コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第63回
2005年3月2日更新
アカデミー賞といえば、映画大国アメリカにおける一大イベントだ。が、かつては国民的行事だった授賞式放送も、最近では視聴率がずるずると落ちて、とくに若者のアカデミー賞離れが深刻だ。日本の紅白歌合戦とその状況は似ているかもしれない。
視聴率ダウンに歯止めをかけるべく、第77回授賞式にはいくつかの工夫が施された。
まずは、新しいオスカー像授与システムの導入だ。従来プレゼンターに名前を呼ばれた受賞者は、会場の座席から歩いてステージまで行くことになっていたが、今回はノミネート者を全員ステージ上に立たせておいてから、受賞者を発表したのである。時間短縮のための策だが、俳優賞や監督賞などは旧来のままで、美術やサウンド、ドキュメンタリー賞など地味な部門にのみに採用されたため、差別的だとの批判の声も出ている。ともあれ、新システムのおかげで、今年の放送時間は3時間15分とコンパクトにまとまった。
もうひとつの特徴は、人気コメディアン、クリス・ロックの司会起用である。初司会にも関わらず、独自色を出しながらうまくこなしたものだと個人的には感心したのだけれど、過激なトークを期待するファンからは「中途半端だ」、保守的な人たちからは、「ジョークがきつすぎる」と、批判を浴びている。いずれにせよ、今年の授賞式は18才から34才までの若者層のあいだで、過去3年間でナンバーワンの視聴率だったというから、クリス・ロック効果があったと見るべきだろう。
米調査会社ニールセンの発表によると、4150万人のアメリカ人が今年のアカデミー賞をテレビ鑑賞したという。「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」というブロックバスター映画があった昨年と比較して、わずか200万人程度のダウンで済んだのだから、授賞式のプロデューサーはほっと胸をなで下ろしているに違いない。なにしろ、一般視聴者が観ていない映画ばかりがノミネートされていたのだから。
06年のアカデミー賞は、トリノ五輪があるため久々に3月に実施される。来年はもっと盛り上がるといいですね。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi