コラム:佐藤嘉風の観々楽々 - 第5回
2008年5月15日更新
第5回:「おいしいコーヒーの真実」
一杯のコーヒーから現実を知る
突然ですが、コーヒー一杯の値段の中から、コーヒー農家に支払われる報酬はいくらくらいだと思いますか?
普段、カフェに行ってコーヒーを注文すると、大体一杯300円~600円(安いチェーンなら200円程度)が妥当な値段ですね。そして、その中からコーヒー農家に支払われるのは、なんと販売価格のわずか0.7%~3%なのだそうです。トールサイズのコーヒーが330円だとすると、コーヒー農家の売り上げは3~9円にしかなりません。
現在、先進国企業は利益最優先の理念を掲げ、発展途上国の生産者からあまりに安い価格で様々な原料や製品を買い取っており、それにより多くの生産者が貧窮や飢餓に苦しんでいます。
今回取り上げる映画は、そんなアンフェアな現在の先進国と発展途上国との取引を、コーヒーという日常生活にありふれた嗜好品をテーマに描いているドキュメンタリー映画「おいしいコーヒーの真実」。劇中では多くの農家の方々や、コーヒーに携わる企業の方々などが出演していますが、エチオピアで“フェアトレード”に力を注ぐ現地の農協連合会代表のタデッセ・メスケラ氏が作品の軸となっています。
“フェアトレード”とは、発展途上国の原料・製品を、買い手となる先進国が適正な値段で取引し、生産者の生活改善などを促進させる取り組みのこと。この映画はそんなフェアトレードについての現状や展望を分かりやすく描いています。
僕自身、毎日必ずと言っていいほどコーヒーを愛飲しているので、観ないではいられない作品でした。前述した様に、コーヒー農家への報酬は、小売店の販売価格の0.7%~3%。これでは当然農家は生活が出来ず、子供達を学校へ通わせる事も出来ず、さらには毎日の食料も十分に得られない。そんな何とも悲惨な現実をこの作品の中で目の当たりにしました。
それにしても「現実を知る」という事が、僕ら先進国に住む全ての人々のこれからの義務でもあり、課題でもあるように思います。この作品はもちろんの事、「いのちの食べかた」や「ダーウィンの悪夢」など、今後はドキュメンタリー映画作品が知る為のツールとして、非常に重要な役割を担ってくるでしょう。
その為には、内容やメッセージだけではなく、映像や音楽などに細心の注意や愛情を注ぐ必要がある気がします。その点においても、この「おいしいコーヒーの真実」は、映像はとてもリアルで、また何よりも音楽が素晴らしく、優れていると思います。アフリカ音楽のとてつもないグルーブが映像を活かし、エチオピアの人々の生きる力を表現しているのに対して、それと真逆のベクトルで飢餓や貧窮をあおる先進国の強引な取引。特別に飾り立てたような音や映像ではないはずが、もっともリアルなギャップを見せつけてくれます。
是非とも、今後を担う若い人達に観てもらいたい作品だし、これをきっかけに、コーヒーに関わる企業や販売店、カフェなどでフェアトレードに関する活動が加速していく事を願います。消費者の一員として、そういった生産者を大切にしている商品を、僕は選んでいきたいと思いました。
筆者紹介
佐藤嘉風(さとう・よしのり)。81年生まれ。神奈川県逗子市在住のシンガーソングライター。 地元、湘南を中心として積極的にライブ活動を展開中。07年4月ミニアルバム「SUGAR」、10月フルアルバム「流々淡々」リリース。 好きな映画は「スタンド・バイ・ミー」「ニライカナイからの手紙」など。公式サイトはこちら。