コラム:田幸知有紗のハリウッドスター紳士録 - 第12回
2010年5月5日更新
第12回:ラテン系監督の口説き文句は「寿司を食べに行こうよ!」
今回は「アモーレス・ぺロス」(2000)、「21グラム」(03)、「バベル」(06)などの脚本家として、そして小説家としても有名なギジェルモ・アリアガに焦点を当てます。
私がインタビューしたのは、アリアガの長編監督デビュー作「あの日、欲望の大地で」(08)のプロモーションで来日したとき。脚本は構想から15年もの歳月をかけて書き上げたもので、シャーリーズ・セロンとキム・ベイシンガーという2大オスカー女優の共演ということでも話題を呼びました。作品にほれ込んだセロンは製作総指揮にも加わり、ベイシンガーをキャスティングしました。
アリアガ監督の第一印象は、背が高くてちょっと鋭いまなざしが印象的なおじさま。しかし、話してみるとメキシコ出身ということもあり、ラテン系の熱い男でした。
お寿司が大好きというアリアガ監督。インタビュー時は来日2日目の夕方だというのに、日本ではお寿司しか食べていないのだとか。初来日でお寿司にいたく感動したらしく、「日本にいる間は寿司しか食べない!」と断言して、好きなネタを日本語で次々に挙げてくれました。そして、私が最後のインタビュアーだったこともあり「この後、一緒に寿司を食べに行こうよ!!」とノリノリでした。
アリアガ監督の脚本で特徴的なのは、複数の時間や場所の違うストーリーが同時進行で描かれていること。これは、私たちが話すときに時系列順には話さないということと同じ理由で、作品を見てもらいたいからだそうです。最初から時系列順に書いて分散させているのかと思いきや、初めからそう書くのだとか。これは、映画に限らず小説でも同様の書き方をしているそうです。
インタビュー中には、セクシャル方向の放送できない言葉が出たりしました(笑)。ただ、作品には自らの経験も盛り込まれているようで、たったひとりが下した決断が周囲の人間や何世代にもわたって影響を与えるという作品の本質にかかわる部分など、心に残る話をたくさん聞かせてくれました。
そしてインタビュー終了後、監督から再度“私は今日これで終わりだけど寿司食べに行かない?”と聞かれ寿司の話題に。残念ながら私は別の仕事が入っていたので、次回来日時に行くことを約束をして部屋を出ました。なんだか初めて会ったとは思えないほど親近感の沸く、とっても気さくでお茶目な方でした。
「あの日、欲望の大地で」は、愛や女性の性をテーマに描かれていて、私はすべての登場人物に共感できました。そういう作品はめったに出合うことができません。セロンとベイシンガーのヌードシーンが出てきますが、特にセロンの背中があまりにも美しく、今でも鮮明に脳裏に浮かびます。
アリアガ監督の初監督作品はとても楽しめました。今後もきっと時間軸の交錯という手法をうまく駆使して、グッとくる作品を見せてくれることでしょう。でも、紳士度は☆☆。