コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第13回

2018年5月8日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング
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■自分が熱量を持ち、目を引く活動をしていかないと、お客さんには響かない

大高 この配給・宣伝ワークショップでは、具体的にどのようなことをやろうとしているのですか?

園田 なんかやばいことやりたいです(笑)。 普通の映画会社ではやらないような、僕がオールライツを持っているからこそできることをやりたいです。 映画で遊ぶと言いますか。映画って作る面白さもあるけど、その映画をどういう風にして届けるかという面白さもたくさんあると思うのです。そういうことが、この配給・宣伝ラボを企画したきっかけでもあります。

(一同笑)

大高 ここから新しい方法論が生まれる可能性もありますよね。僕がビジネスマンをしていた時、映画業界には古いイメージがあり、もっとデジタル化したらコスト抑えられるのではないか、マーケティング手法が古いのではないかとか感じていて、やり方を刷新すればもっと可能性があると考えていました。しかし東京藝術大学に入り、プレイヤーとして映画に関わってみたら、既に色々と最適化された上での現在の形なのだということを理解する事になりました。でも園田さんの話を聞いていると、新しいやり方や新しい手法が生まれる余地はまだまだあるのかなという気がしてきます。余地がないところにどう余地を作ってくのかっていうのは、おっしゃるような「やばい」みたいなやり方をするのが面白いなと、すごく思います。

園田 ユーロスペースの支配人の北條さんから「他の宣伝会社でやってるようなことを期待してませんから」と言われました。他と同じことをやって、マスコミ試写やって、何人かがちょっとした記事書いてくれても、お客さんは来ません。自分が熱量を持ってやって、目を引く活動をしていかないと、お客さんには響かないです。それだったら、僕は全部自分でやりたいです。自分の作品だから全ての責任を持ちますし、感覚的にやりたいと思ったことは全部やろうと思っていますね。

(C)CiNEAST
(C)CiNEAST

■はじめて配給宣伝に挑戦する7人の思い

大高 みなさんは実際に配給・宣伝をやってみて、新しい発見やおもしろさはありますか?もしくは映画の配給・宣伝で、チャレンジしたらおもしろそうだと思うことはありますか?

園田 それか、これまでやってきて感じていることはありますか?

はなえ 私はそもそも配給・宣伝の仕事自体を知らなかったので、まずそのテンプレとおっしゃっていたことを学ぶこと自体が新しかったです。でも思っていた以上に配給・宣伝ってすごく地道な作業に感じました。アナログな部分がすごく多いというのが、実際にやってみてすごく感じているところです。

園田 みなさんは、記者の方に手紙を手書きで書いて資料を送るという作業をやっているんですけど、多分そういうのを地道だと感じているんだと思います。

はなえ そうですね、何十通と、手書きで。

大高 でもそれが利くんですよね(笑)。

SiR 僕の場合は、スケジュール管理が大変だと感じています。テレビの仕事と並行して宣伝に関わっていて、もちろん講義を受けつつスケジュール感を学んではいますが、いまいちよく分からないまま進んでいます(笑)。今後もしまた宣伝に関わる機会があれば、もう2ヶ月くらい前倒してやりたいなっていう。それが少し率直な感想です。

(一同笑)

SiR 記者に手紙を送る作業で言うと、向こうのリアクションを待っている間はなにをすればいいのかや、記事にしてもらうまでにするべきやりとりがあまり分かっていません。それらをどれくらいのスケジュール感でやればいいのかや、催促していいのかどうかもよく分からない。

園田 それらすべてが初体験ってことですよね。

SiR そうですね。自分の普段の仕事とスパンが違うので、手探りでやっています。これから資料を送った方々から返答が返ってきて、何か記事にしていただく段階になったら、またいろいろ頑張ります。

ポニー 公開が5月26日なのに、結構ギリギリなんだなあと。ちゃんと広がるのかなって、ちょっと思います。

(一同笑)

ポニー 映画の撮影って長いと思っていたけど、自主制作とかだと一週間とか10日で撮るっていうのにもびっくりしました。色んなことが短期間で行われているということに少し驚いて、だけど準備や抱えてる期間はすごい長いはずですよね。だから宣伝は、出来ればみんなにきっちり認識してもらった上で、公開を迎えられたら理想的だと思います。 今回の作品は、このワークショップをやっているということが宣伝の一部だと思っています。今は劇場班とパブ班に分かれていて、私は劇場班としてイベントを考えているんですけど、そのときの集客人数が身内の人数になっているのがちょっと悲しい。ワークショップとして参加したんだとしたら、もっと広がりを感じられる体験を出来たらいいのになと、正直私は思いました。

園田 例えば数百人のキャパの会場でイベントをやるとしたら、期待していた大きな広がりを目にすることはあるかもしれません。でもまずは本当にコアな人、必ずくる可能性のある人を固めることが大事です。まずはそこで盛り上がりを作らないと、お金を掛けて幅広く告知をやっても誰もきません。盛り上がった結果、劇場に僕らと全くつながりのない人が来ると信じています。

大高 そこは本当難しい話ですよね。例えばテレビとかに出たからと言って客が入るとは限らないし、一館だけでやることで毎日満席で、結果的にそっちの方が人が入るみたいなこともあります。作品のサイズ感の見極めはとても重要だし、逆にそこが難しいところでもあります。派手にやればいい訳じゃなくて、いかにバランスを取っていくか、みたいなところがすごいありますね。

園田 そうですね。「リバースダイアリー」が宣伝費何千万の映画だったら、また違ってきますけどね。

ポニー お金をたくさん使って、人に来てもらいたいうことではないんですけど。このワークショップの試みが、今回の映画だけじゃなくて、他の自主映画を作っている人たちの参考になればいいなと思っています。この取り組み自体にもっと興味を持つ人が増えて、映画を観に来たり、イベントに来たり、なにかムーブメントになればいいです。

のり 私は「リバースダイアリー」を観て、すごく好きな作品になりました。この映画に出会えて良かったし、色んな人に観てもらいたいなという気持ちがあります。ただみんながみんなワークショップに興味があって、ミニシアターが好きでっていう訳じゃないので、もっと他のところにいるこの映画が響くような人に届けたいと思いました。コメント依頼をまったく異業種の人からもらうことを考えたんですけど、ブラウニーの山下さんからアドバイスを受けたときに、 常識的なところの理解が足らないということが分かりました。「届けたい人がいるから届けよう」という思いだけじゃダメなんだなと分かったので、これからどう進めていけばいいのかを考えています。

大高 常識的な理解ってどういうことですか?

のり 私は漫画が好きなので、漫画家さんや漫画関係の知り合いに観てもらおうと思っていました。そういった訴求力のある人たちがツイッターやSNSで宣伝してくれたら、ファンやフォロワーが興味を持ってくれて、映画が広がっていくと思いました。だけど実際のところ、まずは出版社や事務所に問い合わせないといけません。時間がかかるから、そこまで届くのが難しいという常識を知らなかったのです。この映画を外に出すのは難しいのかな、というのは少し感じました。

大高 それって、実際にトライはしましたか?

のり トライはしていないです。

園田 やってやれないことはないんで、やってみてもいいとは思います。ここから先というのは、具体的に面白いことを考えることと、それを実行できるかどうかのバランスですね。みんな色んなアイディアがあると思うけど、それをやるのにどれくらいの時間やお金を犠牲にするのか、そういう判断をしていかなければいけない時期です。

GOJI 僕がまず感じたのは、緊張感です。「リバースダイアリー」のインスタの一番最初の投稿担当になった時に、写真は指定されたものだったけど、本文は自分で考えないといけなかったんです。僕が考えていることと園田監督の意向って、必ずしも一致するわけじゃないので、そこをどううまく擦り合わせるかが難しかった。送信のボタンを押す!という瞬間、自分は本当に「中の人」になるんですけど、そんな経験は当然初めてなので、そこでの緊張感がすごかったです。あとは知り合いに、配給・宣伝に関わっているという話をほんの少ししているんですけど、現時点ではたぶん一人もSNSをフォローしていません。いいねの数と、実際のフォロワー数と、最終的にユーロスペースまで映画を観に来てくれる数は、必ずしもリンクはしない。そこでの難しさを改めて感じました。人が金と時間と手間をかけてまで来るのかというのは、当事者になってみないと分からない難しさってあるよなと感じますね。絶対成功するメソッドってないな、とも思っています。

