コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第64回
2018年10月25日更新
ジュリアン・シュナーベルがキュレーションの展覧会、オルセー美術館で開催
今年のベネチア映画祭で、ゴッホを描いた8年ぶりの新作「At Eternity’s Gate」を発表したジュリアン・シュナーベル。自身も画家として活躍する彼が、ゴッホをはじめ印象派の画家の作品を豊富に所蔵するパリのオルセー美術館でキュレーションを務めた、「Orsay Vu Par Julian Schnabel」(シュナーベルから見たオルセー)展が始まった。
10月10日のオープンに先立つ内覧展は、美術館側の招待者と「シュナーベルの友人たち」に限られたものとなったが、新作を共同執筆した脚本家のジャン=クロード・カリエールはもとより、キャストのエマニュエル・セニエのパートナーでもあるロマン・ポランスキー、アレハンドロ・ホドロフスキー、たまたまパリにいたギレルモ・デル・トロら華やかな顔ぶれが集まり、「さすがはシュナーベル」という、その人脈の広さを感じさせるものだった。
展示作品はゴッホが亡くなる前年に描いた自画像を筆頭に、ゴーギャン、セザンヌ、マネ、モネ、クールベ、ロートレックらの作品が、シュナーベル自身の作品と呼応する形で配置されている。それは肖像画というテーマであったり、技法であったり、あるいは色彩の共通点といったものだが、必ずしも直接的なものではなくてもさまざまな画家から影響を受け、現代画家としてそれを自分なりに消化し探求するシュナーベルの姿勢が感じられる。全体的には25点たらずと少なめだが、オルセーが誇る名画とシュナーベルの大きな作品のコンビネーションは斬新で意外性に満ちている。シュナーベルは本展の意図を、「鑑賞者に新しいパースペクティブを与えたい。たとえばこれまで見慣れた名画でも新しい視野をもたらしてくれるような。そこから何かフィジカルで直感的なインパクトを与えられたらと思った」と語った。
思えばシュナーベルは理論的なアーティストではなく、至って感覚的なアーティストである。新作「At Eternity’s Gate」にしても、ありきたりな自伝的アプローチではなく、コミュニティのなかに馴染めず、孤独で理解者のいなかったゴッホの頭のなかを見つめ、その眼差しを通して世界を見つめ直すような映画だ。ベネチアで審査員長を務めたデル・トロは本作について、「絵画と画家についての、彼らの無限大の関係についての作品。その中心にあるのは真実だ」と評した。ゴッホにとっての真実、ゴッホが絵画に求めた真実を探ろうとする作品と言える。
映画のなかで、「わたしの絵はわたし自身だ」とゴッホは語るが、これはもちろんシュナーベルにとっても同様だろう。この展覧会では、そんなアーティストがいかに先人たちから影響を受けてきたかも窺えて、興味深い。
展覧会は2019年1月13日まで開催中だ。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato