コラム:佐藤嘉風の観々楽々 - 第3回

2008年3月14日更新

佐藤嘉風の観々楽々

第3回:「マイ・ブルーベリー・ナイツ」
ノラ・ジョーンズの音楽への聴き込みが甘い!?

ニューヨークが熱い! 僕がここ最近影響を受けている音楽的な刺激は、そのほとんどが現在ニューヨークを中心に活動しているミュージシャン達によるものです。そのサウンドはとことんシンプルで、かつ粋であり、無駄な音などは一切なく、極限まで削ぎ澄まされたものばかり。

そんな現在のニューヨークでの音楽シーンを、第一線で引っ張っているアーティストと言えば、皆さんご存知、ノラ・ジョーンズですよ。もう、間違いありません。正真正銘、天才です。

ニューヨークの音楽シーンをリードする ノラ・ジョーンズが女優デビュー
ニューヨークの音楽シーンをリードする ノラ・ジョーンズが女優デビュー

「Don't Know Why」の大ヒットで衝撃のデビューを果たし、同曲が収録されている1stアルバム「Come Away With Me(邦題:ノラ・ジョーンズ)」はビルボートのコンテンポラリー・ジャズ・アルバム・チャートで143週連続1位という快挙を成し遂げました。僕自身も彼女の大ファンであり、これまでの全てのアルバムを愛聴しております。まったくもって、その声色の美しさや、演奏のクオリティーの高さ、サウンドの新しさには、毎回聴くたびに、ため息をつくほど感動してしまいます。

またノラ以外にもジェシー・ハリスや、エイモス・リーなど新進気鋭のNYアーティストの音楽は、必ずや21世紀の音楽文化を象徴するものになると思います。いや、むしろそういった上質な音楽が似合うような世の中になっていってほしいという願いに胸溢れています!

さて前置きが長くなりましたが、今回僕が取り上げる映画は、3月22日に全国ロードショーとなる「マイ・ブルーベリー・ナイツ」という映画です。主演は前述したノラ・ジョーンズ。まさかの俳優デビューにまずは驚き!

監督は「恋する惑星」や「ブエノスアイレス」「2046」でお馴染みのウォン・カーウァイ。脇を担う俳優は、ジュード・ロウや、デビット・ストラザーン、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマンなど超一流ばかり。このキャスティングだけでも、十分歴史的な作品となりうるし、観てみる価値があります!

他の役者も豪華だが、 まずはノラ・ジョーンズの演技が見どころ
他の役者も豪華だが、 まずはノラ・ジョーンズの演技が見どころ

内容は、一言で言えば繊細なラブストーリーです。僕の観た感想としては、恋愛における物理的な、または精神的な「距離感」がテーマとなっているように感じました。それは、離れてゆくようで近づいてゆく。近づくようで離れてゆく。もしくは、まったく移動していないようで、それでも近づいたり離れたりしている。つまり、人は常に変化しているし、ある意味では常に旅をしている。そんな事が、非常に緻密な人間の交差によってこの作品では描かれているように感じます。決して方程式では表せない世界。人間の心の奥深さを体感するでしょう。

見所はやりノラ・ジョーンズの演技ですな。彼女のライブ映像など見たことのある方は、彼女の表情の個性にすでに気付いているはずですが、映画の中でも、その独特な目線や表情が印象深く生きています。全ての演技が、原石でもある個性を越える事はなかったです。

しかしながら、ウォン・カーウァイ監督はまだまだノラ・ジョーンズの音楽への聴き込みが甘いな~。少なくとも僕よりは(笑)。映像効果を始めとした、全ての小細工が僕にしてみればノラの表情や、声の魅力を半減させてしまっているように思えました。それこそが、今回の映画作品に登場するノラ・ジョーンズと、実際のノラ・ジョーンズとの距離を引き離していると思うのですが、でも、それは裏を返すと、実は彼女の別の何かに近づいているという意味でもあるのかもしれない。

あなたはこの“距離”、どう見ますか?

筆者紹介

佐藤嘉風のコラム

佐藤嘉風(さとう・よしのり)。81年生まれ。神奈川県逗子市在住のシンガーソングライター。 地元、湘南を中心として積極的にライブ活動を展開中。07年4月ミニアルバム「SUGAR」、10月フルアルバム「流々淡々」リリース。 好きな映画は「スタンド・バイ・ミー」「ニライカナイからの手紙」など。公式サイトはこちら

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