“洗濯機”のシーンが象徴するものは?
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最後に、非常に重要なモチーフを紹介しよう。それは洗濯機。作中、何度もドラム式洗濯機が回転するさまが登場し、明確に観客に「これは何を意味するのか?」と刺激を与えてくる。

中で洗われているのは、子ども服。子どもが水の中で、何回も回転する――。これはそのままニコラスとピーターの海で泳いだ思い出、さらには子どもの頃の苦い記憶がいつまでも(親になっても)心を苦しめ続けるというトラウマ、さらには親の“罪”の犠牲になった子が、親になっても同じことを繰り返すという「輪廻」の意味も含まれている。

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以上、ここで紹介したのは全体のほんの一部だが、作品鑑賞前であっても「The Son 息子」が持つ“凄さ”の一端を感じられたのではないか。その他のメタファーはぜひ劇場に赴き、ご自身で読み取ってほしい。

本作は、あなたに“理解”される日を待っている――。


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