コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第19回

2020年4月20日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング
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事務所から出られなかったですねえ

上田:淳太くんはね、監督とカメラマンをやるんですよ。

大高:えっ、そうなんですね。

山口:映画の撮影は、段取り・テスト・本番ってなりますよね。今回は段取りの時に、僕は役者さんとお芝居のディスカッションするのと同時にカメラワークも考えないといけないんです。順撮りしていく中での物語の終盤、大事なところを撮っていた時に、僕がカメラワークをミスったんです。役者さんはすっごく良いお芝居してたのに、もうこれはもう限界だって。(撮影を止めて)上田さんに思いの丈を聞いてもらうこともありました。

上田:僕のワンミスであんな雰囲気なったらちょっとこれは辛いんでって。愚痴でしたね。いや、そんななってないけどなっていう(笑)。

朝倉:あー、わかります。

土佐:もう苦しいですね、自分のミスは。

山口:本当に涙出ましたし、やばかったです、あの時は。それを見かねて藤谷理子ちゃんが「淳太さん、はい」ってチョコレートをくれて。その優しさがまた辛くて。飛び出したくなりましたけどね。

朝倉:昼夜逆転でしたしね。いちばん覚えているのが、理子ちゃんがちょっとミスをした時に、ものすごく謝っていたのが印象的で。彼女すごいんですよ、絶対に台詞間違えないし、空気感もタイミングも完璧なのに、些細なミスですごく謝っていて。でも私もその後でミスをしたら怖いっていうのを経験するんですけど(笑)。

山口:それくらいみんな一人一人の責任感がすごかったんです。それがさっきの「懸けてた」っていうフレーズだと思うんですけど。土佐さんも絶叫されましたし。

土佐:10分くらいのカットの9分50秒目くらいで台詞が出てこなくて。わーーーー!って叫んじゃいましたね。

上田:映像が進んでいく怖さがすごいんですよ。普通の長回しよりちょっとシビアで、普通の芝居のパートだったら多少のテンポのズレはいいんですけど、映像は喋っていて、こっちのセリフの出なさはおかまいなしなんで。

土佐:1秒重なったら終わりだけど、余らせてもダメ。自分に話しかけて部屋から出ていくシーンで、それだけなのに、出でいくのに1時間くらいかかってるんじゃないですかね。撮り直しで。

上田:この部屋からこの部屋に行って。それで散髪屋さん行って、最後はヤクザ事務所に行って、順撮りになるように撮っていくんですけど。この部屋から出られないっていう時間が。事務所から出られなかったですねえ(笑)。

大高:最後のシーンはタイミング難しそうでしたね。

上田:あれはもう、あそこまでいったら、わー!っていう感じでしたね。

土佐:終わったー!っていうね。

山口:あそこのカットは、写ってないですけど、安堵の表情(笑)。

朝倉:あれはすごかった。

上田:わずか2分くらいのシーン。

山口:あれでテイク20いってます。最大がテイク22。

土佐:喋ったら思い出してくるね、苦しくなってきたわ(笑)。

上田:カメラ逃げている間にスタッフがケチャップつけて、テグス引いて。ひとつミスったらまた…。

朝倉:大作映画並みですよ。本当に。

土佐:労力はめちゃくちゃ大変やけど、地味だよなあ。

朝倉:出来上がったものをみて本当に感動しました。

山口:つながってましたよね。ちゃんとね。

上田:うん。

土佐:つながってたねえ。

朝倉:私ほんとにヨーロッパ企画さん大好きなので、笑いどころじゃないところでもクスっとなってしまったところもありました(笑)。

山口:朝倉さん本番ギリギリまで笑い続けたらから大丈夫かなって(笑)。

朝倉:最後のシーンは画角的にすごくシリアスなのに、いや、台詞がおもしろくて(笑)。

土佐:あそこいいシーンやなあ。

朝倉:すごくかっこいい画になっているんですよ。私はじめて観た時にかっこいいー!ってなりました(笑)。こんな映画は見たことないです!

生きた芝居ってなんなんだろう

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大高:最後のシーンはそれまでとは違う演出でしたね。何かメッセージがあるのでしょうか?

上田:脚本で言うと、これだけ整合性のことだけをずっとやってきた話なんで、最後吹っ切れる方がいいだろうっていうカタルシスがあって。あれは変えたんですよね、前日に。

山口:めちゃくちゃギリギリまで悩まれてましたね。

上田:元々はカトウ(土佐)が未来を変える、というようなストーリーだったんですけど、撮影していくうちに、メグミ(朝倉)が先陣きった方が気分がが良いなって。現場でやってみてわかる。ぶっちぎるっていう。

大高:自分の意思がどこにあるのかという話にどんどんなっていく中で、最後あの吹っ切れ方は面白かったです。でも判断としてはすごく難しいことですよね。

上田:そうですよね。でも、もう良いだろうって。つじつまを合わせきる良さもあるし、ぶっちぎる良さもあるから。どっちかは意見も分かれるところだと。

大高:当初からカタルシスというのは念頭にあった?

上田:そうですね。脚本的にはそうですね。あの部分は割と生っぽくやってもらったんです。ぶっちぎった後は、なんというか、もう未来とのつじつま合わせもいらなくなるんで、二人のエチュードというか。

山口:急にあそこからエチュードが始まりますね。今までの綿密な会話というより、フッと力を抜いたようなシーンになる。

土佐:最後のシーンの朝倉さんが良いねえ。「生きた芝居ってなんなんだろう」ってコメントに書かれてたでしょう?まさにあれが、生きた芝居だったなって思うね。

朝倉:あの時やっと、ヨーロッパ企画の中に入れた気がしました。なかなか忘れられない体験ができたな、と感じました。

上田:あれがラストカットですもんね。

土佐:あれは良いよう。

朝倉:やっとあのシーンまでいけて、感慨深かったです。

土佐:唯一、時間を全く気にせんでも良いとこやからね。

大高:個人的に藤子・F・不二雄さんの短編が好きで、だからあのシーンで出てくるのは言われてみれば、という感じがありました。あれは好きな本だったんですか?

上田:そうですね。

山口:みんなの記憶にもあるSFだし、良いなって思いました。あの短編集はヨーロッパ企画の事務所に常にあったんです。

上田:僕はかなり綿密にプロットを書くんですけど、最後だけ、何を喋るかは書きながら考えたんです。

大高:個人的には、思っていたラストシーンと自分の中で整合した感じがありました。

上田:翻訳しにくいラストですよね。

大高:途中から、難しすぎて理屈がわからなくなってました。どれが現在なんだけ、って。

山口:僕の解釈としては、頭からトップスピードでつくり込まれた世界がスタートするので、最後でドラえもんの話とかがあって、急にふっと、ああそうか特別な事象に巻き込まれたけど普通の二人だったんだという親近感を覚えて終わるっていうのが可愛いなって思いましたね。

土佐:助走ちっともないもんね。いきなりサビから入るもんね。

上田:いつも脚本家として怒られるところで、今回も淳太くんに怒られて。今回もプロローグがなかったからね。

山口:一番最初のシーンがなかったんですよ。これはやばいとおもって、状況がわからんって。

上田:僕の悪癖で、そのソリッド感が好きなんです。原案でもある「ハウリング」がそうなんですけど、自分が(監督を)やったらたぶん骨っぽくなってた。今回淳太くんが監督をやってくれて良かったですね。別物って感じします。

山口:でも意識しましたよ。骨が骨で楽しいんですよ、上田さんの。骨感も大事だけど、僕は、登場人物の衣装やシチュエーション、明かりの数とか、そういう部分を結構意識します。ガワの部分というか見え方。そもそもどういう映画にしたらいいんだろうって。そういう部分をかなり考えてクランクインしたので、スタッフも全員ヨーロッパ企画と近い存在で、みんなとコンセンサスとれていたのはめちゃめちゃ良かったと思っているところですね。

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ドキュメンタリー風に撮られていながらもフィクションでもある

大高:最近、劇団や劇作家、演劇系の人が映画をつくる事例が増えてきている印象があります。演劇と映画とで演出も含めて意識的に変えているところや、演劇をやっているからこそできる映画という部分についてはどうお考えですか?

上田:淳太くんは演劇をやらないんですよ。

山口:これはヨーロッパ企画の特徴で、映像しかやらない人がいたり、ラジオの作家が好きな子もいたり、そういうのが混ざり合ってできている集団なので、この映画をつくる時も最初にどんな布陣にするか会議して、みんなで決めてやっていきました。

上田:僕は演劇もつくるし映画の脚本もやります。演劇は白いキャンバスの上に、絵画みたいに書いていくイメージがあるんですね。舞台上には何にもないし、ありものとしては役者の顔しかないので、全部つくらないといけない。映画や映像は、僕はせっかくなんでセットを組まずにやりたいんですよ。(映像は)もともと写真からきたものだと思うから、なるべくその時のそこにある風景やそこにいる人たちが、ある種のドキュメンタリー風に撮られていながらもフィクションでもある、という塩梅が映画の時は良いなって思っています。だから今回も実際にある場所で、あの佇まいがあって、このカフェにはああいう人たちが来ていそうで、という演劇よりもちょっとドキュメンタリーっぽく僕は書きました。だからいつもドラマ脚本で困るのは、脚本書いてくださいそれにあわせてロケ地探しますって言われることですね。当然そうなんですけど、そこにいる人とロケ地教えてくれたらそれに合わせて書きますよって。そっちの方が楽ですよ。映画を撮る人はそうなんじゃないですか。

山口:(『ドロステのはてに僕ら』は)このシチュエーションがあるから可能性絞って撮ったんではなくて、嗅覚で、ここなら面白そうな映画が撮れそうだ、というところから着手したんです。映画も通常、ロケセットの場合はそういう思考になるので、結構すんなりやれましたね。

大高:なるほど。ヴィム・ヴェンダースの言葉に近いものがありますね。ハリウッドに闘うためのヨーロッパ映画や自分のドイツ映画の立ち位置から考えると、先にシナリオありきでつくってしまうと、場所性が必要がないものになってしまう。ハリウッドはそういった工場のようなつくり方をしていて、ぶっちゃけどこの国の人であろうが、どこでこれが起きていようがどうてもいい映画を撮っていて、それは金があるからできるけど、作家主義的な映画がそこと闘うには、場所性から立ち上げないといけないから、俺はシナリオをつくらない、つくっちゃいけないんだぞ、と言っていて。仰っていることは、ヴェンダースの言ってたことに近いですね。

上田:そこには大いに賛成ですね。ヨーロッパは画が良いんですよ。建物がつくられた時期がなんとなく揃ってたり、建築様式がある。日本はいろんな文化がごちゃごちゃって入っていて街並みがきたないですよね。今回の二条のあの部分に絞っても、それでもやっぱりカフェと、散髪屋さんと、ワンルームマンションと、サラ金の事務所という4つの部屋は4つともトーンが違うし、バラバラな佇まいになってしまいますね。でも、それらが二条のあそこの角にああいう風にまとまっている、ということで、ぎりぎりこれは映画的だなと(笑)。二条のあそこの角も、逆からは撮れないですからね。

もう、黙って俺についてこいや!

大高:今回クラウドファンディングをやってみていかがでしたか?

山口:びっくりしました。

上田:すごく集まっていますよね。

土佐:ただただ嬉しい。コメント見てたら泣けてきました。我々がこうやって何かをやるときに、こんなたくさんの人が応援してくれるということが、一番嬉しかったです。全国各地、海外からもたくさん出資してもらって。ぜひ近くで上映してくれたら嬉しいですっていうコメントを読むと、ありがたいですし、なんとか上映の場を広げていきたいなって。背中押してもらえている感じがすごいですね。

上田:僕ら、お客さんからイライラされていることが実は多いというか「もっと行きなさいよ」と思われていて(笑)。

土佐:それさっき朝倉さんが言ってくれたやつや(笑)。

朝倉:本当にそうですよ!

土佐:どうしたらいいの?これは今まで世の中になかった映画ですよっていうのを言った方が良い?

朝倉:もう、黙って俺についてこいや!って。それで「はい」ってなると思います(笑)。

土佐:うそー、なるかなあ(笑)。

上田:(今回のクラウドファンディグの経過をみて)ヨーロッパ企画の良さをもっと伝えたいと思ってくださる方が多いっていうのは嬉しいことですよね。そんなに良くないのにお前ら出過ぎだぞ!とは思われてはいないということですから、嬉しいです。

土佐:確かに今回、我々は映画というものを手に入れた。どこでもドアとタイムマシーンを手に入れた感じ。これでもう、世界にいけますね。未来にも残せるし。

大高:おー、パンチラインだ。

土佐:これは、昨日から言おうと思っていた(笑)。

大高:あっという間の達成ですし、ずっと伸び続けています。企画としては、映画を観たら面白さが分かるけれど、テキストで伝える難しさがありますよね。

山口:よくあの(プロジェクトページの)短い4行くらいのあらすじで、と思います。

大高:あれだけ読むとちょっと難しい話。なんか複雑というか。

土佐:あんまり魅力のない…。

上田:プロット(笑)。

大高:「カメラを止めるな」のクラウドファインディングをやってた時と少し感覚が似ています。あの作品もクラウドファンディングは当然公開前だったので、興行収入30億円というような規模ではまだ知らていない状況でした。目標金額は150万円くらいだったんですけど、集まる金額以上に、応援している方々のコメント、そしてそれを呼びかけるキャスト陣のコメントの熱狂具合、そして自信を超えた何かを強く感じて、これはなにか普通ではないぞという感覚があったんですよね。巻き込まれてる人も、熱に当てられている感じがあったので、今回はそれにすごく近い感じがします。

土佐:じゃあもう、ヒットするでいいですか?

大高:はい。多分(笑)!今回応援してくれた人からさらに広げていってどんどん拡大上映になったらいいなと思っています。

土佐:めちゃくちゃ熱量あるんですけど、あんま出し方がちゃんとわかっていないんですよ。

上田:思ったことが叶うっていう意味で、もしもボックスを手に入れた感じですね(笑)。

土佐:どこでもドアとタイムマシーンでええやん!

山口:負けん気出すのやめてもらっていいですか(笑)。

土佐:本当ね、この撮影のときにアンキパンがあったらね。

朝倉:あー!(笑)

大高:ドラえもん大喜利になってる(笑)。

ヨーロッパ企画の名刺のような作品に

大高:最後に一言づつお願いします。

上田:あまたある映画のようなことをやるよりは、そうじゃない変化球を世に出した方がワクワクするかなと思ってつくりました。例えば、話題作を「これすごいらしい」って聞いて、どんなものが上映されるのかワクワクしながら観に行くのって、映画を観る動機としてすごく良いなって思うんです。『ドロステのはてで僕ら』がそんな映画になれば良いですし、ドキドキして劇場に来ていただきたい。あんまり体験したことないことを体験していただけることは間違い無いと思っています。

山口:この映画のキャッチコピーに「タイムマシーン完成」とありますけど、この映画自体がタイムマシーンなんです。他にない、一番リアルなタイムマシーン体験・タイムリープ体験をしていただけます。そして、小学生くらいのお子さんから映画好きの大人の方まで幅広く観ていただけるような映画に仕上がっています。コメディです。確実に、間違い無く未体験の体験ができますので、たくさんの人にご覧いただけたらな、と思っています。

朝倉:ヨーロッパ企画さんの長編映画制作第1作目に関われたことが本当に光栄です。映画というジャンルを通してみなさんの面白さがより広く、世界に伝わっていくんじゃないかと予感しています。なにげなく、この「ドロステのはてで僕ら」を発見してちょっと気になった方は、絶対に運命だと思うので是非観ていただきたいです!

土佐:普段ヨーロッパ企画の演劇を観てくださっている方は、映画も必ず観ていただけると信じておりますし、今回クラウドファンディングに参加してくださったサポーターのみなさまは、もうドロステのメンバーなので必ず観て、そして一緒に宣伝してください。そして、ヨーロッパ企画のことを知らない、名前は聞いたことあるけど観たことない、という方は演劇は観に行きにくさが多少あるかもしれないですけど、映画だったら観に行きやすいと思います。「ドロステのはてで僕ら」は、我々がどういうことをしている人たちなのか分かってもらえる名刺のような作品になっていると思いますので、ぜひ観て欲しいです。いま世界の人口調べたら77億やったんですよね。だから10億くらいは観てもらいたいですね。よろしくお願いします(笑)。

一同:(笑)

撮影:西邑匡弘
スタイリング(朝倉あき):小宮山芽以 ワンピース/LADYMADE イヤリング/lili by SERI
ヘアメイク(朝倉あき):野中真紀子(エクラ)

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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