コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第191回
2012年8月3日更新
第191回:「ダークナイト」のスピンオフ? 「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」
いい映画を見てとびっきりの感動に浸ったあとは、どういうわけかいつも寂しい気分に襲われる。理由は自分でもよくわからないのだけれど、感動できる映画に巡りあう機会が極端に少ないことと関係しているかもしれない。ようやくいい映画に出合えたという幸福よりも、今後当分はハズレを引き続けなきゃいけないという展望に暗澹とした気分になる。幸せなはずなのになぜか悲しくなってしまうという症状は、マタニティブルーに似ているかもしれない。もちろん、そっちのほうは経験したことはないけれど。
「ダークナイト ライジング」を見たあと、僕はしばらくブルーになっていたのだけれど、あるきっかけで復活した。「ダークナイト ライジング」は、クリストファー・ノーラン監督による3部作の最終章ではあるけれど、同様の物語世界がドラマで継続中であることに気づいたからだ。ジョナサン・ノーランが企画・製作総指揮を務める新ドラマ「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」が、それである。
実はこのドラマに関しては、昨年ご報告している。(http://eiga.com/extra/konishi/153/)
でも、当時はまだパイロット版(第1話)しか見ていなかったし、なにより製作総指揮を手がけるJ・J・エイブラムスの新ドラマとして注目していた。しかし、「ダークナイト」3部作を見たあとに、シーズン1を見直すと、驚くほど違った印象になった。「ダークナイト」、「ダークナイト ライジング」の脚本を担当したジョナサン・ノーランが手がけているだけに、「ダークナイト」シリーズのスピンオフとして楽しめるのだ。
「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」は、未来の犯罪を予知できる〈マシン〉を開発した大富豪フィンチ(マイケル・エマーソン)が、元CIA捜査官ジョン・リース(ジム・カビーゼル)の力を借りて、たったふたりだけで犯罪防止に取り組む、という一風変わった犯罪捜査ドラマだ。マシンが提供するのは犯罪に関与する人物の社会保障番号のみで、加害者になるのか、被害者になるのかも分からない。リースとフィンチは、事件発生までに情報収集を行い、犯罪を未然に防がなくてはならないのだ。
架空の街ゴッサム・シティを舞台にした「ダークナイト」シリーズを異なり、こっちは実在のニューヨークが舞台だから、物語設定はずっとリアルだ。でも、暗い過去を背負っている点も、正義感に駆られた闇のヒーローである点においても、ジョン・リースとブルース・ウェインはそっくりだ。ウェインがさまざまな道具を駆使して犯罪撲滅にあたるのに対し、リースはフィンチが提供する情報を武器にする。リースにとってフィンチは、ルーシャス・フォックス(モーガン・フリーマン)とアルフレッド(マイケル・ケイン)を合わせたような存在なのだ。執拗にリースを追う女性刑事カーター(タラジ・P・ヘンソン)とは、やがてバットマンとゴードン警部(ゲイリー・オールドマン)のような信頼関係が生まれていく。
なにより共通するのは、ノワール調の物語世界と、痺れるほどハードボイルドなヒーロー像だ。もし、ブルース・ウェインの物語を現実に移し替えたらこんな感じになると思う。「ダークナイト ライジング」に感動した人は、ぜひ挑戦してみて欲しい。
海外ドラマ「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」は、8月からAXNで放送開始。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi