コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第3回
2013年10月24日更新
「ムード・インディゴ」ロケ地はパリジャンが集う隠れた観光スポット
パリにはガイドブックには載っていない、隠れた観光スポットがたくさんある。なかには少々危険なエリアだったり、じつは立ち入り禁止なのにパリジャンが勝手に入ってスクワットを楽しんでいるような場所もあり、堂々と紹介するのは気が引けるものの、そういうところの方が地元っぽくて断然面白かったりするものだ。
現在日本で公開中の、ミシェル・ゴンドリーの新作「ムード・インディゴ うたかたの日々」のロケで使われた、プティット・サンチュール(小さなベルトの意味)と呼ばれる場所もそのひとつ。映画のなかで、主人公の青年コラン(ロマン・デュリス)と恋人のクロエ(オドレイ・トトゥ)が初めてデートする、トンネルの鉄道跡がそれ。かつては電車が通っていたこの廃線は、その名前通りパリの街をぐるりと取り囲んでいた。現在は再開発などでところどころ断絶されてしまったが、それでも風情に満ちた景観がそこかしこに残っている。基本的には柵で覆われ立ち入り禁止になっているものの、中に入ると意外に散歩をしている人々に出くわしたりする。もちろん、みんなこっそり忍び込んだ人々ばかりなのだが。実際、ぼうぼうと草が茂る線路のすぐ脇に近代的なアパルトマンが建っていたりするのはなんとも不思議なコンビネーションで、この感覚は他では味わえない。元駅舎の壁一面がファンキーなグラフィティで彩られているのも楽しく、運が良ければ雑誌のファッション撮影などに出くわしたりもする。ただし、不良青年たちがたむろってドラッグをやっている場合もあるので、昼間だからといって一人歩きは男女ともに絶対に避けるべきだ。何かあっても容易に外に逃げられない、というリスクと背中合わせであることは忘れないようにしたい。
もうひとつ、「ムード・インディゴ」にも登場するほか、これまで何度も映画に使われているのが、数あるパリの公園のなかでもユニークな景観を持つビュット・ショーモン。パリの北東、19区に位置する約24ヘクタールの緑地で、パリ20区内では3つ目に大きな公園である。真ん中には大きな池を擁し、人工滝や小さな洞窟があるほか、ごつごつとした岩肌の出島が浮かび、その外観はちょっとしたジャングルの様相を呈する。ぐらぐらと風に揺らぐ吊り橋を渡っていくのがなかなかスリリングだ。
さらに敷地内には2つの洒落たカフェがあり、そのうちのひとつ、Rosa BoneurはWhy Not Productionsという映画製作、配給会社(アルノー・デプレシャンやジャック・オーディアールの作品などを製作)によって経営されている。じつは現在ここがパリでもっともホットなゲイの社交場となっている。普段は子連れのファミリーなどが集う普通のカフェなのだが、いつからか日曜の夜はゲイが集まる日となった。といっても女子禁制ではないため、誰でも自由に入れるものの、夕方6時ともなるとイケメン男子で超満員になり、外には順番待ちの長蛇の列ができるほどに。中に入りたいなら4時頃までに行くことをオススメする。
ちなみに同じ系列で最近、左岸のセーヌ沿いにEn Attendant Rosaというビアガーデンもできた。これから寒くなる時期ゆえ、川沿いのビアガーデンはいまいち気分ではないが、ここにもそのうちイケメンが集うようになるのだろうか。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato