コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第21回

2015年4月23日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

初のフィルム上映から120周年、リュミエール展がパリで開催

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映画を最初に発明したのはエジソンかリュミエール兄弟か、はたまたレオン・ボウリーか、もっと名もなき発明家か。このあたりはつねに議論の的になるところ。だが確かなことは、リュミエール兄弟がシネマトグラフ(撮影と映写の機能を持つ複合映写機)を発展させ、映画の歴史に多大な軌跡を残したこと、さらに今日まで続く有料の映画の上映という興行形式を生み出したことだ。

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今年は、そんな彼らが初めてフィルムを上映してから120周年に当たる。それを記念して、パリのグラン・パレでリュミエール展が開催されている。

会場は映画技術の発展に沿って、おもに5つの項目に分けられている。最初のシネマトグラフ以前の時代では、1800年代半ばからのマジックランタンやエジソンの開発したキネトスコープ(ひとりずつ覗き穴から動く写真を鑑賞する)など、リュミエール以前の貴重な機材が展示されている。その後はリュミエール家の歴史と映画の発展について。父の代から写真の開発に力を注いでいたリュミエール家がついにシネマトグラフを開発し、その2年後には商品化もした経緯。さらに時を同じくして、ジョルジュ・メリエス、レオン・ゴーモン(現ゴーモン社)、シャルル・パテ(現パテ社)が登場し、4つどもえの競争を繰り広げた時期など。この頃会社として発展を遂げたリュミエールは、助手を何人も国外に送り出し、世界各地の様子をフィルムにおさめさせている。会場には1897年に早くも日本で作品を上映したことが伺えるポスターもある。その後はカラー映像の開発に発展していった時代の資料が展示されている。

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もっとも、本展の最大のみどころは、1422本もの短編を一斉に上映している“シネマウォール”だ。短編といえどすべてを見るにはいったい何時間かかるのか(というか、上の方はほとんど見えない)という印象ではあるが、本展のオープニングに合わせてパリを訪れたリヨン市リュミエール研究所のティエリー・フレモー(カンヌ国際映画祭のディレクターとしても知られる)によれば、近年発掘され今回が初公開になる映像も多数含まれているという。また本展を単なる回顧展にしたくない、という彼の意向のもと、今日のデジタルや3Dへの変化とその未来を考える契機として、キアヌ・リーブス制作のドキュメンタリー「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」も上映されている。日本でも公開された本作は、キアヌ自身がプレゼンターとなってさまざまな映画人に取材。その内容は示唆に富んで面白い。

展覧会の最後を締めくくるのは、現代の6人の映画監督(クエンティン・タランティーノペドロ・アルモドバルマイケル・チミノジェリー・シャッツバーグパオロ・ソレンティーノグザビエ・ドラン)が、リュミエール兄弟の「工場の出口」をそれぞれ“リメイク”した短編だ。現在はリュミエール研究所となっている元工場の同じ場所にカメラを据え置きつつ、出てくる人々を演出した余興的な作品である。さらに5月のカンヌ国際映画祭でもリュミエール兄弟にオマージュが捧げられるほか、短編を集めたDVDボックスセットも発売される予定だ。

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ちなみに同じく120周年を迎えたゴーモン社も、パリの19区にあるカルチャー・センター104で展覧会を開催している。自社の作品の抜粋映像や、衣装や小物、ポスターの展示がメイン。最近のものではリュック・ベッソンの「レオン」「フィフス・エレメント」「ジャンヌ・ダルク」などの衣装も展示されており、こちらは無料で一般に開放されている。この期間にパリを訪れる機会がある方は、足を運びがてら、120年の歴史に思いを馳せるのも一興だろう。

リュミエール展(http://www.grandpalais.fr/en/event/lumiere-le-cinema-invente)は6月14日まで。ゴーモン展(http://www.104.fr/programmation/cycle.html?cycle=83
)は8月5日まで。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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