コラム:挑み続ける男 大友啓史10年の歩み - 第2回

2021年4月6日更新

挑み続ける男 大友啓史10年の歩み

新風を吹き込んだ「るろうに剣心」で実現させたかったこと

10回連載の特別企画【挑み続ける男 大友啓史10年の歩み】。第2回は、独立後初の映画監督作となった「るろうに剣心」について。漫画原作でありながらも、漫画は漫画、映画は映画、実写映画として作品を成立させた背景には一体どんな挑戦があったのか。また「るろうに剣心」=本格アクションという構図を打ち立て、日本の時代劇、日本のアクション映画に新しい風を吹き込んだ大友啓史監督が「るろうに剣心」で実現させたかったこととは──。(取材・文/新谷里映、撮影/根田拓也)

──2011年4月にNHKを退社、同年8月にはワーナー・ブラザースと3本の監督契約を交わし、フリーランス監督として順調ともいえるスタートを切ります。そこにはどんな経緯があったのでしょうか。

NHK時代に「ハゲタカ」の映画版を撮っていたこともあって、独立前にもいくつか映画監督としての仕事の依頼はありました。そのなかで、プロデューサーの松橋(真三)さんを通して、ワーナー・ブラザースからお誘いがあって。すぐにワーナーとの3本契約が決まり、最初の1本が「るろうに剣心」でした。

──「るろうに剣心」は、後に全5作になる大きなシリーズになるわけですが、「るろうに剣心」を監督したいと思った決め手は何だったのでしょうか。

るろうに剣心」が少年ジャンプ掲載の漫画であることは知っていました。自分が好んで読んできた漫画とは随分違うタッチの絵でしたが、読んでみると「龍馬伝」以降の時代を描いた流浪人の話。しかも映画化の主演は(「龍馬伝」で岡田以蔵を演じた)佐藤健を考えていると聞いて。実は、「龍馬伝」後の企画として<人斬り龍馬>という構想もあって、映画で坂本龍馬をやりたいと思っていたんです。龍馬は誰も斬らなかったけれど、生涯でたった一度だけ人を斬ったことがあったという設定で、その理由をめぐるオリジナル。大河ドラマ「龍馬伝」よりも、もっと骨太い龍馬をワンエピソードで描きたいなと。そのイメージと「るろうに剣心」の抜刀斎の物語、特に巴とのラブストーリーが繋がって──。それで、退局後の一作目として「るろうに剣心」を選択したんですね。

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──すべてが運命的に繋がっていますね。漫画「るろうに剣心」の実写映画化で、最初に考えたことはどんなことでしたか。

原作の売りは、少年漫画王道の剣心と宿敵との壮絶な格闘シーンですから、映画「るろうに剣心」はアクションを重視したエンタテインメント色の強い映画にすべきであると考えました。剣心の超高速アクションを映像化するうえで、当初はプロデューサーからモーションキャプチャ・スタジオのプレゼン映像を見せられたり、アクションの大部分をVFXでという選択肢もありました。それはそれで色々できるのではないかと可能性は感じたのですが、同時にハリウッド留学時に観ていた「スポーン」という映画を思い出して。主人公のマントがふわぁっとなる動きがCGで表現され、当時現地では結構評判になっていたんですが、僕にとってはあんまり……だったんですよね。10年経ってVFXも進化していますから色々研究してみましたが、やはり風になびく衣装といった表現が、うまく形になる見込みが立たない。アクションに伴う着物の細やかな動きをVFXでリアルに再現することは、難しいのではないかと思うに至りました。

──VFXに頼らないということは、役者の身体能力に託すことになりますね。

刀での戦いについてリサーチするなかで、古武術の研究者である甲野善紀さんらの話も聞いたりして、やっぱり生身でやったほうが面白くなるなと確信しました。剣心は、無敵のヒーローというよりも、あくまでひとりの侍ですしね。「京都大火編」のなかの恵のセリフに「剣さんは、運動神経が優れているだけで私たちと何も変わらない。普通なら治るような傷でも、度重なれば確実に損傷は蓄積される」と薫に向かって話すシーンがありますが、そのセリフにあるように、運動神経の優れた侍が鍛え上げた生身の肉体でどこまでのことができるのか、映像表現で追求したかったというのもあります。

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──その生身の肉体をどう演出するのかを託されたのが、アクション監督の谷垣健治氏ですね。彼の起用のきっかけは何だったのでしょうか。

谷垣さんの存在を知ったのは、ハリウッド留学中です。当時、色々な映画を勉強するなかでサイレント喜劇に辿りつき、特にキートン(バスター・キートンチャールズ・チャップリンハロルド・ロイドは、世界の三大喜劇王と呼ばれている)が僕のお気に入りで、あの時代の彼らのトリッキーな動きを見て、言葉がなくても伝わってくる表現の力強さに引き込まれました。その流れで、サイレント映画の延長線上にある身体的表現として、アクション映画を集中的に研究していた時期があって、ロサンゼルスのチャイナタウン、コリアタウン、いろんなエリアにあるレンタルビデオ屋をまわってアクション映画を観まくっていました。その時、チャイナタウンのビデオ屋にドニー・イェンの初期作品があって、テレビシリーズ「精武門」(ブルース・リー主演の「ドラゴン怒りの鉄拳」のリメイク)とかですね。クレジットにスタントマンとして谷垣さんの名前もあった。日本人の名前なので印象に残っていたんです。彼のベースになっている80年代の香港アクション映画が、僕も大好きだったということもあって……。谷垣さんもその後、着々とキャリアを積み重ねていましたから、彼に参加してもらうのがベストであると考えました。

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──谷垣さんと共に作っていったアクション。1作目の「るろうに剣心」では、スピード感だけでなく、何この動き!? という見たことのないアクションの数々に驚かされました。剣心をはじめ各キャラクターのアクションはどうやって生まれたのでしょうか。

まずは、剣心が生きてきた時代背景と置かれた立場をイメージすることで、キャラクターをつかんでいきました。明治という新しい時代が訪れ、武士という身分で古い時代を生きてきた人たちは、廃刀令で刀を奪われてしまう。剣心もまさにその1人です。とはいえ、彼に残された技術は剣技しかない。二度と人は斬らないと誓った彼が手にしているのは逆刃刀。元人斬りが、人を斬ることのできない刀で、贖罪の意も込めて、目に映る周囲の人々を助けていく。逆刃刀だから「斬る」ではなく「当てる」だよね、斬らないから殺さないよね、スピードも違うよね、間合いから何から普通の時代劇とは違うよね……と、そんなことを話しながら、映画ならではのケレン味やアクション表現としての面白さ、「こういうこともできる」といった様々な技術を詰め込んだテスト映像を、谷垣さんたちアクション部に創り上げてもらった。剣心の動きを具体化したその映像を(佐藤)健くんに見てもらった。

──佐藤さんがよく取材で「撮影前にアクション映像を見せてもらった」と語っているのはその映像のことですね。役者にとっても、そういう挑戦は大変であるけれど嬉しいものなんでしょうね。

だと思います。「アクションも芝居の要素の一つ」ですから、向こう(ハリウッド)の俳優と同じく、当然のように身を挺してアクションをこなせる俳優が日本でも育ってほしい。海外で戦える俳優を育てるためにも、常々僕はそう思っていました。とはいえ1作目はまだ手探りの感もあって、アクションシーンも芝居と同じく一連で撮るという、むちゃ振りをしていましたね。脚本の緩急も、普通はアクションシーンを「急」としてとらえ少なめに設定しますが、「るろうに剣心」の場合は次第に逆の発想になっていった。アクションで転がして、その間にドラマが入ってくる。特に最終章「The Final」は、「京都大火編」「伝説の最期編」を一本にしたかのようなアクションの分量、緩急のバランスを意識しました。

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──冒頭からクライマックスまで、「The Final」のアクションには驚かされっぱなしでした。剣心の戦い方に理由があるように、剣心と戦う、剣心に戦いを挑む者たちにもそれぞれ戦い方がある。アクションも芝居であるという監督の言葉、納得です。

るろうに剣心」は、刀なしでは生きていけない、新時代に生き残ってしまった元侍たちの物語です。キャラクターの生き様が其々の戦い方に表れる。アクションチームと共に、演じる俳優の運動神経を見極めながら、その個性をアクションで構築する作業を積み重ねました。一方で、「龍馬伝」のときと同じように、何より大切にしたのは「汚し」の表現です。とにかく(ただ単に綺麗に見せようとする)デオドラント感が大嫌いで。すべてがバーチャル化していく中で、映像表現として、アクションに代表される「身体性」を大切にしたい。汚しやエイジングは、それを補填する最重要ツールの一つです。汗をかいたり、血を流したり、それは人間が人間であることの証でもあって。生身と生身のぶつかり合いから生まれるリアリティをエンタメとして昇華させていく。そんな考えがベースにありました。

──まさに感情が見えるアクションですよね。そこにこだわったからこそ、漫画原作の映画化でありながら、漫画は漫画、実写は実写、ある種、別もののエンタテインメントに昇華したわけですね。

最初は、どうしても漫画原作と「似ている」「似ていない」という視点で比較されましたが、ここまでやってきて感じるのは、実写の「るろうに剣心」はこういう世界観なんだと(原作と線を引いて)見てもらえるようになったこと。乗り越えた感はあります。二次元の世界は、原作者がキャラクターをすべてコントロールできますが、生身の人間が演じる実写映画では、監督といえども、すべてをコントロールすることはできない。汗が出たり、息が切れたり。人は疲労し、消耗する。涙を流してほしいところで泣けないことも、逆に思いがけずこぼれ落ちる涙もある。生身の芝居に落とし込んでいくので、演じる俳優たち個々の思いがけない感情も注ぎ込まれます。1作目で、剣心の衣装を最初は赤にせず、物語の流れで赤い衣装に着替えるという方法をとったのは、心理的リアリティ重視の演出です。新時代のために戦い、散々人を斬り、廃刀令が出ているのに刀を持って町中を彷徨っている。贖罪の念にとらわれているなら、ひと目につかないようにひっそり生きているはずで、ことさら目立つ真っ赤な着物を着ているはずがない。二次元の漫画で不問にできたことも、実写では必ずしもそうはいきません。

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──そうやって創り上げた「るろうに剣心」は、世界に通用するアクション映画として新作ごとに期待される存在になりました。

僕自身、「るろうに剣心」のアクションが当たり前になってしまったので、ハリウッドのアクション映画を観ても細かいところが気になるようになってしまった。それゆえ、有象無象の亜流のアクション映画も増えている気がしていて。作り手のスタンスとしては、谷垣さんと「ここらで一発、(るろ剣の凄さを改めて)見せておこう」という気持ちや気負いが、最終章「The Final」「The Beginning」の撮影時にはありましたね。

──最終章については、連載の後半で改めてうかがいますが、その凄いチームが、1作目からずっと最終章もほぼ同じメンバーで撮っていることに強い縁を感じます。

大切なのは総合力と愛情だと思います。アクションチームのアイデアと優れた技術、ハードな撮影に食らいつき映像クオリティを追求し続けた撮影部、照明部。現場音にこだわって拾い続けた録音部。動的な動きも計算したうえで、オリジナル衣装やメイクを作り続けた衣装メイクデザインチーム。勝負を賭けた、見事なマネーカット(お金をかけるだけの価値のあるカット、お客を呼べるような価値あるカット)を創り上げてくれたVFXチーム。美術のセットを壊すって、よくよく考えると結構なことなのに、壊されることもいとわず、足が滑らないよう床の素材を変えたり、常に万全の用意をする美術部、装飾部もすごい。そして、我々のわがままを可能にしてきた(笑)制作部、演出部。ポスプロチームも含め、1作目から共に挑戦し続けてきた「るろうに剣心」チームは、四番バッター揃いの凄いチームに成長したと思います。

【次回予告】
第3回は、時代劇から現代劇へ更なる挑戦と、大友流スタッフすべてをクリエイティブにする方法をお届けします。

筆者紹介

新谷里映(しんたに・りえ)。雑誌編集者を経て現在はフリーランスの映画ライター・コラムニスト・ときどきMC。雑誌・ウェブ・テレビ・ラジオなど各メディアで映画を紹介するほか、オフィシャルライターとして日本映画の撮影現場にも参加。解説執筆した書籍「海外名作映画と巡る世界の絶景」(インプレスブックス)発売中。東京国際映画祭(2015~2020年)やトークイベントの司会も担当する。

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