コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第263回
2015年6月3日更新
第263回:ドウェイン・ジョンソン主演のディザスター大作「カリフォルニア・ダウン」
「カリフォルニア・ダウン」という新作映画が、全米ボックスオフィスで1位に輝いた。実はこの映画、その題材ゆえに日本での劇場公開が延期になっている。ただ、ドウェイン・ジョンソン主演の大作映画だし、アメリカ以外でもヒットをするはずなので、どんな作品か紹介しておきたいと思う。
題名となっているサンアンドレアスとは、カリフォルニア州にある巨大断層の名前で、過去に何度も大地震を起こしてきた。有名なのが、1906年のサンフランシスコ地震で、このときのマグニチュードは7.8だった。この巨大断層がいまマグニチュード9以上の地震を引き起こした場合、カリフォルニア州はどうなってしまうのか? その恐怖のシナリオを描いたパニック映画が「カリフォルニア・ダウン」なのだ。
主人公は、ロサンゼルス消防署所属のヘリコプターパイロット、レイ(ドウェイン・ジョンソン)だ。彼には離婚間近の妻(カーラ・グギーノ)と娘がいる。地震発生時、一人でヘリコプターを操縦していたレイは、ロサンゼルスのダウンタウンにいた妻を救出。その後、サンフランシスコにいる一人娘を助けるために、夫婦で長い旅に出る、というストーリーだ。
見所はやはりVFXを駆使した地震災害の映像で、フーバーダムやロサンゼルスのダウンタウンにある高層ビル群が崩壊し、おまけに巨大津波がサンフランシスコを襲う。映画を見る前は、地震をネタに金儲けをしやがって、と、製作者に対して否定的な気持ちを抱いていたのだけれど、家族の再生が物語の核にあって、地震発生時の対処法も学べるようにもなっているので、意外にも良心的なエンターテイメント作品だと感じた。レイが消防士としての任務を放棄して――しかもレスキューヘリを私物化して!――娘捜しに出かけてしまう点とか、ストーリー的には突っ込み所があるけれども。
ただ、日本での上映が延期になったのは正解だと思う。東日本大震災の記憶はまだ新鮮で、わざわざお金を払ってまで追体験したいと思う人は稀だろう。むしろ、この映画で明らかになったのは、アメリカ人にとって地震が非日常の出来事である点だ。僕自身、アメリカで地震がもっとも発生するといわれるカリフォルニア州にずっと暮らしているけれど、はっとするような揺れは年に1、2回くらいしかない(最近ちょっと増えているけど)。地震を体験したことがないアメリカ人も少なくなく、だからこそこのような作品が現実逃避のエンターテイメントとして成立するのだと思う。
さて、非常用の備品の買い出しに行くか。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi