コラム:第三の革命 立体3D映画の時代 - 第1回

2008年1月29日更新

第三の革命 立体3D映画の時代

第1回:第3次立体映画ブーム

■立体映画ブームの到来

現在「ベオウルフ/呪われし勇者」に続き、「ルイスと未来泥棒」が国内29館の劇場で立体上映されている。さらにハリウッドからは、次々と新作立体映画の企画が発表され、来年~再来年と興味深いタイトルが目白押しだ。その中には、映画興行記録を塗り替えるのではないかと期待される超注目作品もある。さらにはハードウェア面においても、新たな技術が次々と生み出されており、立体上映設備を導入した劇場もすごい勢いで増加しつつある。

日本でも本格的に3D上映が行われた「ベオウルフ」
日本でも本格的に3D上映が行われた「ベオウルフ」

こういった状況から、1950年代の第1次と80年代の第2次に続く「第3次立体映画ブーム」が到来したと言えるだろう。ドリームワークス・アニメーションCEOのジェフリー・カッツェンバーグは、筆者のインタビューに対し「3Dはトーキー、カラーに続く映像の革命だ。今後はすべての映画が立体になる可能性がある」と述べたが。その言葉が現実になる日も近いように思われる。

■なぜ今、立体映画なのか?

では、この降って湧いたような立体映画ブームはどうして起きたのか。そのきっかけとなったのは、05年春にラスベガスで開催された映画興行関係者向けのコンベンションShoWestであった。ここで、ジョージ・ルーカス、ロバート・ゼメキス、ジェームズ・キャメロン、ロバート・ロドリゲス、ランダル・クレイザーらの映画監督たちが、立体上映に関するシンポジウムを行った。そこで話し合われた内容は「観客の劇場離れをくい止めるため、新たな映写手法の開発に取り組む必要がある。そのための最善の方法が立体映像だ」という主張であった。

このような発言が行われた背景には、03~05年に続いたハリウッドの興行成績不振がある。その後は回復傾向になったものの、長期的に考えた場合、ホームシアター、次世代DVD、ネット配信などの技術は、確実に高度化していくだろう。このまま何もしなければ、劇場まで足を運ぶ理由はどんどん希薄になっていくだけだ。映画館の存在価値を取り戻すためには、家庭ではけっして体験出来ない特別な視覚環境を作り出す必要がある。

■今後上映される立体作品

では実際に現在、どの程度の立体映画が制作されているのか。以下に主な作品を紹介する。

○ディズニー

ディズニーは「DISNEY DIGITAL 3-D」のブランドで、次々と作品を送り出すことが決まっている。まず米国で08年2月1日より、「Hannah Montana/Miley Cyrus: Best of Both Worlds Concert Tour」が公開される。これは、ディズニーチャンネルやテレビ東京系列で放送されているテレビドラマ「シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ」の主演キャラクターであるマイリー・スチュワート/ハンナ・モンタナ(マイリー・サイラス)のコンサートツアーを立体撮影した作品だ。

アニメーションでは「チキン・リトル」(05年)や「ルイスと未来泥棒」(07年)に続き、フルCG作品の「ボルト」(08年11月26日全米公開)の立体上映が決定している。監督は「ムーラン」や「ラマになった王様」のストーリーを担当していた、クリス・ウィリアムスである。

さらにはピクサー・アニメーション・スタジオの作品も立体化される予定で、リー・アンクリッチが監督を務める「トイ・ストーリー3D」(10年6月18日全米公開)が制作中だ。ピクサーではこれに先立ち、「トイ・ストーリー」(09年10月2日全米公開)と「トイ・ストーリー2」(10年2月12日全米公開)を2D→3D変換して、Disney Digital 3-Dとして再公開する。

ロバート・ゼメキス監督も「ベオウルフ/呪われし勇者」に続き、ディズニーが配給する「クリスマス・キャロル 3D」(09年11月6日全米公開)の制作に入っている。これはチャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」を題材に、ジム・キャリーがパフォーマンス・キャプチャーによってマルチキャラクターを演ずる他、トム・ハンクス、マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイドなどゼメキス映画の常連が総出演するというものだ。

またティム・バートンもディズニーで2本の立体映画を計画している。1本は、バートンがディズニーに在籍していたころに制作した実写短編「フランケンウィニー」(84年)を、長編ストップモーション・アニメーションとしてリメイクする「Frankenweenie」(09年12月全米公開予定)。もう1本は、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」を、実写とパフォーマンス・キャプチャーを組み合わせて立体映画化する「Alice in Wonderland」(10年全米公開予定)である。

○ドリームワークス・アニメーション

ドリームワークス・アニメーション社の立体第1弾は、ボブ・レターマンとコンラッド・バーノンが監督を務めるフルCGアニメ「Monsters vs. Aliens」(09年3月27日全米公開)である。そして同社はこれ以降の全アニメーション作品を、年2本ずつのペースで立体上映するというアナウンスを行った。

具体的に発表されているのは、クレシーダ・カウエルの児童書を原作とする「How to Train Your Dragon」(09年11月20日全米公開)と、「シュレック」シリーズの第4弾「Shrek Goes Forth」(10年5月全米公開)である。さらにこれに「シュレック」の第5作目が続くと言われている。これらの作品は、Real D方式やドルビー3D方式に加えて、新たに開発されたIMAX(R) DIGITAL 3Dシステムでの立体上映が計画されている。

また、スティーブン・スピルバーグとピーター・ジャクソンのコンビが手掛けると話題の「Tintin」も立体映画になる可能性が高い。これは、世界的に有名なコミック「タンタンの冒険旅行」を、WETAデジタル社がパフォーマンス・キャプチャーによって3部作のフルCG映画にするという計画で、監督はスピルバーグとピーター・ジャクソンがそれぞれ1本ずつ手掛け、ロバート・ゼメキスにも打診されているらしい。第1作は09年に公開される予定である。

○20世紀フォックス

IMAX 3Dのドキュメンタリーを作り続けてきたジェームズ・キャメロンが、「タイタニック」以来12年振りとなる劇場用作品として制作中なのが、SF超大作「アバター」(09年12月18日全米公開)である。自ら開発を依頼した立体デジタル撮影装置フュージョン・カメラ・システムと、パフォーマンス・キャプチャーによる超リアルCGを組み合わせて描く作品で、VFXはニュージーランドのウェタ・デジタル社が担当。VFXスーパーバイザーは、「キング・コング」(05年)のジョー・レッテリが手掛ける。

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筆者紹介

大口孝之のコラム

大口孝之(おおぐち・たかゆき)。立体映画研究家。59年岐阜市生まれ。日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター、世界初のフルカラードーム3D映像「ユニバース2~太陽の響~」のヘッドデザイナーなどを経てフリー。NHKスペシャル「生命・40億年はるかな旅」のCGでエミー賞受賞。「映画テレビ技術」等に執筆。代表的著作「コンピュータ・グラフィックスの歴史」(フィルムアート社)。

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