コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第68回
2019年3月1日更新
「シティーハンター」実写版がフランスで公開 2週間で動員100万人超
北条司氏の人気漫画「シティーハンター」をフランスで実写化した新作、「ニッキー・ラルソン」が、マンガ、アニメファンに大きな話題を呼んでいる。一般的に日本の漫画はフランスで幅広いファンを獲得しているが、「シティーハンター」は日本のアニメ版がフランスでも90年代に放映されており、当時から熱狂的なファンが多かったとか。今回、監督・主演を務めた1980年生まれの人気コメディアン、フィリップ・ラショー(「世界の果てまでヒャッハー!」)もそのひとり。ラショーは、プロットと企画書、手紙を北条氏の事務所に送付、そのプロットを北条氏が気に入り、その後出来上がった脚本を携えてラショーが日本に行き、映画化の許諾を得たそうだ。
映画は2月6日に公開され、2週間ですでに100万人を超える動員を記録している。人気の理由は、下ネタも含め原作にできるだけ忠実であること、コメディとアクションの融合といった要素にあるようだ。また「ギャグの連発がとんでもなく可笑しい」「コメディセンスのあるラショーがいい」「かつてのジャッキー・チェン版より原作の味が出ている」という声が聞かれた。ラショー自身も、「まずは原作に極力忠実であること。その上で、ニッキー・ラルソンの世界観と自分のユーモアを融合させた、アクションコメディを作ることを心がけた。それにいま映画化するにあたり、たとえば『キングスマン』のような現代的なアクションコメディを参考にした」と語っている。
実際作品を観ると、原作の「つねに頭の中がエロな妄想で一杯」という主人公のイメージそのままに、かなり大人向けだ。ギャグも下ネタ関係が多く(なんとパメラ・アンダーソンも久々の登場)、そのあたりはさすがフランス映画というところか。ちなみにわたしが劇場で観たときの客層は、20代から30代の大人が中心。年齢制限はないので、中には家族連れの姿も見られたが、さすがに小学生にはいささか刺激が強いのではという気もした。
もっとも、脇役陣には意外に渋い俳優たちが集まっているのに驚かされる。演劇出身のディディエ・ブルドン(「花咲ける騎士道」)、「コーラス」などのベテラン、ジェラール・ジュニョ、そしてラルソンのパートナー、トニー役に、アラン・ドロンの再来と言われる「黒いスーツを着た男」のラファエル・ペルソナなど。
現地のメディアのインタビューに応じた北条氏は、「『世界の果てまで~』を見て、この人が(『ニッキー・ラルソン』を)撮るといったいどうなるのだろうと楽しみでした。不安もありましたが、シナリオを読んで安堵した。楽しいですから、期待して下さい」と語っている。
フランスのメディアの評価は、カイエ・デュ・シネマ誌やリベラシオン紙といった、この手の作品が苦手な映画通系からは黙殺されているものの、大衆的な媒体の評価は悪くない。週刊誌のテレラマは、「アクションシーンのクオリティとラブストーリーの純粋さが強み」と評している。果たして一般的にどこまで広がるか、今後の数字を見守りたい。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato