コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第221回

2013年4月16日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第221回:“モンスターズ・ユニバーシティ”に入学!? ピクサー本社で先行取材!

「モンスターズ・ユニバーシティ」の校門に到着
「モンスターズ・ユニバーシティ」の校門に到着

ロサンゼルスに暮らしているのであいにくお花見の機会はないけれど、僕にはそれに匹敵するくらい素敵な春の恒例行事がある。毎春ロングリード・プレス・デーと呼ばれるものがピクサー本社で実施され、夏に全米公開される最新作の先行取材ができるのだ。

毎年この時期にピクサー詣でをさせてもらっている僕だけれど、今回はとくに感慨が深かった。なにしろ、はじめてのピクサー取材が2001年の「モンスターズ・インク」だった。アニメに偏見を持っていた当時の僕は、作品のレベルの高さに驚いたのはもちろん、ストーリー至上主義のピクサーの理念にうれしい衝撃を受けた。それからピクサーを追い続け、個人的には大好きな作品も、あまりそうではない作品もあるけれど、そもそものきっかけを与えてくれた「モンスターズ・インク」は常に特別な存在なのだ。

そして、ピクサーの最新作がなんと「モンスターズ・インク」の前日譚「モンスターズ・ユニバーシティ」である。モンスターズ株式会社で働くマイクとサリーの大学時代を描く野心作なのだ。

まるで本物の大学!
まるで本物の大学!

大型バスに揺られてピクサーに到着すると、見慣れない門ができていた。よく見ると、「モンスターズ・ユニバーシティ」の劇中に登場する校門で、それをくぐるとブラスバンドに歓迎された。ピクサー取材では、いつも映画に合わせた催し物が用意されていて、今回のテーマはずばり大学生活。僕ら記者はモンスターズ大学の学生証を渡され、新入生としてピクサーに足を踏み入れることになったのだ。創業者にちなんでザ・スティーブ・ジョブズ・ビルディングと改名されたピクサー本館前には、大学の掲示板があったり、さまざまなサークルの勧誘があったりと、いつもながら凝っていた。

監督やプロデューサーに取材をする前に、映画に関わったスタッフによるデモンストレーションを受けることになるのだが、今回は講義形式だった。ストーリー作りは「英文学」、キャラクター作りに関しては「社会学」、照明やカメラ、シミュレーションなどのテクニカル面の解説は「物理学」と、それぞれ立派な名前がついていて、「モンスターズ・ユニバーシティ」の製作経緯についてアーティストやエンジニアたちのレクチャーを聞いていると、本当に大学時代に戻ったような気分になった。

正直に告白すると、「モンスターズ・ユニバーシティ」にはそれほど期待していなかった。単純な続編ではなく、前日譚にしようというアイデアそのものはとてもスマートだと思う。前作は美しい形で完結してしまっているから、どんな続編を作っても蛇足になる。それでもフランチャイズ化しなければいけないであれば、プリクエルにして、学園映画にジャンル変更してしまえば、新たな魅力が加わる可能性がある。アメリカのコメディ映画には、「アニマルハウス」から「アダルト♂スクール」に至るまで、カレッジ・ムービーというサブジャンルが存在するが、アニメが挑戦したことはなかったからとても新鮮だ。

モンスターズ大学の学生証
モンスターズ大学の学生証

ただ、この路線ではコメディだけが強調されて、前作にあったエモーショナルな部分が欠落してしまうんじゃないかと僕は心配していた。「モンスターズ・インク」が傑作なのは、少女ブーとサリーとのあいだに生まれる特別な友情と、そんなサリーを応援するようになる親友マイクの優しさがしっかり描かれていたからだと思っているからだ。

でも、講義を受けたのちに、監督らの話を聞いて、そんな心配は杞憂にすぎないと悟った。「モンスターズ・ユニバーシティ」は、単なるドタバタコメディではなかったのだ。期待に胸を膨らませて入学した新入生マイクが、厳しい現実に直面し、挫折を味わったのちに、自分の本当の適性を見いだしていくさまが描かれる。つまり、若いころに誰もが体験する、自己発見のプロセスを題材にしているのだ。こんなリアルで普遍的なテーマをちゃんと用意しているとはさすが。早く完成作が見たいと思う。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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