コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第274回
2016年6月22日更新
第274回:AIを題材にしたクライムサスペンス「パーソン・オブ・インタレスト」を解説!
クライムドラマの「パーソン・オブ・インタレスト」がついに幕を閉じる。初回から追ってきた僕にとっては残念なことだけれど、これほどカルトなドラマが、アメリカで視聴率ナンバーワンを誇るCBSで5シーズンにも渡って放送されたことは奇跡だと思う。
簡単におさらいをすると、「パーソン・オブ・インタレスト」は、天才プログラマーのフィンチ(マイケル・エマーソン)と元CIAのリース(ジム・カビーゼル)を中心とする有志が、未来の凶悪犯罪を未然に防ぐために奔走するという一風変わった犯罪捜査モノだ。
犯罪予知を扱っている点ではトム・クルーズ主演の「マイノリティ・リポート」と似ているけれど、決定的な違いがひとつある。「マイノリティ・リポート」では、プリコグと呼ばれる複数の超能力者が未来予測を行っていたが、「パーソン・オブ・インタレスト」ではアメリカ政府によって極秘開発された「マシン」と呼ばれる犯罪予知システムという設定だ。携帯電話や監視カメラ、電子メールなど国家安全保障局(NSA)などの政府機関が収集する膨大な個人データを利用する仕組みで、エドワード・スノーデンが国家による盗聴活動を告発する2年も前に、こうした設定を取り入れていた。
さらに、マシンと呼ばれるこのシステムの正体は、フィンチが開発した人工知能(AI)であることが明らかになる。AIの危険性を誰よりも危惧していたフィンチは、現行のマシンの運用をはじめるまでに、実に40以上ものAIを開発しては消去した過去を持つ。それまでに生み出したAIが、いずれも管理者であるフィンチの殺害を試みたためで、たまたまマシンだけが善良なAIとして生まれた。マシンに厳格な倫理観を教え込んだフィンチだが、用心深い彼は心を許していない。毎晩12時になると、マシンの記憶を自動で消去し、勝手に成長できない仕掛けを施しているほどだ。
そう、「パーソン・オブ・インタレスト」は表面上は1話完結型の犯罪捜査ドラマだが、その実態はAIを題材にしたSFスリラーなのだ。いまでこそAI開発が注目を集め、その可能性や危険性が活発に議論されるようになったけれど、クリエイターのジョナサン・ノーランは5年も前からAIをドラマに導入し、いつのまにメインテーマに据えている。シーズン3ではマシンのライバルとなる「サマリタン」という邪悪なAIが登場し、選挙結果を操作したり、経済危機を引き起こしたり、疫病を流行させたりする。統制と粛清により世界に秩序をもたらそうとするサマリタンを、果たして主人公たちは阻止できるのか、というのが大きなストーリーになっている。
これほど野心的なドラマが、「NCIS ネイビー犯罪捜査班」のような分かりやすい犯罪捜査ドラマを多く抱えるCBSで、よくもここまで続いたものだと思う。フィナーレとなるシーズン5はエピソード数を半減させられてしまったけれど、壮大なストーリーがきちんと収束に向かっているし、シーズンが短くなったぶん、それぞれのキャラクターの命運がよりエモーショナルに描かれている。とくにフィンチとマシンとの親子関係が涙を誘う。時代のちょっと先を行っていたSFドラマの完結を心から祝いたいと思う。
「パーソン・オブ・インタレスト」最終シーズンは、字幕版が8月22日午後10時、二カ国語版が23日午後11時からAXNで放送開始予定。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi