コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第96回
2021年6月24日更新
開幕直前のカンヌ映画祭、今年は一挙に作品数増 2部門新設、ラインナップ発表後に約20本追加
いよいよ今年のカンヌ映画祭が7月6日から開始されることになった。フランス政府が海外観光客の受け入れを承認したとともに、7月1日から1000人以上収容するイベントにゴーサインを出したことで決定した。
今年の特徴を挙げるなら、まず作品数が多いことだ。オフィシャル部門と言われる従来のコンペティション、アウト・オブ・コンペティション、スペシャル・スクリーニング、ミッドナイト・スクリーニング、ある視点部門のそれぞれで、作品数が以前より増えていることに加え、「カンヌ・プレミア」と「環境映画」の両部門が新設された。カンヌ・プレミアに並んだアルノー・デプレシャン、シャルロット・ゲンズブール(監督作)、マチュー・アマルリック、ホン・サンスといった顔ぶれを見る限り、ここはいわゆるカンヌの秘蔵っ子部門と言えるようだ。
また6月3日にラインナップが公表されて以降も、続々と追加作品が発表になり、なんと開催2週間前にもまだ追加されている。追加作品が出るのは最近の傾向としても、例年ならせいぜい5~6本というところが、今年は20本近くにものぼり、気づけば増えているという状況なのだ。
いったいなぜここまで増やすのか、という理由については、昨年からのロックダウンの影響で、未公開作品が溜まっている事情がある。だがそれ以上に、むしろ併設部門(監督週間、批評家週間)、あるいは他の映画祭に作品を取られたくないという思いが強いにちがいない。併設部門との作品取り合いのバトルは今に始まったことではないが、とくに影響を被るのは宿敵ベネチア映画祭だろう。ただでさえ、7月にカンヌが延期されたことで、9月のベネチアとのインターバルが狭まったのに加え、ここまで本数を増やされては、ベネチアもたまったものではない。コンペに入ったナンニ・モレッティ、あとから追加になった栄誉パルムドールを授与されるマルコ・ベロッキオの新作など、イタリアの2大巨頭がカンヌというのも、皮肉を感じる。
第2の特徴は、どの部門もフランス映画が多いこと。こちらもやはり長く続いたロックダウンによる影響である。ディレクターのティエリー・フレモーも、記者会見でフランス映画産業のバックアップを強調していた。
また今回はパンデミック以降初めてのカンヌゆえに、さまざまなレギュレーションが追加になった。たとえば座席はすべてオンライン完全予約制。会場内やレッドカーペットではマスク着用で、入場時にはワクチン接種済みのQRコード、またはPCR検査の陰性証明が必要になる。ワクチンを接種していない者は、48時間ごとに検査を受けなければならない。そのために会場近くに特設検査場が設けられる。
もっとも、一歩外に出れば、7月の南仏はフランス人バカンス客で混み合う上に、路上ではマスク着用は義務ではなくなっている。正直、どこまで安全であるかは誰にもわからないところだろう。
審査員長のスパイク・リーや、もうひとりの栄誉パルムドール受賞者となるジョディ・フォスター、ウェス・アンダーソン監督「ザ・フレンチ・ディスパッチ(原題)」組や、マット・デイモン(「Stillwater」)など、ハリウッドスターの参加も予定されているが、果たして無事に感染者を出すことなく開催を終えることができるのか。もしかしたらオリンピックと同じぐらい、不確かなことと言えるかもしれない。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato