コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第187回
2012年7月3日更新
第187回:アンチヒーローの行く末は? 「ブレイキング・バッド」最終章へ
海外ドラマ「ブレイキング・バッド」の最終シーズンの全米放送がスタートした。
「ブレイキング・バッド」は、肺がんで余命わずかと宣告された高校の化学教師が、家族に遺産を残すために覚醒剤の精製に手を染める、という過激なストーリーだ。
今回で第5シーズンになるのだが、クオリティが落ちるどころか、ますます刺激的になっているのがこのドラマのすごいところだ。その理由は、アメリカのドラマには珍しく、主人公の性格がどんどん変わっていくことだろう。抗がん治療が効き延命に成功するも、裏社会と関わってしまったために、自分ばかりか家族まで命の危険にさらす羽目になる。彼が生み出す高濃度の覚醒剤はたちまち人気商品となるが、大量にさばくためにはギャングやカルテルの力を借りなくてはならない。いくつもの危ない橋を渡り、どんどん泥沼にはまっていくなかで、気弱で善良な市民だった主人公は、いつしか狡猾なワルに成長していくというアンチヒーローの物語なのだ。
とくに、昨年アメリカで放送されたシーズン4は出色の出来だった。表と裏の顔を持つ最大の敵との対決が、ひりひりするような緊張感のなかでじっくりと描かれるのだ。まるで全13話からなる極上の犯罪映画で、その壮絶なクライマックスと冷酷などんでん返しには、昨年見たどの映画よりも衝撃を受けたものだった。
これから放送開始となるシーズン5で、「ブレイキング・バッド」は終了することになる。打ち切りではなく、企画・製作総指揮のビンス・ギリガンが希望したことなので、潮時ということなのだろう。残念だけれど、最高潮のときに番組終了を選ぶのは、いかにも「ブレイキング・バッド」らしい。長く壮絶な旅路の末に、主人公を待ち受けているものはなにか? 残りの全16話をしっかり見届けたいと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi