コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第21回
2001年9月3日更新
ベン・アフレックがアルコール依存症でリハビリ施設に入ったというニュースを聞いて、ぼくはけっこう衝撃を受けた。いや、とくに彼のファンというわけではないのだけれど、その手のスキャンダルとは無縁の俳優だと思っていたからだ。比較的遅咲きの彼は、勤務態度も良く、業界内での評判も上々だ。これまでなにかトラブルを起こしたことはないし、親友のマット・デイモンとともに若手映画監督を支援する活動をしたりしてとても模範的な役者である。彼が入った施設はマリブにある「プロミセズ」というところだが、これまでここにお世話になったチャーリー・シーンやクリスチャン・スレーター、ロバート・ダウニー・ジュニアなどの「問題児」とは明らかにタイプが異なるのだ。いや、確かに目つきは悪いけど。
ベン・アフレックまでがトラブルに巻き込まれたことで、ぼくはあらためてハリウッドの恐ろしさを実感した。これまで数え切れないほどのセレブリティたちが、ハリウッドで名声に溺れ、悲惨な結果を迎えている。が、バブルに溺れ、ドラッグとセックスにまみれた80年代に比べれば、いまのほうがよっぽど慎ましい生活をしているはずなのに、それでもドロップアウトするセレブリティは後を絶たない。ここ最近だけでも、ロバート・ダウニー・ジュニア、マシュー・ペリー、メラニー・グリフィス、マライア・キャリー、そしてバックストリート・ボーイズのA.J.マクリーンがリハビリ施設に入っている。
その原因としてよく指摘されるのが、業界の体質だ。セレブリティになると、取り入ってなんらかのメリットを享受しようとする連中に囲まれることになる。連中らはご機嫌を取ろるためだったら、どんなものでも与える。浮かれているうちに、いつのまにか中毒者になっているセレブリティも多いという。
いったん中毒者になってしまうと、更正しづらいのがこの業界の特徴だ。タレントが更正のために休業してしまうと、マネージャーやエージェント、パブリシストなどの取り巻きはギャラが手に入らなくなる。だから、たとえ本人のために良くないと思っていても、親身になってアドバイスするものはいない。問題が表面化する日まで、こきつかうのである。
つまりハリウッドは誘惑だけが多くて、一度足を踏みはずすと戻りづらいところなのだ。よっぽど強い信念があるか、守るべき家庭がなければ、だれでも足をすくわれる可能性がある。長くハリウッドに君臨しているセレブリティには、家庭人やサイエントロジーの信者が多いのはそういう理由があるからかもしれない。
そういう意味で、ベン・アフレックにはまだ救いがある。彼はトラブルを自覚して、自らリハビリ施設に入ったのだ。逮捕されたり、周囲に迷惑をかけるよりもよっぽどいい。将来を見据えた堅実な選択と言えよう。
つい先日、ぼくが仕事場としている近所のスターバックスに、ベン・アフレックが現れたという。リハビリ施設の出入りは自由らしく、最近サンタモニカのあちこちで目撃されているのだ。スターバックスの店員によると、アフレックの顔色はよかったそう。フラペチーノを買って、大量のチップを置いていったらしい。はやく復活できるといいですね。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi