コラム:21世紀的亜細亜電影事情 - 第18回
2016年10月28日更新
そこへ今回のリメークだ。地元娯楽メディアの「タブロイド・ビンタン」は「ワルコップが大ヒットした3つの理由」を分析。まずは公開の約1年半前、製作発表時からメディアが大々的に取り上げたこと。さらに「ベチャ(自転車タクシー)の運転手からホワイトカラーのビジネスマンまで」を合言葉に、社会の隅々まで浸透させるべく宣伝攻勢がかけられたこと。最後にメディアや人々の日常会話の中で「ワルコップ」の単語露出アップに成功したこと。
ところでこの「ワルコップ」、映画の主人公3人の総称だけでなく、「ワルン・コピ(コーヒー屋台)」の略語でもある。イスラム教徒が多くアルコール飲料があまり飲まれないインドネシア。男性たちは日々ワルコップに集い、甘いコーヒーを飲み、たばこを吸いながら情報交換する。街のあちこちにあるオープン式のコーヒー屋台は、いわば「おじさんたちのたまり場」だ。そんなイメージと中年警官3人のこっけいな様子が重なり、「ワルコップ」と聞くと思わずニヤッとする仕掛けになっている。
さて、もう一度インドネシアの映画館に目を向けてみよう。日本の映画祭で上映されるインドネシア映画は、文芸作品、歴史大作などいわば「真面目な映画」が中心だが、現地ではかなり趣が異なる。国産映画で目につくのはホラー、コメディー、恋愛、学園、宗教もの。特にホラーは人気で、途切れることなくかかっている。
今年は国産映画の当たり年だった。地元メディアが伝えた07年以降の歴代観客動員ランキングをみると、まず今回大ヒット中の「ワルコップ」が680万人超えで堂々の歴代1位。さらに、14年前に大ヒットした青春映画「ビューティフル・デイズ」(02)の続編「再会の時 ビューティフル・デイズ2」(9月のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映)が360万人以上で同4位に食い込んだ。さらに、米国帰りの奇抜なビジネスマンが巻き起こすドタバタ喜劇「My Stupid Boss(原題)」も300万人以上で同6位。過去10年のトップ10に3本が入る躍進ぶりとなった。
「ワルコップ」と「My Stupid Boss」はコテコテのコメディーだが、残念ながらこのタイプの娯楽作は日本ではなかなか上映されない。「ワルコップ」は私の周りの日本人にも受けがよく、リピーターも出たほど。映画は社会を映す鏡だ。インドネシアの人たちが何を見て、何に反応し、何に笑うのか。ジャカルタの“ダメ警官”3人が、日本のスクリーンにお目見えする日を願う。
筆者紹介
遠海安(とおみ・あん)。全国紙記者を経てフリー。インドネシア(ジャカルタ)2年、マレーシア(クアラルンプール)2年、中国広州・香港・台湾で計3年在住。中国語・インドネシア(マレー)語・スワヒリ語・英語使い。「映画の森」主宰。