コラム:21世紀的亜細亜電影事情 - 第9回
2014年5月22日更新
第9回:日本のアニメも大人気!急拡大する中国アニメ市場の光と影
「幼いころを思い出す時、『一休さん』のワンシーンとともに、宿題をせず父母に叱られていた自分の姿がよみがえる。あのころ座禅を組むかっこうをまね、(一休さんがとんちを使うように)答える遊びがはやった」
中国紙・揚州晩報はこのほど、往年の日本の人気アニメ「一休さん」についてこう伝えた。中国では1980年代以降にテレビ放映され、「親公認の良作」として今も懐かしむ人が多い作品だ。中国のオンライン百科事典「百度百科」は「中国で最も人気がある日本アニメの一つ」と紹介している。
そんな「一休さん」が4月末、中国独自の映画版としてリメークされ、劇場公開された。明代の王女が日本を訪れ、一休さんに出会う新たな物語。中国メディアは一斉にこのニュースを取り上げ「20代、30代にとって懐かしいアニメ。映画館で再会できる」と好意的に報道した。
中国で日本アニメの人気は根強い。大手検索サイト・百度がリアルタイムで表示する最新の「アニメ注目ランキング」(ネット利用者の注目度で決定)では、1位の「ONE PIECE(ワンピース)」、2位の「FAIRY TAIL(フェアリーテイル)」など、上位には日本の作品が目立つ。人気シリーズの映画化最新作「名探偵コナン 異次元の狙撃手」(日本で全国公開中)も、中国ファンの間で「日本に行ってでも観たい」との声が広がっている。
また、4月は日本の漫画「ピンポン」のアニメ版が日中で同時放送スタート。劇中登場する強豪の中国人留学生・孔文革は、90年代に活躍した実在の選手、孔令輝と馬文革を足して2で割った名前と推測され、「われらが英雄」の登場に中国の視聴者は喜んでいる。
では、中国市場は日本アニメの独壇場なのか? 実はすでに中国は、日本を上回る「アニメ製造大国」に成長している。中国政府は2004年、国産アニメ・漫画産業の育成に向け、関連企業の強化策を打ち出した。税制優遇、製作拠点の整理・統合、外国製アニメの上映制限強化などを推進した結果、中国アニメの製作量は数十倍に激増。今では日本の3倍近くになっている。
量が増えるにつれ、人気作品も出始めた。05年には羊と狼の子供向けアニメ「喜羊羊(シーヤンヤン)と灰太狼(ホイタイラン)」が大ヒット。12年には熊の兄弟が主人公の「熊出没」の人気が沸騰。今年初めに公開された「熊出没」3D映画版は、中国産アニメとして過去最高の興行収入を記録。快進撃を続けている。
しかしこの2作品、人気が出るにつれ視聴者から「表現が低俗で暴力的。言葉使いも悪すぎる」と批判が上がった。アニメのまねをして友人にけがをさせた子供も現れたため、中国当局が作品の修正を命じている。
中国アニメ市場の問題点として常に指摘されるのが、海賊版や類似作品の横行、さらに物語の魅力不足だ。海賊版については指摘するまでもない。「中国オリジナル」とうたって発表されたアニメでも、「日本作品に酷似している」との声が次々上がる。政府の優遇策が逆に粗製乱造を招き、「本当に良質な作品を生む土壌ができていない」との声も聞かれる。
また、「喜羊羊」、「熊出没」ともターゲットは子供。中国では「国産アニメは幼稚すぎる」との認識も強く、大人も楽しめる大ヒット作は生まれていないのが現状だ。
国を挙げて「アニメ大国」を目指す中国。国境を越え、作品が人々を魅了する日は来るのだろうか。
筆者紹介
遠海安(とおみ・あん)。全国紙記者を経てフリー。インドネシア(ジャカルタ)2年、マレーシア(クアラルンプール)2年、中国広州・香港・台湾で計3年在住。中国語・インドネシア(マレー)語・スワヒリ語・英語使い。「映画の森」主宰。