山本耕史が26年ぶりのマーク役で、ブロードウェイスターたちと英語で演じきった「RENT」に感無量!!【若林ゆり 舞台.com】
2024年8月28日 13:00
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伝説のミュージカル「RENT」に、またひとつ、語り継がれるであろうトピックが加わった。ここ日本で。スタッフ、キャストをアメリカより招いて稽古を行った初の日米合同キャスト版で、主役のひとりであるマークをなんと日本語版初演以来26年ぶりに、山本耕史が全編英語(日本語字幕付き)で熱演! 観客を熱狂で沸かせたのだ。ゲネプロと囲み取材、そして東京公演の初日を観劇したのでレポートをお届けしたい。
※本記事には、舞台のネタバレとなりうる箇所があります。未見の方は、十分にご注意ください。
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その前に、基本情報をおさらいしよう。2005年にクリス・コロンバス監督によって映画化されて(06年日本公開、邦題は「レント」)、映画ファンにもおなじみの「RENT」。この作品はなぜ、伝説のミュージカルなのか。
初演が幕を開けたのは1996年の2月、オフ・ブロードウェイの小さな劇場でのことだった。作詞・作曲・脚本・演出を手がけたのはジョナサン・ラーソン。プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」を現代ニューヨークのイーストヴィレッジに移し替え、アーティストを目指す貧しい若者たちの青春を描いたロック・ミュージカルはまたたく間に大評判に。そして同年4月、ブロードウェイのネダーランダー劇場に移ってさらなる熱狂を呼び、数々の賞に輝いて、12年以上にわたってロングラン上演されることになる(いまに至るまで全米ツアー版や世界での翻訳上演は行われている)。
友情や夢、愛、アイデンティティといった青春物語に止まらず、人種問題や格差社会、セクシャルマイノリティに薬物中毒、HIV感染(AIDS)など、ラーソンの実体験をふまえて、当時のニューヨークの若者たちが抱える問題をヴィヴィッドに描き、ロック・ミュージックを中心としたエモーショナルなミュージカルナンバーで観客の心を掴んだのだ。そしてこの作品にはもうひとつ、特別な事情があった。7年近い歳月をかけ、身を削って作品をつくりあげたラーソンが、プレビュー公演が開幕するというその日に、35歳の若さで急病死したのである。
それでもラーソンが作品に込めたメッセージは見る人の心を突き動かし揺さぶり、いまも色あせない。言葉の壁も超え、世界中をひとつにつなぐ。それを改めて実感させた、28年後の日米合作版だった。
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今回の来日カンパニーは、初演にも引けを取らないのでは、と思わせるくらい、ベストキャストが集結。そのなかに、日本側からは山本と、マークの元恋人・モーリーン役でクリスタル・ケイが参戦している。ケイは日本生まれだが英語ネイティブ。しかし山本は、本人曰く「英語が得意とは言えない」。それでもチャレンジを決意したのは、26年前の98年、21歳のときにマーク役を演じた日本版初演の「RENT」が「役者としての自分の原点になっているから」だという。
「そりゃ最初は『できない』と思ったこともありましたよ、だって言語が違うから」と、囲み取材で山本は語った。「26年前には日本語でやりましたけれども、今回は英語ネイティブの方々のなか、僕が英語に合わせるという『RENT』なので、すごくチャレンジングではありました。1年ほど前から英語の強化をずっとやっていたんですけど、『こんなにしゃべれないかな』と思うくらい。みなさんはすごくしゃべれるネイティブ・スピーカーばかりですのでね」
「稽古場でも英語がわからないことが時々あって、そんなときは『Oh, right』みたいな感じでわかったフリをして(笑)。後でケイちゃんに『あれなんて言ってたの? こう聞こえたんだけど合ってる?』と聞いたりしていました。でも、みんな僕のつたない英語を聞こうとしてくれますし、後半は言葉をはっきりキャッチできなくても、もう言わんとしてることがよくわかって。なんだか不思議ですよね。接している時間が長ければ長いほど、『言わずもがな』で、わかっていくんだなと思いました」
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私は日本版初演の舞台を観ていて、山本マークのパッションと繊細さに感銘を受けたことを覚えている。だから彼が「俳優としての自分の原点。目が開いたような体験だった」と感じたのもわかる気がするし、この挑戦の意義もよくわかる。それにしても、26年ぶりとは! なんというチャレンジだろう。
約1カ月にわたる日本での稽古を経ての開幕直前、「稽古が十分にできたので、準備万端で、いい『RENT』を届けられるんじゃないかな」と、自信を見せた山本。演出のトレイ・エレットも満足げにこう言った。「コウジは素晴らしい。こんなに努力している人は見たことがない、というぐらいの頑張りっぷりを見せてくれたよ。僕は『RENT』に何度も関わってきて、すべてのキャストが特別だと思っているけれど、今回はとくにスーパー・スーパー・スペシャルなカンパニーだと感じている。コウジとクリスタルと、アメリカから連れてきた仲間たちで、新しいバイブをつくりだしているという新鮮な感覚があるんだ。コウジは音楽もしっかり、言葉もしっかりとこなして、非常にいい動きをする俳優。しかもそれだけではなく、今回は英語でお芝居をするという、そこが肝心だ。そして、そこがきちっとできているからこそ、素晴らしい本番をみなさんにお見せできるぞという自信を僕も持てているよ」
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果たして、26年ぶりに観客の前に現れた山本マークは、びっくりするくらい完璧なマークそのものだった!
正直、この目で見るまでは「大丈夫なのか?」という不安はぬぐえなかった。だって山本は47歳。本人も「僕に、26年前に子どもが生まれていたとしたら、その子どもが(マーク役を)できているくらいの年ですからね。そう考えると感慨深い」と語っているほどだ。もちろん俳優としての実力に疑問の余地はないが、近ごろは大河ドラマなどで貫禄さえ見せている彼である。年齢が大きく違う、若きマーク役をいかに演じるのだろうか?
ところが! 舞台に躍り出たマークは若々しく瑞々しい。 「つるつるの美肌だなあ」とは思っていたが、それより彼の果てしない身体能力とリズム感、体幹のしなやかさが若さの表現につながっていることに感嘆させられた。英語のセリフも歌も、何の違和感もストレスもなく、完璧。浮いていないどころか、むしろ日本人にさえ見えない。初日の舞台では、山本マークが登場するなり「待ってました!」とばかりに客席は大興奮、大歓声! マークの第一声、「We Begin on Christmas Eve!」のセリフは完全にかき消され、開幕直後に山本はショーストッパー(※演劇で、拍手喝采のあまり進行が中断してしまうほどの名演技や、その演技をした俳優を指す) となったのだった。
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山本のマークを観て、聞いていて思ったのは、オリジナルキャスト(映画版、来日公演でもマーク役を務めた)のアンソニー・ラップと声の感じがよく似ている!ということだった。しかし、コピーだとか真似にはなっていない。そこには山本らしいエネルギーの発散があり、表現のインパクトが強いからだ。親友ロジャーを始めとする仲間たちとの関係も見え、役者たちと稽古場で絆を深めたのだろうということも容易に想像できる。この物語のなかで、ビデオ・アーティスト志望のマークという人間はナレーターであり、仲間たちにカメラを向けて見つめる、この世界の傍観者のような存在でもある。敏感であるがゆえの孤独。それが、孤軍奮闘を余儀なくされたはずの山本と重なるような感覚もあって感慨もひとしおだった。
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ブロードウェイなどで活躍するキャストも、それぞれが適任。ロジャー役のアレックス・ボニエロはワイルドさと繊細さが同居し、マークとの掛け合いには友情がクッキリと見える。ジョーダン・ドブソンのエンジェルはキュートでけなげで純粋な、まさにエンジェルだ。バラバラになった仲間たちの絆を、自らの死によって再び繋ぎ合わせる魂の美しさが非常に印象的だった。
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その恋人・コリンズ役のアーロン・アーネル・ハリントンは声の深み、響きが素晴らしい。もうひとり、日本側からキャスティングされたクリスタル・ケイのモーリーンも、とびきりの好演。別れた後もマークを振り回し、女性弁護士の新恋人ジョアンをも翻弄するチャーミングなパフォーマー。「彼女にはかなわないなあ」と思わせるキャラクターづくりも、歌やダンスの表現も印象に深く残った。
今回の演出は、ラーソンによるオリジナル演出に基づくもの。作品自体が「原点回帰」をしているようで、その本質がまっすぐに届くようなステージだったと思う。いまは亡きラーソンが作品を通して、語りかけてくるようにも感じる。「生きてきた人生の価値を何で数える?」と、全キャストが心を乗せた「Seasons of Love」。「いま生きているのは今日という日だけ」と繰り返し歌われる「No Day but Today」。
もし英語の聞き取りに自信がないという人は、ミュージカルナンバーの歌詞和訳を一度読んでから観劇することを強くおすすめしたい。字幕を追っていたら、大切な瞬間を見逃してしまうかもしれないから。というより、パフォーマンスに夢中になっていたら字幕なんか追えないからだ。受け止められたはずの言葉を、受け止め損なったらもったいない! そうそう、この作品を観る度に思うのだが、ロジャーとミミのナンバーで歌われる「I Should Tell You(君に言わなくちゃ)」は、日本語の「愛してるよ」に聞こえるが、それはソラミミ。
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初日のカーテンコールでは、オリジナル版で演出を手がけたマイケル・グライフがサプライズで舞台に上がり、舞台上と客席が一体となって「Seasons of Love」を大合唱! ラーソンもこの日米合作版を天国から観て、きっと喜んでいるだろう。時代は変わったが、人生の、生きることの価値は変わっていないと思い知らされ、この瞬間を熱く生きる俳優たちに打ちのめされ、「ウォー!」と叫んで抱きしめたくなる。ラーソンからのメッセージを受け止めることができたなら、このミュージカルを観た「人生のなかの今日という1日」を、愛おしく思えること間違いなしだ。
「RENT JAPAN TOUR 2024」は、9月8日まで東京・東急シアターオーブで上演中。大阪公演は9月11日~15日、SkyシアターMBSで行われる。詳しい情報は公式サイト(https://rent2024.jp)で確認できる。
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