大高 なるほど。

GOJI 例えば、小林(勇貴)監督は、自分自身が一番の広告塔なので、徹底的にエゴサして、いいねをつけまくるしリツイートもしまくるし、リアルでもネットでも暴れまくる(笑)。そういった方法で、監督本人が積極的に熱狂的なファンを生み出しているのではないかと思います。でも「リバースダイアリー」は全然違う作品なので、彼のようなやり方はできません。新しい試みをしていこう!と言いつつも、「この業界での"新しい試み"って何だろう?」と考えてしまいますね。

園田 こういうプロジェクトだから、別に失敗してもいいと思ってるんですよ。そこは僕が全部責任を取ればいいことですし。講義として聞いているのと、実際にやるのとでは違うものなので、失敗しながら、色んなことを感じてもらえればいいのかなと思います。

GOJI そうですね、貴重な経験になってます。本当にこれに参加するかどうかは、相当悩みましたね。

大高 そうですよね、静岡から。

(一同笑)

大高 でも本当に、実際プレイヤーになったらまた景色違いますもんね。 外で見てると「もっと色々なやり方があるだろ」って思うけど、中に入ると「あっれー?」みたいな(笑)。

園田 自分ならもっといい宣伝がやれるのにって思う、残念な映画っていっぱいありますよね。

GOJO 本当にそれは思いますね。つい最近観た外国の映画も、宣伝のビジュアルから連想できるイメージと、映画の内容はかなり違ってました。実際に観てみると、もっと重いというか、難しさとか、葛藤とかがあるはずなのに、「何であんなビジュアルなんだ!」と思いました(笑)でもそうやって世の中に出すにあたって、スタッフは悩みに悩んだ末なんだろうなっていうのが分かりますね。そこに関わっているスタッフのジレンマがもしかしたらあるのかもしれないと、映画を観てて思いました。

大高 外国映画は、副題や邦題が炎上したりしますよね。最近だと「ドリーム」とか「新感染」とか。そこはプロが分かってやっている可能性もあるし、作品にリスペクトなくやっているものもあるから、一概に否定できず、難しいところです。「新感染」も、最初はなんで「釜山行き」がB級テイスト満載の「新感染」になるのか?と思っていたのですが、映画を観た後だと案外「新感染」ありかもしれないとか思ってみたり。

(一同笑)

GOJI 正解ってないですよね。結果として正解でなきゃいけないというか、本当に、道なき道を歩くという感じですね。もう本当に難しい(苦笑)。

GOJIさん、園田監督
GOJIさん、園田監督

■配給・宣伝を通して、映画に対する気持ちが変化してくる

平野 私は、精神論的なものを感じています。自分の感覚と、横にいる人の感覚って全然違うし、士気をずっと保つことは難しい。そもそも何かはみ出るようなことをしたいとなると、自分が熱を持っていなくてはいけません。誰かがやってくれるんだと思っていては、ダメだとは思っています。いろんな壁にぶつかって、自分の士気が下がった時は、他の人が引っ張ってくれることもあると思っています。そういった集団の中でのエネルギーをちゃんと育てていかないと、そもそも外に出ていくエネルギーにならないんじゃないかなというのは感じています。だから「与えられたものを一生懸命やる!」みたいな気持ちになってます。
大高 会社の働き方みたいになってますね(笑)。

平野 ほんとそうなっちゃうんです(笑)。以前、会社の先輩に「目の前のことを頑張ってできないと何にもならないから」と言われたことがそれがあって、それに今はものすごく納得しています。

(一同笑)

園田 会社以外で教えられてるんですね(笑)。

平野 要はそれが出来ないと、こういう形のないプロジェクトって、エネルギーが出ていかないというのはすごく体感しました。だから、まずは自分が当事者として頑張っていくというが基本だなと感じています。あとは先日、配給会社エレファントハウスの増田さんの講義を受けて、やっぱり数字は大事だと思いました。予告編の再生回数と実際の動員数みたいな数字分析とか、MotionGalleryで『リバースダイアリー』を応援している人たちはどこのページから来たのか、というのを分析してみたいです。Facebookで自分の書いた記事とかを公開したら、観に行きたいという人が結構いて驚きました。宣伝・広告の場合は基本ですが、SNSツールの使い分けをもう少し意識してやっていくべきだとも思いました。

宮島 今まで映画って「好き」という風に捉えていたんですけど、それが「よりよくしたいな」と考えるようになってきました。以前大高さんが「クリエイティブと興行性が映画になる。それが映画」みたいなことをおっしゃっていて、自分は今までそんなことは考えたことがなかったし、 映画なんて「面白い/面白くない」ぐらいにしか考えていませんでした。だからこのワークショップに参加して、すごい良かったなと思ってます。あと自分はこれから就職活動をするんですけど、映画が好きだから配給に携わるっていうのは、目的意識がないように思えて、正直いって理解できません。このワークショップに参加して、配給宣伝の一端を垣間見れたのはすごく貴重な経験だと思ってます。

園田 さっき言ったかもしれないですが、はなえさんはどうですか?
はなえ 今までは観客の立場にしか立ったことがないので、こういう緊張感を感じたことはありませんでした。これまでは自分が面白いと思った映画に関しては、SNSで面白いって書いたり、誰かのアカウントをリツイートして、何の反応がなくてもあまり気にしなかったです。でも今回に関しては、「もし初日に人が来なかったらどうしよう」とか、すごく考えてしまいます。 他の映画だったら、行って席がガラガラでも「あんまり人来てないな」って思うだけなんですけど。

大高 まあゆったり観れるな、みたいな(笑)。

(一同笑)

はなえ でもこっちはそうはいかない、すごく自分事として感じています。私は監督自身ではないですし、かつ配給・宣伝の会社にいるわけでもない、ワークショップの参加者にしかすぎないですけど、すごくプレッシャーのようなものを感じています。映画の仕事に就きたくてその為に経験積むためにワークショップに参加しようとか、確固たる意志を持ってきたわけじゃなくて、何となくぼんやりと興味があって、選択肢のひとつとして見てみようかなというぐらいのきっかけだったんです。だけどこの数カ月『リバースダイアリー』に関わってきて、「このプレッシャーとスピード感についていけるのか?」とか「仕事にしたらすごい辛くなりそうだな」とも思います。もちろん面白い部分もあるけど、本当に自分の仕事にしたいのか?と改めて考えてみたかったもの参加した理由でした。そこで「大丈夫かな?」という気持ちが芽生えてきたということは...。

大高・園田(笑)

はなえ でもその一方で、もっと奥深いところを知りたいという気持ちもあります。公開までまだ時間もありますし、最後まで学べるだけ学びたいです。あと映画の配給・宣伝って、もすごく種類があるというか、作品ごとに違っていますよね。以前ソニーピクチャーズの方から少しお話を伺う機会があったんですけど、ああいうシネコンでものすごい大規模にやっている作品は、配給・宣伝の方法も全く違うみたいですね。他のパターンも見てみたいなと思ったりして、より興味が広がってきたという感じです。

園田 ブラウニーの山下さんがおっしゃったんですけど、宣伝をやっていると言っても、いろんな宣伝会社が担当分けをしていて、自分は細分化された中のほんの一端をやっているだけでしかないそうです。つまり、これだけ宣伝の全体に関わるというのは、大きな規模の映画だとほぼないと思います。そういう意味で、こういう小さい規模ですけど、宣伝の全体に関わるというのは珍しいのかもしれないですね。

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筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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