コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第98回

2008年2月1日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第98回:J・J・エイブラムスが語る「クローバーフィールド」の秘密

【※「クローバーフィールド/HAKAISHA」のネタバレを含みますので、ご注意ください!】

宣伝手法が話題を呼んだ 「クローバーフィールド/HAKAISHA」
宣伝手法が話題を呼んだ 「クローバーフィールド/HAKAISHA」

クローバーフィールド/HAKAISHA」のプロデューサー、J・J・エイブラムスに取材が出来ると聞いたとき、ぼくは正直驚いた。映画やテレビの企画を大量に抱えてただでさえ多忙なのに、いまは超大作「スター・トレック」の撮影の真っ最中である。撮影現場でのインタビューになるので正確な取材時間が分からず、また、いきなり決まったので取材前に試写を組めないということだったけれど、二つ返事で引き受けた。なにしろ、「エイリアス」のパイロット版を観たときから、ぼくは彼のファンなのだ。その後の成功を、まるで自分のことのように喜んでいるぼくは、親しみを込めて“JJ(ジェイジェイ)”と呼んでいるほどである。

1月17日、パラマウント・スタジオ内の「スター・トレック」のセットの片隅で、JJが暇になるタイミングをじっと待った。JJは映画の監督をしているわけだから、当然のことながら忙しい。こうしたセット訪問で監督に取材する場合は照明を変えるタイミングに行われることが多いのだが、そもそもグリーンスクリーンで撮影をしているので、ライティングの変更はない。撮影がテンポ良く進んでいくので、こちらはひたすら待つだけである。1時間半ほどして、ようやくこちらにやって来てくれたのだが、1分も話さないうちに、スタッフに連れ戻されてしまった。

結局、インタビューが出来たのは、その日の撮影が終了してからだった。JJは小走りでやってくると、なんと、ぼくが数時間前に訊いた質問に対する返答から始めたのである(監督をしているあいだも、頭の片隅に置いていてくれたのだ!)。「クローバーフィールド」の着想を得たきっかけから、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」的な手法を選んだ理由、作品のなかに込められた「ゴジラ」へのオマージュなど、インタビューの詳しい内容については別の機会に譲るとして、JJが語るエピソードはいちいち面白い。しかも、かなりの早口だから、こちらが用意した大量の質問にも対応できる。どさくさに紛れて、「LOST」のシーズン4以降の展開や、「スター・トレック」を監督することのプレッシャー、HBO向けの医療ドラマについても訊いてみたが、嫌な顔をせずに答えてくれた(もちろん、「LOST」のエンディングについては口が固かったけれど)。その結果、当初、15分の予定だったJJのインタビューは、27分間にも及んだ。まさに至福のときだったと言えよう。

パラマウント・スタジオには 自由の女神の頭部が転がっていた
パラマウント・スタジオには 自由の女神の頭部が転がっていた

インタビューの翌日がちょうど全米公開初日だったので、さっそく「クローバーフィールド」を見た。JJが作るストーリーの特徴は、感情移入できるキャラクターを奇想天外な状況に追い込むことだと思っているのだけれど、その意味において「クローバーフィールド」ほどJJ的な映画もない。高層ビル並の巨大モンスターを一般の視点のみで描くというアイデアもさることながら、その手法をきちんと守りつつも、ラブストーリーを物語の核にしているところはさすがだ。贅沢を言えば、「LOST」のような知的な刺激が欲しいところだが、ジェットコースター映画にそこまで求めるのは酷な話かもしれない。「クローバーフィールド」を作った理由について、「巨大モンスターの襲来という非現実的だがエキサイティングな映画体験を提供することで、現代人が抱えている得体の知れない恐怖を処理する手伝いをしたい」とJJは語っていた。その意図は、見事に成功していると思う。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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