コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第16回
2018年12月28日更新
■「ひかりの歌」は映画と短歌の異種格闘技
大高:「ひかりの歌」を詩人の吉増剛造さんが激賞されていて、今回の「ひかりの歌」は短歌を元にして制作していますよね。監督の中で、詩や短歌はどういう位置付けになっていますか? 以前から興味や繋がりはあったのでしょうか?
杉田監督:詩にはあまり興味がなかったんです。でも私の叔父が康珍化という作詞家なんですね。枡野さんに言われて知ったんですけど、作詞家になる前は短歌界では有名な歌人だったらしいんです。叔父の出した歌詞集とかは、こどものころによく本棚から取り出しては読んでいました。
金子:中森明菜の『ミ・アモーレ』とか『桃色吐息』とか、めちゃくちゃ有名な曲の歌詞を書いていたんですよ。
大高:そうなんですね! そういう言語感覚というか、詩的な何かはやっぱりベースにあるんでしょうね。
杉田監督:こどもの頃から大学に入るぐらいまでは、クラシックばかり聴いていたんです。音を聴きながら、イメージや物語を膨らませる遊びみたいなことをずっとやっていました。この音が聴こえてくる時にどういう出来事があって、どういう人がいて……みたいなのを、一人遊びでやっていたんです。どうして自分が音楽や文学や演劇などではなくて、映画を選んだのかはわかりませんが、映画を作るベースの部分は、そのときの遊びからはじまっていたかもしれません。
大高:映画には、なにかピンとくるものがあったのかもしれないですよね。
杉田監督:そういえば、一番自分を楽にしてくれた表現が、映画だったからかもしれないです。ホウ・シャオシェンの「恋恋風塵」を初めて観た時に、冒頭の5分ぐらいで信じられないくらい泣いたんですよ。泣いている時に自分で分かっているのが、「なんで泣いているか分からない」ということなんです。でもそれが不安ではなかったというか、どうして自分がこうなったかは解明しなくていいと思ったんです。放っておこうって。
大高:必ずしも言語化をする必要はないってことですよね。
杉田監督:そうですね。放っておいていいと思うようにしてから、いろんなことが楽になったのはよく覚えています。大学進学のために、ノイローゼになるぐらい勉強をしていて、何か疑問に思ったらその答えに理屈をつけて近づいていくっていうのを、無意識にずっとやるようになっていたんですね。でも映画は、理屈じゃないものがあるということを教えてくれたんです。あと、これは自分でも作ってみてわかったんですが、私にとっては、映画館で映画を見ている時に感じる気持ちよさや楽しさって、映画を作っている現場で感じることと一緒なんですよ。あと、私は映画を選びましたが、映画に限らず、色んな表現に関わってきた中でちょっと分かってきたことがあります。映画にせよ短歌にせよ、小説も演劇もダンスも彫刻も、みんな目指したり、辿り着こうとしているものは同じで、そこに至るアプローチが違うだけなんじゃないかと思っています。だから今回の「ひかりの歌」は、ある意味で異種格闘技なんですね。短歌と映画のアプローチの仕方は違うけれど、見ている方向は一緒のはずです。その2つが、ちょっとタッグを組んで頑張っているだけなんじゃないかなと思っています。
■何かを踏み出したい人・何かを作りたい人の、ちょっと背中を押すような作品
大高:最後に、読者やクラウドファンディングをしてくれている人に向けて、メッセージをお願いします
髭野:人によっては解釈が難しい映画に感じるかもしれないですが、誰かは「これは自分の映画だ!」と思えるくらい好きになっていただける作品だと思います。自分の映画だって思える人に、いかにたくさん届けられるかという思いで配給と宣伝をやっているので、すこしでも多くの人に届くといいなと思います。それとクラウドファンディングって、仲間を増やすという目的が大きいと思います。杉田監督の言葉もいつも素敵なので、作品だけではなく、そういった部分もシェアしていきたいです。
金子:この映画は短歌が先行してあって、それに合わせて短編が4篇出来ました。その4篇のタイトルをまず認識してもらってですね、どんな内容なのか想像しながら観るのがすごく楽しいんじゃないかなと思います。あと杉田監督はですね、今日の対談でも分かったと思いますけど、時間の体感の仕方が独特なんです(笑)。それが全部映画に出ているので、これもなかなか独特な雰囲気となっていて面白いと思います。2年かかって作っているので、非常に見応えがあります。ぜひ観に来てください。よろしくお願いします。
杉田監督: 今回初めてクラウドファンディングをやってみて分かったのは、映画というのは、みんなで少しずつ作品の輪郭を作っていくものだということです。支援してくださる方がいるからこそ、「ひかりの歌」の輪郭が見えてきて、ひとつの大きな、大事な地点に向かえるということが分かります。支援してくださった方から送られてくる言葉も、すごく嬉しいです。ありがとうございます。あと私はこの「ひかりの歌」を、例えば「物作りをするのは、できるものならやってみたいけど、もしかしたら来世かな」みたいに思っている人がいたら観て欲しいです。「自分も普段の生活から、何かを作ったりできるかもしれない」と思ってもらえるような、ちょっと背中を押すような作品になっていると思います。どうぞよろしくお願いします。