コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第16回

メイキング・オブ・クラウドファンディング

■熱を持って、自分たちが最高だと思うものを作ることが大事

金子さん、杉田監督
金子さん、杉田監督

大高:「ひとつの歌」が完成してから7年が経って、今回の「ひかりの歌」が出来上がりましたよね。ヨーロッパの寡作な作家感が漂いますが、7年が経ったのは何か理由があったのですか?

杉田監督:ないですね。私は「映画を作りたい」という欲求があまりないんじゃないかと、最近気づいたんです。たまに会う映画関係の人からは、会話の最後に「次回作はどうなんですか?」と必ず聞かれますが、いつもあまり考えてないし、作りたい映画があるわけではないと気づくんです。「河の恋人」は、「20代の頃の自分の本気を残しておきたい」という意識があったかもしれません。「人に認めてもらえるようなものを形にしなくては」という気持ちも。でも基本的に私は、放っておいたら映画を作らないかもしれないです。

大高:それは意外ですね。

杉田監督:「ひかりの歌」のきっかけは、2015年ぐらいに並木愛枝さんという第4章「100円の傘を通してこの街の看板すべてぼんやり光る」では主演をやってくれた方と知り合ったんです。お酒の席で一緒だった時に「難易度の高い現場に久々に行くんだけど不安だ」といった話を並木さんがしていて。私が「付き人として一緒に行きましょうか?」と聞いたんです。

金子:なにそれ(笑)。

杉田監督:それで事務所の人みたい感じで、付き人として一緒に現場へ行ったんです。その経験がきっかけになって、もっと活躍するといいなと思うフリーランスの俳優の人たちの助けを、できる範囲でしてみようと思ったんです。それで、4人の俳優の人の窓口サイトみたいなものを作りました。「光」の意味のデンマーク語の「lys」という言葉の響きが気に入って、サイト名は『lys リュース』にしました。でも作ったのはよかったんですが、たとえばGoogleで検索すると、一番最後のページの一番下に表示されるんですよ。これでは窓口になってないし、どうしようということを、たまたま歌人の枡野浩一さんとご飯を食べていたときに話したら、その場で「じゃあ一緒に短歌コンテストをやりましょう」と提案してくれたんです。Twitterで「光」をテーマにした短歌を募集して、その短歌と自分の名前と『lys リュース』のURLを載せることをルールにすれば、そのリンクからサイトを訪ねる人が増えて、信用度が上がって、検索でも上位に表示されるようになるだろうと。

金子:すごいね。

杉田監督:枡野さんは、短歌コンテストの選者の仕事をあまり引き受けないと知っていたので、その提案がとてもありがたかったです。遠慮せずに『光の短歌コンテスト』を開催しました。でも元々のきっかけは、Google検索で上位に来るためなんですよね。入選おめでとうございますと伝えるだけでは、応募してくださった方たちに心苦しく、選んだ短歌を原作にして、1本ずつの短編映画を作るのはどうだろうと。もしそれができあがれば、4人の俳優たちの、いい映像の宣材にもなるとも思って。

金子:すばらしいね。副賞は映画化っていうのは、最初から決まっていたの?

杉田監督:募集をはじめる時に、そう明記していました。そうしたら短歌が1200首も集まって、あっという間にメンバーの誰の名前で検索しても『lys リュース』がトップに表示されるようになったんです。当初の目的をまず果たしたので、あとはもう映画化をがんばるだけで、1本目から動きはじめました。

大高:そういう理由だったんですね。描くテーマを7年掛けて煮詰めた結果とかを想像していたのですが、意外に受け身きっかけなんですね(笑)。

杉田監督:そうなんです。とにかくもう、仁義として4本は作らなくちゃいけないという気持ちでした。いいものにしようと気合が入って、1本目が45分ぐらいの作品になっちゃったんです。

金子:1本目がどの章?

杉田監督:第1章の「反対になった電池が光らない理由だなんて思えなかった」ですね。1本作ると脱力して、「もう映画なんか作れない」みたいな気持ちになるんです。そこから回復するのに半年くらいが必要で、いつのまにか「また作れるかも」という気持ちになります(笑)。それで2015年の夏から2016年の冬まで、大体2年くらいの期間でちょっとずつ4本を撮りました。映画を作りはじめるタイミングで、ちば映画祭のディレクターの鶴岡明史さんが、なぜか私の特集を組みたいと言ってくれたんです。

金子:それなんでなの?

杉田監督:わからない。私、ほとんど無名ですし、変わっている人だなと。

大高:杉田監督の作品はとても柔らかいイメージがありますが、意外(?)にも、boidの樋口さんや鶴岡さんのような、エッジのたった作品をプッシュされている方達にもすごく好かれていて、それがとても面白いなと思っています。

杉田監督:私は1度だけ、ENBUゼミナールで俳優クラスの講師をしていたんですが、最後に受講生全員出演の「遠くの水」という短編映画を作りました。それが新宿のK’s cinemaで上映された時に、鶴岡さんが観に来ていて、感動したらしいんです。声をかけてくれた時は、ちょうど短編製作をはじめるところだったので、私の新作発表も兼ねようということにすぐに決まりました。映画祭での私の作品の上映は2年続けて組んでもらえて、最初の2本をまず上映して、その次の年には残りの2本をという流れになっていきました。ごめんね、タケ、ずっと聞き役になっちゃって。

金子:いや、全然大丈夫だよ。

杉田監督:そうやって、自分の2年が思わぬ形で映画製作に費やされたんです。お金も信じられないくらいかかってしまって、短歌コンテストの副賞は賞金でよかったんじゃないかという(笑)。それは冗談ですが、その分、映画の上映の形ももっとがんばろうと思って、東京国際映画祭へエントリーすることを決めました。その時点でスイッチが入って、期日も迫っていたので、初めてこのバラバラに作っていた4本をつなげる作業をはじめたんです。

大高:なんか、期末テスト前の学生みたいですけど(笑)。

杉田監督:ノートパソコンで150分を通して観たら、意外にこのままいけるなって思ったんです。それでも足りない場面もあったので、追加撮影をしたり、スカンク/SKANKさんにエンドクレジットの音楽をあたらしく作ってもらったり、音の仕上げなども急ピッチで進めて、間に合わせました。

大高:2017年の東京国際映画祭ですよね。そこから公開までまた時間が空いたのは、どういう経緯があるんですか?

杉田監督:東京国際映画祭で上映しただけで、何も決まってなかったんです。

金子:スイッチはまず映画祭に向けて入ってたからね。

杉田監督:そうです(笑)。でもここで、髭野さんが登場するんです。

髭野:横から失礼します。僕は映画祭期間中、どなたかに「『ひかりの歌』は観た方がいい」と言われて、それで観たんです。そのあとのクロージング・パーティーの二次会で、杉田監督や並木愛枝さんにご挨拶をしました。

杉田監督:その時に、映画をすごく褒めてくれたんですよ。それが記憶に残っていました。映画祭が終わってから、やっぱりしばらく脱力していたんですが、そろそろちゃんと劇場公開を考えようと思った時に、髭野さんの顔を思い出して連絡したんです。髭野さん、そういえばフリーランスで配給をやってるとかいう、変なこと言ってたなと思って。

髭野:変なことって(笑)。

杉田監督:そんな人いないですからね(笑)。メールをしたらすぐに会ってくれて、お会いして話をしたら、その場で引き受けてくれたんです。それが2018年の1月ですね。

髭野:正直、「ひかりの歌」は賞を獲るのではと思っていたんです。配給会社も付くだろうと思っていましたが、公開される気配がないのでおかしいな……というタイミングで杉田監督からご相談をいただき、やることに決めました。宣伝に関しては、平井万里子さんという女性も加わって、公開に向けて動いています。実は今回の配給をするGENUINE LIGHT PICTURESという名前は、杉田監督が付けてくれたんです。名前の“純”と”光”を合わせて、”GENUINE LIGHT”ということなのです。ただ、フリーランスでの配給は、「ひかりの歌」でひとつの区切りにしようと思っています。

■役者を信頼しているからこそできる「脚本なし」の制作方法

金子さん
金子さん

大高:先ほどの「ひとつの歌」のコンセプトを聞いていて思ったのは、杉田監督は映画のスタンスや作り方も含めて、ホウ・シャオシェンやヴィム・ウェンダースに近いのでしょうか? 僕の中で、この2人は「あえてシナリオを明かさないで作る監督」なんですけど、そういう影響やリスペクトがあるように感じたんです。

杉田監督:2人へのリスペクトはとてもありますが、意識はしてなかったです。前作の「ひとつの歌」でまともな脚本を書かなかったのは、自分を試す思いもありました。崖っぷちの気持ちでもあったので、下手なことをして自分をごまかさないように。私の本音が丸出しになった映画を作っているようなものだったと思います。でもそれ以降は、やればやるほど、やり方は何でもいいという風になってきています。今回の「ひかりの歌」も、4章全ての作り方がちょっとずつ違うんですよ。いままでにないくらい、まともに脚本を書いた章もあったり。タケが出てくれた第3章は、脚本がほとんどなかったもんね。

金子:なかったねぇ。「またないんだ」って思ったね(笑)。おかげで、34回くらい粘ったシーンとかもあったからね。

大高:そんなにやったんですか!?

金子:脚本がないと難しい部分があるって思ったのは、場面をある程度の説明を入れて展開していかなきゃいけない時に、俳優自身の判断で言葉を決めるとなると、絶対に監督が持っているニュアンスとの齟齬が生まれるんです。次にこういう行動に2人が出ることになるとして、そのきっかけになる言葉みたいなものを、監督は僕に託したんです。それをどういうニュアンスで、どういうタイミングで言うかっていうのは僕次第なんですね。ズバッとその言葉を言ってしまえば、ただの説明のシーンになっちゃうし、日常の温度の中に溶け込ませてやれば、さりげなくそれが伝わっていくシーンになる。監督が求めていたのは後者だったけど、そこに台本の組み立てがないから、すごい難しかったです。

杉田監督:そうだよね、ごめんね。でも第3章はタケだから、安心してそれをやったの。

金子:台本を渡されないことで、撮影前に自分で台詞をぐちゃぐちゃ考えるんですよ。その言葉を組み立てている時間は、例えば日常生活で女の子に告白する前や、誰かに謝りたい時に流れているものと、全く同じ時間なんですよね。本番になると、自分で考えていた言葉を役の言葉として自然としゃべり出すので、その時に心がすごく豊かに動きました。言葉のチョイスやタイミングも、その動きに乗っていくので、芝居をする上ではすごい良かったです。面白い発見でしたね。まあ大変でしたけど(笑)。

杉田監督:第3章は、笠島智さんの演じる主人公が、大洗から苫小牧にフェリーで移動するんですけど、それが17時間くらいかかるんですね。現場でタケが、フェリーのなかにあった記念写真用の船長服を着て、海を鋭い目で見つめるみたいなポーズをとったり、それをみんなでスマホで撮って、「撮影はじまりました」みたいにツイートしてみたり。タケはそうやってみんなを和ませてくれるんです。そういう時間が、本当にホッとするんです。たいへんだった「ひとつの歌」も、タケとだからやれたんだと思います。

金子:僕は今回の「ひかりの歌」に関しては、「友達が回しているホームビデオにたまたま映っちゃった人」みたいな感じで、気楽にやろうと思っていました。

杉田監督:そういう風に、自分でちゃんと意味づけをしてくれているのも、すごくありがたいですね。第4章は脚本をちゃんと書いて、台詞もほぼ脚本通りで撮影しました。その主演やメインの出演者がどういう人なのかで、脚本も演出も変わっていくのが今回わかりました。

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。