コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第185回
2012年6月21日更新
第185回:マーク・ウォールバーグが主演した、抱腹絶倒の傑作コメディ「テッド」
成り行きで映画を見ることが生業になってしまったので、自分の好みに合わないものもたくさん見なくちゃいけないのだけれど、おかげで思わぬ良作に出合うことがある。マーク・ウォールバーグ主演の新作コメディ「テッド(原題)」は、まさにそんな作品だ。クマのぬいぐるみとウォールバーグが映ったポスターを見てもピンとこないし、得体の知れない映画のために、時間とお金を費やそうと思う人なんてあまりいませんよね? この仕事をしていなかったら、きっとスルーしていたと思う。
でも、今年からゴールデングローブ賞の投票をすることになるので、可能な限り多くの映画を見なくてはいけないという事情がある。おかげで、この傑作コメディに巡り合うことができたのだ。
「テッド」の物語設定は、パッとみるとよくあるおとぎ話だ。友達がひとりもいない少年ジョンは、ある晩、星に願いをかける。「クマのぬいぐるみのテッドに、どうか命を与えてください。そうしたら、一生大事にします」と。その願いはかなえられ、テッドはジョンにとって唯一無二の親友となる。めでたし、めでたし。
もちろん、ここで物語は終わらない。「テッド」がユニークなのは、よくあるおとぎ話の続きを描いている点だ。命が宿ったぬいぐるみはその後どうなるのか? 子どもが大人になっても、ぬいぐるみと付き合い続けるのか? 「テッド」は、たぶんだれも気にかけたことがないだろうけれど、考えてみればたしかに気になる疑問と向き合っているのだ。
物語は27年後で幕を開ける。35歳になったジョン(ウォールバーグ)は、いまだにぬいぐるみのテッドと一緒に暮らしている。仕事をさぼっては酒を飲み、くだらないジョークを言い合う日々。収入がなくても、同棲中の恋人ロリ(ミラ・クニス)がしっかり働いてくれているから大丈夫だ。しかし、いつまで経っても大人になれないジョンについにロリは愛想を尽かし、すべての元凶であるテッドを部屋から追い出す。かくして、テッドは人生で初めて一人暮らしをすることになるのだが――この物語世界では、テッドは昔懐かしの人気子役程度にしか注目されない――、外見は可愛らしくても中身はスケベな男子だから、あらゆるトラブルを引き起こしていくことになる。
「テッド」は、人気アニメ「ファミリー・ガイ」のクリエイター、セス・マクファーレンの監督デビュー作だ。だから、過激なジョークが満載で、アメリカでは当然のごとくR指定になっている。驚くべきは、冒頭からエンディングまでバカバカしい笑いであふれているのに、感動作に仕上がっていることだ。ジョンとテッドの友情が物語の中心にしっかり根を下ろしていて、しかも、CGでできたぬいぐるみがよく出来ているから(声と動作は、マクファーレン監督自身が担当している)、非現実的な設定であるにもかかわらず、物語世界に没頭できるようになっているのだ。
たとえば、ジョンとテッドとのケンカの場面がある。「ボーン・アイデンティティー」並の激しさで、人間VSぬいぐるみの戦いが描かれる抱腹絶倒の場面だが、拳をぶつけ合うふたりの胸中を想像すると切なくなる。腹が痛くなるほど笑わせておいて、涙まで誘うなんて、ほんとすごい映画だと思う。
「テッド(原題)」は、2013年公開予定。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi