コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第51回
2004年3月4日更新
第51回:予想通り?退屈?アカデミー賞を振り返る
終わってみれば、あまりにもあっけないアカデミー賞だった。「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」がノミネートされた11部門すべて制覇し、ショーン・ペンやシャーリーズ・セロンなど、受賞確実と思われた人たちがすんなりとオスカー像を手にすることになった。
アメリカのマスコミのなかには、この受賞結果を見て、つまらないとか、意外性に欠けたなど否定的な論調が多いのだけれど、一般観客や評論家の予想通りにアカデミー会員が投票を行ったということは、必ずしも悪いことではないんじゃないかと思う。サスペンスやどんでん返しを期待する人には退屈かもしれないが、選考がノーマルに行われた証拠なのではないだろうか。
なにしろ、90年代のミラマックスの台頭と比例して、アカデミー賞キャンペーンは悪化の一途を辿っていた。大量の宣伝投下に始まり、スターを交えての昼食会や、アカデミー会員のいる老人ホームめぐりなど、スタジオの手口も露骨かつ巧妙になっていた。選挙のキャンペーンと比較してみても、法的な歯止めがないだけに、こちらの方がよっぽどアンフェアだった。ジョン・キューザックなどは、「アカデミー賞はドリームワークスとミラマックスに乗っ取られてしまった」と嘆いていたほどだ。
今年のアカデミー賞からいくつかルール改正が行われたのだが、もっとも効果的だったのは、例年3月下旬に行われていたアカデミー賞をひと月前倒しにした点だと思う。ノミネート発表から投票締めきりまでの期間が短縮されたことで、キャンペーンの激化を抑えられたのだと思う。
もちろん、ダーティーなキャンペーンがまったくなくなったというわけでもない。たとえば、助演女優賞にショーレー・アグダシュルー(「砂と霧の家」)を推すドリームワークスは、レニー・ゼルウィガー(「コールド・マウンテン」)を批判する広告を業界紙に掲載して、バッシングを受けた(結局、レニーは助演女優賞を受賞した)。また、ミラマックスの「コールド・マウンテン」が7部門でノミネートされながら、作品賞や監督賞、脚本賞部門で無視されたのは、アメリカの南北戦争ドラマでありながら、人件費の安いルーマニアで撮影したことに対する批判があったからだと、ミラマックスのワインスタイン会長は主張する。負け惜しみとも取れる発言だが、メジャー映画の国外流出に対して、ハリウッドの映画業界で危機感が高まっているのも事実である。じゃあ、ニュージーランド撮影の「ロード・オブ・ザ・リング」はどうなるんだ、という話になるが、これはニュージーランドでしか撮影できない映像を必要としていたから許されるのだろう。ここらへんは、なかなか複雑である。
とにかく、悪化の一途を辿っていたキャンペーン合戦に一定の歯止めがかかったということで、今年のアカデミー賞は評価していいと思う。ビリー・クリスタルの司会も名人芸の域に達していたし、授賞式自体もコンパクトにまとまっていた。
唯一ケチをつけるとすれば、ひと月も早くアカデミー賞が終わってしまったことぐらいか。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi