コラム:佐藤久理子 パリは萌えているか - 第20回
2013年7月25日更新
アヌシーアニメ映画祭&ジャパン・エキスポ 夏は日本のアニメに熱視線
フランスでは毎年夏が近づくにつれ、日本のアニメネタが話題に上る。というのも、6月には世界最大規模のアニメーション映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭がスイス国境に近いアヌシーで、そして7月上旬にはパリで、日本文化を紹介するフランス最大の見本市ジャパン・エキスポが開催されるからだ。今年のアヌシーは、日本映画の受賞こそなかったが、長編コンペには、窪岡俊之監督の「ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略」が入り、短編部門には水尻自子の「布団」、湯浅政明の「キックハート」、早井亨の「Not Over」の3本が入選した。マーケット部門を含めて、いまやアヌシーに日本のアニメは欠かせない存在となっている。
ジャパン・エキスポはアニメやマンガに限らず、音楽、ファッションといった現代のカルチャーから日本の食べ物や伝統芸能まで、幅広く紹介する見本市。いまや200を超える企業が日本から参加する、ビジネス的にも重要な場だ。とくに映画祭などとは異なり、来場者の大多数が一般の日本文化ファンに占められるこのエキスポは、購買者に直接アピールできるという意味で貴重な機会である。その大多数は10代のティーンたち。しかも年々、自らコスプレをしてくるファンが増えている。ソーシャルネットワークを活用して日本のサブカル情報をいち早く入手する彼らにとって、映像で見るトーキョーのキッズたち同様に、コスプレ衣装を堂々とまとって仲間とはしゃげるチャンスというのは、またとないハレの場なのだ。
7月4日から7日まで開催された今年のプログラムには、エヴァンゲリオンのオリジナル・イラストレーションやアート・プロダクションを紹介した展覧会、「北斗の拳」で知られる原哲夫の展覧会とコンフェレンス、生誕50周年を記念したタツノコプロの展覧会などがあった。フランスでもポピュラーなガッチャマンの最初のエピソードの上映は大いに人気を呼んだ。さらにトヨタとStudio4C°がコラボを組んだプロジェクト「PES(Peace Eco Smile)」のイベントや、Dear Loving、Kylee、明和電機などのパフォーマンス部門も話題を集めた。加えて今年のサプライズは、いま旬なくまモンとひこにゃんの登場だった。なんでもマスコット化する日本の感覚というのは、フランス人にはなかなか理解できないようで、果たして彼らがどれだけ熊本県や彦根市のアピールになったかどうかはわからないが、単純に子どもたちにはディズニーのキャラクター同様、受けていたようだ。
アニメと同様に、最近ポピュラーになりつつあるのが、ゴスロリや「カワイイ」文化を象徴するポップ・アイドルたちだ。昨年ジャパン・エキスポに出て話題をさらったきゃりーぱみゅぱみゅは、今年の2月、ヨーロッパツアーの一環としてパリでコンサートを開催した。中型の会場はソールドアウトとまではいかなかったようだが、ここでもゴスロリの衣装を着て一緒に歌うフランス人ファンたちの姿が見られた。
それにしても、なぜフランス人のティーンのあいだでアニメ・コスプレはこれほど人気を博すのか。それはフランスにはまったくない文化であったから。「カワイイ」という日本特有の美的基準は、おそらくそのどこか「攻撃性のなさ」が異端性を中和して、オリエンタルな幻想をかき立てるからだろう。女子ならば、その未知なる世界に自分も現実逃避したいと思うのに違いない。コスプレをするのは女子ばかりではないが、こういうティーンたちに話しかけると、男子も女子もだいたいがおとなしそうでシャイな子が多い。だがこちらが日本人とわかると、とても打ち解けて話してくれたりするのだ。どちらかといえばクラスでは目立たないタイプの子たちが、現実の物差しとはまったくかけ離れた、ファンタジックで楽しいバーチャル世界に浸る、そういう点で多くのジャパンアニメとそのキャラクターが彼らを引き付けているように思える。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato