コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第45回

2003年9月9日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE
「キル・ビル」
「キル・ビル」
クエンティン・タランティーノ監督
クエンティン・タランティーノ監督

まったくもって情けない話なのだけれど、いまだに英語が苦手である。渡米したてのころは、1、2年もすればネイティブ並に話せるようになると思っていたのだけれど、それから8年以上が経ったいまも、コンプレックスは消えていない。いまではさすがに、映画を観てわからないことなんてないし(あ、でもイギリス映画は苦手だ)、英語での取材もすでに数百本もこなしている。昨年、実力試しのために受けたTOEICも925点と、悪くないスコアだった(在米8年の人間にとっては、むしろ情けない成績なのかもしれないが)。

でも、英語での会話は、いまだにきつい。きっと、日本語を話すときよりも、数倍のエネルギーを消耗しているのだと思う。日本語だったら、たいした努力をしなくても会話を続けていくことができるのだけれど、英語の場合、外国語ということもあって、どうしてもタイムラグが生まれてしまう。ナチュラルなスピードで会話をしようとしたら、相手の言葉に耳を傾けながら、想像力をフル回転させて話の流れを読み、その予測に基づいて次の発言を考える、などということをやらなければいけない。これは当然、疲れる。

そんなぼくにとって、タランティーノ監督の取材は悪夢のようだ。トークのスピードがおそろしく速いうえに、話題があっちこっちに行くものだから、まるで暴れ馬に乗るようなものなのだ。6年前、「ジャッキー・ブラン」で取材したときは、相手のペースに飲み込まれたまま、ほとんどなにもできなかった。そんな苦い経験があるから、最新作「キル・ビル」の公開に合わせて取材できると聞いたときから、胃が痛かった。

画像3

しかし、インタビューは大成功だった。久々に会ったタランティーノ監督は、以前とまるで変わらないスピードで喋りまくったのだが、彼の長くてランダムな話をきちんと追うことができたし、タフな質問をぶつけることもできた。まるでテニスの試合で、ものすごいハードヒッターを相手に、ラリーを続けることができたような気分だった。

どうしてこんなにうまくいったのか、自分でもよくわからない。英語力がアップしたからだと思いたいけれど、たぶんそうじゃない。変化があったとすれば、それはタランティーノ監督のほうだ。久々の新作で、しかも、まだほとんど取材を受けていないから、新鮮な気持ちで映画を語ることができるのだ。「キル・ビル」に対する思い入れがダイレクトに伝わってきて、ぼくのほうまで興奮してきてしまったから不思議である。じっさい、取材前よりも、後のほうが「キル・ビル」という作品に愛着を抱くようになっていた。劇場公開されたら、もう一回観ようかな。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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