コラム:佐藤嘉風の観々楽々 - 第2回
2008年2月15日更新
第2回「うた魂♪」
“うたを歌うこと”とは…?~
気がつけば、もう2月でございます。「今年はどんな年にしようかしらん」などと頭を悩ませているうちに1月も去り、結果としては時間に、そして世間に「お前はいつまでダラダラしとんねや!」と無理矢理背中を突き押されてしまった状態で2月がスタート。こうなったら世界中のネジというネジを全て止めてしまいたいと願う今日この頃です。
さて、そんな中で第2回目を迎える「観々楽々」。いやはやミュージシャンである以上、「うた」を題材にした映画を観ないまま素通りしてしまってはならぬ!と意気込みつつ、先日とある映画の試写会へと行ってまいりました。そう、今回取り上げる映画は4月5日公開予定の「うた(たま)魂♪」です。
この映画、監督は「雨の町」や「おばちゃんチップス」などを手がけている田中誠。主演を「天然コケッコー」で07年度報知映画賞新人賞を受賞した夏帆が担っています。今回も夏帆は独特の温度感を持った表情で映画を色付けていましたよ。
また、この映画では男子高校の合唱部部長役を、ガレッジセールのゴリさんが担当。役と実年齢の年齢差を感じさせず、見事に熱血部長を務め上げておりました。ゴリさんといえば、ダンスのイメージが強く、歌との距離感を心配していたのですが、意外に表情で歌いきっている感じがジミ・ヘンドリクスのようで面白かったです。
内容としては「合唱」を軸に、自分自身や仲間、はたまた家族と真っ正面から向かい合う事の大切さを描いた青春映画でありました。非常に分かりやすく、この映画を観るであろう子供達への配慮がなされている作品でもありました。
映画の中では、「歌とは何ぞや!」「合唱とはどうあるべきなのか!」という問いに対して、熱く何かを語りかけてくれますが、ここで僕の意見を述べると、「うたを歌うこと」は結論から言えば、僕は自由で良いと思っています。特に強制的なルールがあるわけでもなく、気持ちを込めようが、適当に歌おうが、泣きながら歌おうが、鼻歌程度であろうが、同じ行為なのだと思っています。
まあ、合唱ともなるとさすがに規制が設けられ、統率心、忠誠心などが必要になってくるし、独りよがりな歌唱は危険になってきますが、それでも基本は自由であるべきだと思います。かの有名な「WE ARE THE WORLD」なんか、自由と個性の上塗り大会の様で素晴らしいですよね! と言うか、あれ以上のフリーダムな合唱はありえませんっ(笑)!
っと、ここで一つ詩を詠みます。
~窓を開ければ太陽系。扉を開けたら銀河系。音の宇宙を行く舟は、帰路を持てずに彷徨うか。浅瀬で沈むが幸いか~
「うた」をもってして、何かを表現したり、相手に何かを伝えるということは「うたを歌う事」の意味を遥かに超越しています。自分の中に「うた」を入れるのか、「うた」の中に自分を入れるのか、はたまた「うた」を自分の側に置いておくのかでは、住む世界が違うのです。
音楽という天体を眺めながら「綺麗だね~」と愛する人に口ずさむのか、はたまた家族や友人、可愛がっていた犬などに別れを告げ、宇宙船に乗り込んでは大好きな宇宙へ飛び立っちゃうのか。その違いを改めて巡らせてほしいものです。もっともそれは、音楽に限らず全てのアートに共通していますが。
映画の中で歌われる楽曲の中に、北原白秋作詞・山田耕筰作曲の「待ちぼうけ」という曲が出てきますが、この曲はもはや、遥か何万光年先を旅している様でありました。この映画の中で、僕の一番好きだったシーンは「待ちぼうけ」の合唱シーンで間違いありません。
最後に、この映画にもご出演された草薙幸二郎さんのご冥福をお祈りいたします。
筆者紹介
佐藤嘉風(さとう・よしのり)。81年生まれ。神奈川県逗子市在住のシンガーソングライター。 地元、湘南を中心として積極的にライブ活動を展開中。07年4月ミニアルバム「SUGAR」、10月フルアルバム「流々淡々」リリース。 好きな映画は「スタンド・バイ・ミー」「ニライカナイからの手紙」など。公式サイトはこちら。