コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第17回

2019年11月15日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング

「街の上で」今泉力哉監督と若葉竜也さんが語る、変化する街と“弱さを肯定する”映画への思い

今泉力哉監督が共同脚本に漫画家の大橋裕之さんを迎え、オリジナル脚本によるオール下北沢ロケに挑んだ長編最新作「街の上で」。「愛がなんだ」の仲原役が話題を呼んだ若葉竜也さんが、下北沢の古着屋に勤める主人公・荒川青(あらかわ・あお)を演じます。
 下北沢映画祭からの依頼がきっかけで製作されたという本作の、2020年全国劇場公開に向けたクラウドファンディングを11月29日までMotionGalleryにて行なっています。
(https://motion-gallery.net/projects/machinouede)

「自主映画への出演依頼」を受ける荒川を取り巻く女性陣に、穂志もえかさん、古川琴音さん、萩原みのりさん、中田青渚さんなどフレッシュなキャストが集結。本作のキャスティングの経緯や、今泉監督と二度目のタッグであり本作が映画初主演となる若葉さんの役に対するアプローチ、自主映画からキャリアをスタートさせた今泉監督の現在の映画づくりに対する思い、下北沢という街と本作の物語をどう重ね合わせたかなど、10月13日に下北沢映画祭にて世界初上映が行われたその日に、舞台挨拶を終えたばかりの今泉力哉監督と若葉竜也さんのお二人にお話を伺いました。

左から今泉力哉監督、若葉竜也、筆者(撮影:西邑匡弘)
左から今泉力哉監督、若葉竜也、筆者(撮影:西邑匡弘)

■街の映画の始まり

大高:今回の「街の上で」はどういった経緯で作られることになったんでしょうか?

今泉:2年前くらいに、下北沢映画祭から「2018年の第10回下北沢映画祭でお披露目上映する映画を下北沢を舞台にして撮ってもらえませんか?」というお話をいただいたのが始まりです。その時は短編にするか長編にするかも決まっていなかったんですが、せっかく作るなら長編がいいなと思って。ただ2018年は他に新作の撮影が複数控えていたので、お披露目を1年ずらしてもらい、第11回の映画祭でプレミア上映をしました。

大高:漫画家の大橋裕之さんが共同脚本として入っていますが、一緒に作ろうと思ったきっかけを教えてください。

今泉:大橋さんも下北沢映画祭にゆかりがあったのと、もともと下北沢はサブカルチャーの街。映画を撮るにあたって「誰を混ぜたら面白くなるか?」を、プロデューサーの髭野(純)さんとも相談しました。

大高:そもそも、今泉さんって共同脚本は今まであまりやってこられなかったですよね?

今泉:原作ものの映画の時に、メインの脚本家の方がいて、自分が入るケースはありますが、自分の名前が先にあっての共同脚本という形は初めてでした。今回は2人で同時に書いていくという作業ではなく、書いたら都度大橋さんに相談をしてアイデアを出してもらい、結果的に8~9割を自分で書きました。

大高:プレミア上映の舞台あいさつでは、大橋さんが「今泉さんがシーンを削ろうとするのを止める役割でした」と話していましたね。

今泉:「あ、これ面白くないや」ってすぐやり直そうとしたところを「それも削っちゃうんですか?」っていうやりとりはありましたね。例えば、登場人物たちが4、5人集まって路上でわちゃわちゃするシーンがあるんですが、僕は当初コントっぽくなりそうでビビってシーンを削除しようとしていたんです。でも大橋さんが「このシーンは面白いから、みんなで集まった方が良いよ」と言ってくれて。

大高:自分だけで書くのとはやはりちょっと違う感触でしたか。

今泉:いや、そこまでは変わらないです。ただ大橋さんの名前を借りる以上は、自分がただ書いているという感じにはしたくなかったので、たくさん相談しました。逆に「面白いものにしなきゃ」というプレッシャーが上がりましたね。責任感というか。

大高:若葉さんをはじめ、キャスティングの経緯を教えてください。

今泉:オファーとオーディションが合わさったキャスティングでした。2019年1月に、この作品に向けてのワークショップオーディションをやったんです。この機会にせっかくだからいろんな人と出会いたいなと思って。それで募集を始めたら200人ぐらい……もうちょっといたかな。さすがに200人は会えないから書類で選ばせていただいて。で、当初は20人ぐらいのオーディションをやろうと思っていたんですけど、25人で2日間のワークショップを2回。合計50人にお会いして、そこから選びます、と。そこから9人を選んで、撮影入ってからも追加で入ってもらって、結果的に10人前後、ワークショップ参加者に出てもらいました。それと並行して、主役は若葉さんにお願いしました。「愛がなんだ」のヒットもあって、脚本の仕上がりがギリギリだったものの、快く引き受けてくださって。

大高:青を取り巻く4人の女性も魅力的ですね。

今泉:こちらは4人ともオファーです。「愛がなんだ」でご一緒した穂志もえかさん、「世界は一人」という舞台を見て気になっていた古川琴音さん。中田青渚さんは別の作品のオーディションでお会いしていて、めちゃくちゃ良くて。萩原みのりさんは二ノ宮隆太郎監督の「お嬢ちゃん」や菊地健雄監督の「ハローグッバイ」を観てご一緒したいと思っていたのでオファーしました。実は依頼する前、彼女たち4人の誰をどのキャラクターにするのかもずっと悩んでいたんです。今ではあの形しかありえないけど、誰がどの役を?みたいな話はずっとしていましたね。世代も近いので。

■“本当に作りたい映画”を作る

大高:最近の今泉さんは、商業映画を多く撮られている印象があります。そんな状況の中、原点に立ち返って、インディペンデント映画を撮ろうと思った理由を教えてください。

今泉:去年ぐらいからありがたいことに仕事をたくさんいただいて、「もしかするとここから、好き勝手にやれない時期になるかも」と思ったんです。ザ・お仕事みたいな。もちろんどの作品も面白くするけど、その一方で、本当に作りたいものが撮れなくなったら、精神的にきつくなるなぁと。だから“思うようにやれる仕事”を自分の意志で入れておこうと。それがこの「街の上で」であり、その後、玉田真也さんと手がけた舞台「街の下で」であり。とはいえ、結局、「愛がなんだ」も「アイネクライネナハトムジーク」も「mellow」も「his」も「時効警察はじめました」もやりたいようにやれて、ザ・お仕事みたいな感じには一切ならなかったんですけど。

大高:すべての作品を自分のスタンスでやることができたんですね。

今泉:「あれ、意外と追い込まれなかったな」みたいな(笑)。ただ、「街の上で」は、より“自由度”が高かったと言えます。出来上がった作品を観て自分で面白がれるのはいいですね。とある夜のシーンは17分ワンカットで撮ったんです。商業映画で17分ワンカットって、なかなか……。

若葉:いやー、できないですよ(笑)。

今泉:台本をめくっても、めくっても、終わらない。現場は「なんだ、この永遠に続く時間は」という空気になってました(笑)。

大高:若葉さんが、劇中で弾き語りで歌を歌うシーンがとてもかっこよかったです。あれは映画のために練習したわけじゃないですよね?

若葉:ギターは昔からやっていました。

今泉:そのことを知っていたから書いたシーンです。作詞作曲は「今泉力哉」ということになっているんですが、そもそも楽器が全くできないんですよ、僕。なので、まず自分がアカペラで歌って録音したものを若葉さんに送って。で、若葉さんにコードを考えてもらって。だから演奏に関しては一音も指示していません。作曲っていうか、節回しを伝えただけ。あれ?その場合、俺、作曲って言えるのかな(笑)。

若葉:初めて聴いたときはもう、お腹抱えて笑いましたね。「おもしれえ!」って。

今泉:おい!失礼だろ!

若葉:いただいた音源をもとにギターのコードを考えていく際には、ミュージシャンの知り合いにも相談しました。みんな、今泉さんが歌った音源、持ってますよ。

今泉:おい、やばいぞ。封印だ、それは(笑)。それで、若葉さんが撮影前に、声の高さや早さが違うパターンをいくつか作ってメールで送ってくれて。ただここでの課題は、若葉さんの声がめちゃくちゃ良すぎたこと。青は別に歌手でもないから、そのバランスが難しくて。

大高:劇中で見る限り、青は“ちょっと音楽かじっていた風”だけど、(実際の演奏を聴くと)「あれ、ガチで音楽やってる人なのかな?」って空気は確かにありましたね。

今泉:かっこよく見えすぎないように、編集も修正を加えていきました。ちなみにあの歌は、大学生の時に作ったものです。

若葉:えっ、そうなんですか?

今泉:この映画のために作ったわけじゃないから余計に恥ずかしいんですよ。実は学生時代、CDも出していて……。

若葉:今泉さんが?

今泉:そう。学部内でグループを組んで、文化祭のトリを務めたことも。4人組だけど4人とも楽器できないから歌っていて…•。バックにめちゃくちゃ楽器や打ち込みとかできる人が別に4人いて、僕ら4人はただ踊らされてるだけという。町田康(町田町蔵)の「INU」をパロって「SARU」って名前で。

若葉:それ、もうアイドルじゃないですか(笑)。

今泉力哉監督と若葉竜也
今泉力哉監督と若葉竜也

■映画製作と重ね合わせた下北沢の変化

大高:「退屈な日々にさようならを」もそうでしたが、今泉さんの作品、特にインディペンデントに近い撮り方をしている作品の中には、“上映会のあとの微妙な空気”の描写が出てきます。「街の上で」でも、青の出演シーンがカットされるされないについて言及や気まずさがあったと思いますが、そのあたりはどういう意図がおありでしょうか?

今泉:「下北沢を舞台に映画を撮って欲しい」とお願いされた時にまず思い描いたのは、下北沢の風景の変化についてでした。それまで象徴的だった駅前の階段含め、街の景色がどんどん変わっていくことが悲しくて。それは映画の中で触れるべきだと考えていました。そして、その悲しさは映画製作にも言えることで。作品の中に「残っている」「残っていない」みたいなことって、あるじゃないですか。劇中でもそうだし、実際「街の上で」の編集作業中も「残したい」「いや、カットしよう」と話し合っていて、なんだか残酷だなと思ったり。そんな映画づくりの切なさを、下北沢の街の変化と重ね合わせたいと思いました。恋愛や人の想いの移り変わりも。

大高:下北沢をテーマにした時に、下北沢のどういった部分にフォーカスしていこうと思いましたか。

今泉:今、自分は都内から離れた場所に住んでいますけど、東京で仕事がある時は(下北沢に近い)プロデューサーの髭野さんのご自宅に滞在することも多く、都内に住んでいた時より下北沢で過ごす時間が増えていて。せっかくなので、知らない場所について書くよりは、自分の馴染みの店を舞台に、いつも書いているような話を書こうと思いました。

大高:クラウドファンディングページでの今泉さんと大橋さんの2ショット写真は、下北沢の雑踏の中でした。あれは“ザ・下北”という雰囲気の写真でしたけど、映画の中は、室内のシーンが多かったですね。

今泉:難しいですよね。もちろん景色をしっかり映す方法もあるけど、街を映すために登場人物を歩かせると、結局どっちも撮れないというか、場所に対する忖度になってしまう。そうではなく、きちんと人物を捉えて、その背景に一番街のアーケードがチラッと映る、みたいな自然な方がいいのかなと。

大高:若葉さんは青をどういう人物だと考えて演じていましたか。

若葉:普遍的な、本当にどこにでもいそうな人をやりたいという思いがありました。僕自身、社会や世間に対して「私はこう思う!」みたいな人や映画があまり得意じゃなくて。それより、そんな社会の中に組み込まれた中で必死に生きている人の方が僕は共感できるし、愛着が持てる。現場では“荒川青らしさ”みたいなことは全く考えず、「荒川青だってこんなときもある」とか「荒川青はこんなことで怒ることもあるよね」と、フラットに演じたつもりです。そして映画を観た後に、ロケ地の古着屋に行ってみたら、普通に青が本を読んでいるんじゃないか。そんな実在感を意識しました。

大高:ご自身も監督をやられていますが、自分が撮るときと演じるときで変わったことはありましたか。

若葉:監督をするときは、逆立ち級に難しいことしか要求しないです。自分が絶対できないこととか。

今泉:え、自分が演出するとき?

若葉:はい。「こんな偉そうに言っているけど、俺は絶対できないから」って言いながら演出するんで(笑)。

今泉:例えばどういう要求なんですか?

若葉:なんだろうな……芝居の域じゃないところで、もう、“ぶれまくって欲しい”というか。

今泉:難しいね。

若葉:相手の頭をパンパンにさせて、その撮影のときのことを何にも覚えてないぐらいまで追い込みます。

今泉:追い込むんだ?

若葉:もちろん「おい!」とかは言わないですよ? 例えば「あの、今、セリフみたいになっちゃってるんで……」とか。

今泉:一番怖いやつじゃん。

若葉:とにかく役者には、自分ができないことを要求したくなるんです。

今泉:すごいなぁ、やっぱり。本人のいる前で褒めるみたいであれなんですけど、若葉さんと共演した人たちは、すごくやりやすかったと思うんです。というのも、芝居って相手がどれだけ受けてくれるかが大事で。特にワークショップで選んだ人たちは、映画の現場経験が少ない人も多かったのですが、若葉さんはたとえ相手がオーバーにやりすぎてもきちんと受け止めてくれる人だから。それと、さっき若葉さんが言ってくれたことで、「青はこういう人物だから」と決めつけずに演じてくれていたのは嬉しいですね。それが青の幼さにもなるし、ブレにもつながるし。「なんでこんなセリフ書いちゃったんだろう?」って思っていたセリフも、今日の上映では笑いも起きていて。これも、若葉さんがやってくれたからこそ成立したものだと思っています。

若葉竜也
若葉竜也

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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