コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第159回
2011年11月18日更新
第159回:世界のマリリン・モンローと青年の禁じられた1週間
アメリカでは年末になると、アカデミー賞狙いの良作が次々と封切られる。こうした作品は得てして小規模作品のため――ハリウッドにおいて製作費の高さとクオリティの高さはたいがい反比例の関係にある――、日米で同時公開されることはない。大抵は、アカデミー賞の結果に応じた規模で公開されることになるのだが、洋画ファンならばアカデミー賞前哨戦で話題になっている作品をリアルタイムで見たいと思うのが当たり前だろう。
そこで、先週の「ザ・ディセンダンツ(原題)」に引き続き、今年の賞レースで話題になりそうな「マイ・ウィーク・ウィズ・マリリン」という新作映画をご紹介。タイトルから明らかなように、マリリン・モンローを題材にした作品だ。
1956年の夏、マリリン・モンローが渡英する。夫の劇作家アーサー・ミラーとの新婚旅行を兼ねて、ローレンス・オリビエ主演、監督作「王子と踊子」でヒロインを演じるためだ。セックスシンボルとして見られていたモンローにとっては、オリビエとの共演は女優として地位を確立する絶好のチャンスだった。しかし、モンローは経験豊富な英俳優陣を前に萎縮し、私生活でのトラブルも重なって、映画出演どころではなくなる。追い詰められたモンローが救いを求めたのは、下っ端の助監督として働いていた23歳の若者だった。かくして、世界的アイドルとイギリスの名もない若者は、親密な関係を築くことになる――。
にわかには信じがたい話だが、「マイ・ウィーク・ウィズ・マリリン」は実話を下敷きにしている。当時、23歳だった映画作家のコリン・クラークは40年後、自叙伝「The Prince, the Showgirl and Me」を発表。「王子と踊子」の撮影体験を日記形式で綴ったものだが、なぜかある1週間の出来事が省かれていたため、さまざまな憶測を呼んだ。その疑問に答えるように、クラークは続編「My Week With Marilyn」を執筆。そこには、前作で割愛したモンローとの禁じられた1週間が綴られていた。「マイ・ウィーク・ウィズ・マリリン」は、クラークが執筆した2冊の自叙伝をもとにしている。
映画ファンにしてみれば、モンローの素顔やその映画製作の裏側を垣間見ることができるだけでも十分な魅力だが、「マイ・ウィーク・ウィズ・マリリン」は青春映画としても成立している。
裕福な家庭に生まれ育った若者は、周囲の反対をよそに映画界に飛び込む。はじめてスタッフとして関わった作品が「王子と踊子」であり、モンローと美人の衣装アシスタント(「ハリー・ポッター」シリーズのエマ・ワトソンが演じている)との三角関係に悩むという、なんともうらやましいストーリーなのだ。
一番の見所といえば、やはりモンロー役のミシェル・ウィリアムズだろう。他の女優なら物怖じしそうな難役に果敢に挑戦した彼女は、偶像マリリン・モンローと、か弱いノーマ・ジーン、さらに「王子と踊子」の踊子エルシーと3つの側面を見事に演じ分けている。僕自身、冒頭ではウィリアムズとモンローとの外見の差異が気になったが、あとになってモンローとして見ている自分に気がついた。主演女優賞候補として大いに注目を浴びることになると思う。
「マイ・ウィーク・ウィズ・マリリン」は、2012年3月公開予定。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi